第6章 悪心(吐気)と嘔吐


原典 Nausea and Vomiting
URL: http://www.collmed.psu.edu/pedsonco/Chapter06.OL.html
訳者: Grandpa Tony@Dinosaur
Eメール:[email protected]

[この家庭でのケアに関する情報はほとんどの状況に当てはまると思われますが、そうではない場合もあります。医師や看護婦がここに書かれていないことを勧めるときは、その指示に従って下さい。緊急事態だと思われる場合は、「専門家の助力を求めるのはいつか」の項に直接進んでください]

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問題を理解する


吐き気や嘔吐が気になるのは当然です。過去2〜3年ほどの期間に、この吐気や嘔吐をコントロールする方法が、たくさんわかってきました。その結果、ガンの治療を受けている子どもや若者が嘔気に悩まされることはずいぶん少なくなりました。

中には、ガンやその治療、あるいは他の薬剤による嘔気や嘔吐を全然経験せずにすむ子どもの患者さんや未成年の患者さんもいらっしゃいます。又、一方では、患者さんそれぞれの病状の異なる時期に、受けた治療の内容やその治療に対する反応の違いによって、吐き気か嘔吐、あるいはその両方の症状が現れる人もいらっしゃいます。

あなたの目標

専門家の支援をもとめるのはいつか


まず第一に、お子さんに医療専門家の支援が必要であるかどうかを考えることです。次に述べる事柄のうち一つでも当てはまるようなら医院、医師、看護婦に早急に電話をしてください。

吐いた物に血あるいはコーヒーかすのような物質が混じっている
コーヒーかすのような物質とは実は古い血の固まりで、体内で出血があったことを示すものです。このようなことはまれですが、重要なので報告してください。
嘔吐が、あなたが思う許容範囲を超えて、頻回に起こるとき
20章の水分チャートを調べてください。医師や看護婦に回数について尋ねてください。子どもや未成年では、多くの場合、1時間に3回嘔吐し、それが4時間以上も続く場合は重症ですが、個人差があります。
ピューッと飛び出るように嘔吐するとき(噴出性嘔吐)
噴出性嘔吐は胃や腸に問題があっておこる場合もあります。そのような場合には医師による診察を行なうべきです。
お子さんが吐き気や嘔吐のために処方された薬を2回分服用できなかったり、嘔気や嘔吐のために飲み込んだ薬がもどってしまうようなとき
錠剤が胃におさまるようになるまで、別の経路(違う剤形)で薬を投与する必要があります。
お子さんが水分を少量しか摂らず、固形の食事を一切取らないとき
医師や看護婦が数値を書き込んだ水分摂取の表を調べることです。同様に尿の排泄量もチェックしてください。まだお子さんが小さい場合、8時間から12時もの間、おむつが濡れていないようであれば要注意です。少し年上のお子さんでも12〜16時間もトイレ(排尿)に行かないようであれば要注意です。医師あるいは看護婦に、コップで何杯ほど水分を飲ませれば良いのか尋ねてください。嘔吐が続いて、水分が取れないでいると脱水状態になります。お子さんが体力を保ち、病気と闘うためには栄養が必要です。一般的には、お子さんや未成年の人たちは24時間にコップ4杯以上の水分を飲む必要があります。しかし、必要な水分摂取量も個人差があるので、主治医か担当の看護婦が書きこんだ液体チャートを参照し、どのくらい飲食をしないときには電話をするか、そのタイミングを決める必要があります。
嘔気や嘔吐にともなって、ひどく体が弱ったりひどいめまいが起こる場合
吐き気のあるときには少し体が弱ったり、めまいが起こるのは当然ですが、患者さんが起き上がれないような場合には、医師か看護婦に連絡を取る必要があります。
嘔吐の最中にひどく胃が痛む場合
ひどい痛みがある場合は、必ず医師に連絡を取りましょう。
あなたがとても心配で、すぐに情報や忠告を必要とする場合
この家庭でのケアに関する情報の内容を守ってはいるが、それでも心配だという場合は連絡しましょう。


