第1章
家庭看護ガイドを利用して問題解決する
原典: Solving Problems Using The Home Care Guide
URL: http://www.collmed.psu.edu/pedsonco/Chapter01.OL.html
訳者: Grandpa Tony@Dinosaur
email: [email protected]
さて、小児ガンの克服については以前にも増して成果が上がりつつあります。ガン治療に関する科学的ならびに技術的進歩により、ほとんどの小児ガンにおいて長期生存・治癒の可能性が高まっています。また、それらに加えて症状や治療の副作用のコントロールも大いに向上し、今日では、ガンを患った年少者の生活の質向上がこれまで以上に得られています。
しかし、これらのガン治療に対する進歩は看護をより一層複雑なものにしています。治療には外科手術、放射線治療と薬物治療があげられます。そして治療の効果を観察するには頻回に及ぶ検査が必要です。また、ガンの治療は数ヶ月に及ぶこともあり、もし再発があれば治療の再開を行なう必要もあります。その結果、ガン患児や家族は、病気や長期間にわたる治療が及ぼす肉体的・精神的・社会的影響に、実に広範囲にわたって、取り組む用意が必要です。さらに、(大きな病院への)入院期間が短縮化され、近くの医院や診療所での処置がますます多くなるに連れて、家庭看護の責任がより重くなってきています。ですから、家庭看護をする人は医療介護チームの一員としてどんどん重要な存在になってきています。つい最近まで、看護の責任は医療従事者が果たすものと思われていました。今日では、医療従事者は、ガン患児への励ましのみではなく、薬剤投与、症状や副作用の管理、専門家の介入が必要なときを判断し報告すること―などの多くのことを家庭看護に頼っています。
専門家からの明確なガイドがあると、家族は家庭看護の責任を大変うまく果たせるということが経験的にわかっています。家族介護者は医療介護チームのメンバーですから、問題に対しては他のチームメンバーと一貫性をもって行動し、医療専門家と共同作業で看護する必要があるのです。この家庭看護計画はそのための指針です。これは、ガン患者の治療や看護に関わり永年の経験を持つ専門家と、実際に自宅で看護をしているご家族の力を借りて書かれたものです。ここでは皆さんが問題を解決するのに必要な情報、たとえば、・問題を理解すること、・専門家の力はいつ借りるべきか、・あなた自身にできることは何か、・考えられる問題は何か、また、・計画の実行と調整―などについての情報が得られるでしょう。ここにある情報は、専門家が医療の現場で医療上の問題に対処するために自らが使用しているものと同様な情報です。
この指導書は同時に、医療の専門家が、家庭で行われている看護の様子を観察したり指導を行なうためにも有意義なものです。家庭で介護者がこれらの計画に従って看護を行なっていれば、介護者がガン治療専門家により勧められた方法に従っているとわかります。さらに、いつ専門家の力を頼るべきかがガイドに書かれているため、これに従っていれば医師の診察を要するような事態がきたときには医師への連絡がある、と医療チームも安心していられます。
あなたの介護問題の有効なる解決とこの家庭看護指針を活用するのに役立つ四つのカギとなる考え方を紹介いたします。
この四つのカギとなる考え(アイデア)を思い出すにはCOPE(対処)という言葉を思い浮かべてください。
(訳者注:大変に気の重い介護問題を説明しているものですが、少し気持ちを楽にし、ドレミの歌の歌詞を思い出しながら読んでみてください。放射線治療による障害と闘っている訳者の体験を基にして申し上げたものです。)
- Cは創造性(Creativity - クリエティビティ)
- Oは楽観性(Optimism - オプティミズム)
- Pは計画性(Planning - プラニング)
- Eは専門家(Expert - エキスパート)からの情報
これからのページでは上で述べた四つの考え方について詳しく説明することになります。
問題とあなたにできる対処策についてエキスパート(専門家)情報を得る
- 問題を適確に解決するための基本は、問題に対する認識と問題に対して何ができるかという知識です。この在宅看護計画は介護問題を解決するのに必要な5種類の専門情報を提供しています。