医師や看護婦に電話をすると、次の事柄について質問があるでしょう。

  1. 吐き気はいつから続いていますか?
  2. 吐き気はいつ始まって、どの程度続きますか?
  3. 直近の吐き気はどの程度ひどいものでしたか?
  4. 吐き気のせいで日常生活がどの程度阻害されていますか?
  5. 吐き気や嘔吐に対して薬が処方されていますか?
    薬の名前は?
    服用する回数は?
    一回の服用量は?
    この二日間で何回服用したか?
    薬を飲んでどの程度症状が緩和されたか?
    その効果はどの程度続いたか?
  6. 吐き気止めを与えるだけでなく、お子さんが気分が良くなるよう何をしてあげたか?また、その効果はどうであったか?
  7. 吐き気に続いて嘔吐はあったか?
  8. 吐いたものの様子はどのようであったか?以前に吐いたものと同じ色か?もし違うのであればどのように違ったか?
  9. この24時間の間に何回ほど嘔吐があったか?
  10. 嘔気や嘔吐が始まってから新たに何か別の症状はないか?
    新しい症状があればそれぞれについて以下のような問いに答えられるようにしましょう
    症状はなにか?
  11. この24時間でお子さんは何をどの程度食べたか?
  12. この24時間でお子さんは何をどの程度飲んだか?排尿の量は普通であったか?
  13. この二日間で排便は何回あったか?便の量と色はいつもと同じであったか?
  14. 吐き気のあるとき体温はどうか?
  15. ガンの治療を前回最後に受けたのはいつか?


次は、電話時の会話の一例です。

"私は、アイリーン ダンで、ジェニファー ダンの母親です。娘は、チャン先生の患者で、神経芽腫の治療を受けております。吐き気に関する家庭での看護ガイドに制吐剤を二度服用した後でも嘔吐があれば電話をするようにと書いてありましたので、お電話をいたしました。"

あなたにできることは何か


吐き気や嘔吐に対処するためにあなたのできることは三つあります。

吐き気止めを上手に使う
・あなた自身で嘔気や嘔吐を制限する
・脱水状態にならないようにする

●吐き気止めを上手に使う
薬ビンのラベル(日本では薬の袋やラベル)に書かれている内容(使用上の注意や使用法)、ならびに看護スタッフから指示されたことをきちんと守っているかチェックしてください。吐き気止めの効果が最も得られる方法をここでお話しします。とくに、化学療法の前後に効果的です。

お子さんに制吐剤を与える場合には、規則的に行なう。
化学療法の前に、処方された吐き気止めを服用させましょう。
お子さんには、4から6時間ごとあるいは処方されたとおりに、少なくとも12から24時間は継続して薬を与えましょう。吐き気や嘔吐が続いている間は継続して与えましょう。血液中で十分な薬剤濃度を保つために、吐き気止めを規則的な間隔で服用させる必要があります。
化学療法を受ける前そしてその後に、吐き気止めを服用させる。
薬の効果を得るためには、お子さんの血液中に薬品の成分が十分に含まれている必要があります。このため、化学療法を受けるお子さんたちは事前に吐き気止めを服用し、化学療法が終わってからも4時間から6時間ごと、あるいは医師の指示どおりにその薬を服用し続けなければならないのです。
食事の30分前に吐き気止めを服用する。
薬が吸収されるように食事をする30〜60分前に服用しましょう。液体の薬は錠剤よりもすばやく吸収されます。
吐き気止めは食物に対する拒絶反応を和らげ、食事中に吐き気がしないようにしてくれます。


あなた自身で嘔気や嘔吐を制限する
以下に示すのは吐き気や嘔吐を低減するするためにあなた自身に何ができるか、そのアイデアの一覧です。まず手始めに過去に役に立ったこれらのアイデアを実践し、新しいアイデアも合わせて試みてください。どのようなアイデアでも試さなければ役に立つかどうかは分かりません。
次のことを実行するようにお子さんに勧めてください。

食事は治療の直前ではなく、治療の3〜4時間前にとらせること
そうすると食べたものが胃の中に残っているので、身体に必要な栄養を取りこむことができます。その後は、1日をとおして軽い食事を何回も与えましょう。治療の直前にお子さんの胃が空っぽになるようにすることも、それが一番良いと分かれば試してみましょう。
揚げ物、乳製品、や酸味のあるフルーツジュースや酢を使ったサラダドレッシングは避けること
これらの食べ物は消化が悪く、吐気をひどくさせることがあります。
お子さんが誤飲などの危険がない年齢に達していれば、チューインガムや硬いアメなどをあたえること
ペパーミントやフルーツ味を試してみる。これらは治療期間での不愉快な味覚を隠す効果があります。
家の中では新鮮な空気を取り入れ、あるいは天気の良い時には外気に当てること
より多くの酸素を取り込むと吐き気のむかむかが落ち着きます。口を大きくあけて数分呼吸するように勧めるか、窓を開けましょう。
吐き気があるときは眠ること
吐き気があるときは、横になっているとおさまると言う人もいらっしゃいます。吐き気止めで眠たくなることもあり、吐気のある間、眠りやすくなります。
乾性クラッカーを与える。
つわりのある妊婦さんや、ガン患者さんにもパリパリしたクラッカーは良いものです。(訳者注: 乾性クラッカーとあえて書いたのは、レーズンなど入ったような湿性のものと区別するためで、訳者自身も治癒した口腔部のガン患者で治療の影響が多く、未だクラッカーは常備品として常用中です。)
鼻につく不快な強い臭気を避ける。
お子さんを台所から遠ざけましょう。不快なにおいを嗅いで吐き気を催すのを防ぐには、口で呼吸をするのが効果的なこともよくあります。

できる限り回数を多く嗽(うがい)をさせる。(食塩水か水道水ですすぎます。市販のうがい薬はいけません)

口を何回も軽くすすぐことで口内の嫌な感じを取り除くことができます。

休養を取らせる。

着替えや散歩といった日常生活の合間に短時間の休息を取らせましょう。気分が楽になると、吐き気を催さなくなります。

注意をそらす。

テレビを観たり、読書をしたり、あるいはゲームをしたりすることで、お子さんは吐き気があまり気にならなくなります。また、子どもの療育相談スタッフの提言を聞いてみることも参考になるでしょう
精神的な緊張を解いて、リラックスするように促す。
ガンに罹ったお子さんが緊張して神経質になっていると、すべての身体的な症状が強まります。リラックスすると症状が苦にならなくなる、と多くの患者さんが言っています(リラックスの実践についての詳しい説明は、家庭でのケアに関する情報の(親御さんの不安の項を参照してください)

●脱水状態にならないようにする
嘔吐の30分後に水分をすこし摂るか、あるいは氷のかけらを口にする。お子さんが吐き終わって落ち着いてから、食べ物や飲み物を勧めましょう。小さなお子さんの場合には、水分をティースプーンかテーブルスプーンで飲ませてみてください。年上のお子さんであれば、一回に一オンス(30cc程度)が良いでしょう。炭酸飲料は、(ガスがこみあげて)吐き気を助長するので、飲む前にスプーンで勢いよくかき混ぜて炭酸の気を抜いてから飲むことです。



考えられる問題


あなたの計画を進めるうえで妨げになると思われる見解や態度について考え、どうすればそれらが克服できるのかを考えましょう。
よくある問題の例を挙げます。

"吐いてもいないのに、うちの子にどうして吐き気止めを飲ませなくてはいけないの?"
アドバイス:化学療法によって患者さんはしばしば吐き気を催すことがあります。そのため、事前に薬を服用し、その後も服用しつづけて、効果があるように血流内に一定の薬の濃度を行き渡らせることがお子さんにとって大切なことなのです。薬の効果を得るためには、お子さんが薬を処方されたとおりに服用し、それを12時間から24時間継続しなければなりません。吐き気が始まるまで待つのは問題を悪化させるだけです。そのようなことがあるとお子さんたちは効果があるはずの肝心な薬を体内にとどめられなくなるでしょう。


あなたの計画を実行し調整する


結果の点検
この家庭でのケアに関する情報に書かれているとおりに実践できているかどうかを、次のチェック項目で確認しましょう。お子さんの嘔吐の回数を数える、吐き気の程度を尋ねる、飲み込むことができた飲み物の量に気をつける、嘔吐が尿の排泄量に影響しているかどうか気をつける。


計画がうまくゆかないとき
お子さんの吐き気が悪化している場合は、「専門家の助力を求めるのはいつか」の項をもう一度参照してください。また、症状を低減するためにできること全てを実行したのかどうかを自問してみてください。吐き気がするためにお子さんが不安になっていたり、吐き気をコントロールすることがだんだん難しくなるようであれば、別の吐き気止めがあるのかを医師に尋ねてみてください。

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