- 問題を理解する
- 問題を明確にし、どのような人に起こりがちな問題か、どんなことで力になれるか、無理なく達成可能なのはどんなことかを述べています。
- 専門家(Eのエキスパート)の助力を求めるときはいつか
- この項では、どのような場合に緊急連絡するか、診療時間内まで待てるのはどんなときか―まで含めて、専門家にどんなときに連絡を取るべきかが書かれています。
- あなたにできることは何か
- 問題に対して自分で対処したり、問題の発生・進行・悪化を防ぐためにできることはたくさんあります。
- 考えられる問題点
- 家庭看護計画を進めていく際に障害となる、皆さんによくある行動や間違った情報の例をあげ、そうした障害への対策も説明しています。
- 計画の実行と調整
- この項では、計画が機能しているかどうかの点検法と、もし機能していなければ何を行なうかを説明しています。
問題に対処する前にこの看護計画を読めば、問題そのものと何ができるかを完全に理解できるでしょう。また、内容を定期的に読み直すことです。特にあなたの計画が機能していないと思われる時には、そうすることで、あなたにできることは全部行っているかどうかの再確認ができるのです。
秩序ある体系的な計画(PLAN
- プラン)を設定する
秩序ある体系的な方法を取ることが問題解決には一番です。つまりあなたは以下にあげるようなことをするべきです。
- 事実を入手する
- なにが起こっているのかを明らかにしてください。「感じたこと、考えたこと」と、「事実」を区別しましょう。
- あなたになにができるかを検討する
- この家庭看護の計画や、問題について書かれた他の情報を読むことです。医療専門家に提言を求めましょう。過去にうまく行ったあなた自身の経験からアイデアや対策(戦略)を思い起こしてみてください。あなたにとって無理なく目標達成できるのはどんなことかを問うてみましょう。
- 最善の対策(戦略)を決める
- あなたが選択できるさまざまな手法の利点と欠点を比較し、目標を無理なく達成することができる対策を立てることです。
- 問題(障害)を考える
- なにがあなたの計画の妨げとなるのかを考えてみます。そして、それらの障害に対処する方策を創造的に考えます。
- あなたの計画の実行と調整
- 確実にものごとを完了させるため、自分で完了予定日を設定します。特にカレンダー付きのノート(あるいは日記帳のようなもの)を用意し、計画進捗の記録を付け、大切な治療日はカレンダー記録します。このような方法により向上の様子を観察することができ、医療担当者に対しても何をやってみたのか、どのような結果であったかを説明することができます。もし計画が予定通りに機能していなかったり、あなたが期待したほどの成果があがっていない場合には、早急な改善を期待し焦り過ぎていないか、目標設定の調整が必要ではないのかなど自問することです。その後で、新たな計画を設定するために、前向きな態度の維持と成功への期待に特別な注意を払いながら、問題解決のそれぞれの手法を繰り返します。
問題に対し現実的になる一方で楽観的(OPTIMISTIC)な態度をとる
- 前向きな態度を保つ
- あなたが年少者の看護を行なうにあたって最も大切な事柄の一つは、前向きな態度を保つことです。ガンやガン治療でストレスを抱える人々に必要なものは「励みになるもの」であり、「起こりつつある良いこと(病状の改善)」を知らせてあげることが必要です。同時に、あなたがたが介護をするお子さんの問題の深刻さを見つめるときは現実的であることが大切であり、そうすることで自分の抱える問題は無視されたり軽視されたりしてはいないと感じられます。
- 成功を期待する
- 人は、成功の可能性が高いと考えられる時には、当然最善を尽くすことは言うまでもありません。しかし、問題に希望がもてず、なにをしても機能しないような場合には、計画に従って最善を尽くすことは難しくなり、あなたの周囲の人たちも失望する結果となります。あなたが失望したりマイナス思考に陥ったときには、前向きで問題解決能力のある人の助けを求めてみることです。このような前向きな人とは友人、家族の誰か、医療従事者です。もしある程度の年齢に達しているのなら、ガンを抱えている子ども本人であることもあります。本書で親御さんの憂鬱(ゆううつ)の項を参照すれば、効果的に問題を解決するときに障害となるマイナス思考をコントロールするのに役立つことでしょう。
- 介護から一時離れる
- ストレスがあるとしても、自分自身が休養するすることで前向きな見地を保つことができると考えてみてください。本書に記述している、成功する介護のためのアイデアと指針(第2章)を読むことです。また、親御さんの不安と憂鬱(ゆううつ)の章も合わせて読んでみることです。これらの章を読むことで、「前向きな態度」を保ち、介護によって生じた問題の解決に必要な「精神的な強さ」を持つことができるでしょう。
創造的(CREATIVE
- クリエーティブ)になろう
- 介護者として創造的な考えを持つよう常に、求められています。
- 人には皆、その人の個性があり、抱える問題もさまざまです。ですから、あなた自身が自分に合う計画を取り入れることに創造的であるべきです。ほとんどの計画は障害につきあったり、遮断されることがあるでしょう。このような時に乗り越えたり、あるいはちょっと障害をよけて進むことに、あなたの創造性を使うべきです。期待通りに計画が進まない時には、これはあなたの創造性が試されているのだと思いましょう。障害に対して創造的に考える場合に、あなたにできることは三つあります。
- 他の人の見地から障害をみる。
- あなた自身が誰かの立場になったつもりで自分の問題を考えてみてください。問題を別な角度や視野から見て、他の人ならどう対処するかを自問してみることです。
- 同様な問題を経験したことのある他の人に、あなたの困難にどうやって打ち勝つかを相談してみる。
- 今ある困難な問題は本当にそれほど重要で深刻なのかと自問する。
- 本当に、その障害はあなたの計画実行を止めるほどのものですか?
- その障害を無視したり障害をよけて、そのまま実行可能となるときも良くあることです。
あなた独自の家庭看護計画を立てる方法
この家庭看護のガイドはガン患児と家庭での看護者が抱えるごく一般的な問題点のみを議論している解説書です。ここに書かれていない問題の解決に必要な情報を手にいれるために、同様の家庭看護ガイドをお手本としても構いません。
- ・問題を理解する
- あなた自身の介護計画を作るに当たっては、第一にあなたが解決を求めている問題を正確に理解することです。あわせて、あなたの目標に対する鮮明な考えを持つべきです。
- 見定めるべきことは、どのようなこどもがこのような問題を持つのか、それはいつなのか、親には何ができるのか、また合理的な目標は何なのかということです。医療的な問題については主治医か看護婦に尋ねましょう。非医療的な問題は、ソーシャル・ワーカー、小児生活相談員か看護婦が大変よくわかっておられます。他の介護者や支援グループのメンバーもお手伝いできるでしょう。
- 同時に、あなたの状況の実態を知る必要もあります。正確になにが、いつ、起こったのか、よく起こる問題なのか、どの程度ひどいのか、これまでになにをやってみたか、またその結果はどうであったか?これはすべて事実でなくてはいけませんし、「・・・と思う、・・・と感じる」では駄目です。事実把握は問題解決の基礎なのです。
- ・専門家の助けはいつ受けるのか
- 医療的な問題あるいはガン患児の健康に危険を及ぼす問題は、必要に応じて、主治医、看護婦あるいはソーシャル・ワーカーに、連絡を取りましょう。
- ・あなたは何ができるのか
- 医療的な問題のとき、あなた自身ができることは何か、あるいは問題発生の防止策を主治医、看護婦あるいはソーシャル・ワーカーに尋ねます。
- 非医療的な問題については、あなた自身の対策をご自分の経験と創造性で、人の意見を参考にして、作ることができるでしょう。似たような問題が過去に起きたとき、やってみて効果があったことを思い出してみてください。もし、あることが部分的に成功したような場合に、今回の問題ではどのようにしたら使えるかも考えてみることです。創造性を持つことです。新しい考え方も問題解決には重要で、一般的でなく、いつもと違う方法が有効なこともあります。"ブレーンストーミング"(脳内あらし??ひらめき)を試み、自由に想像力を働かせてちょっと変わったアイデアを考えてみることです。ブレーンストーミングを行うなら、あなたのアイデアの限りをだして最長のリストを作り、自分のアイデアの最後が書き終わるまでは批評などしないことです。その結果で、最高と思われるものをリストから選び出します。自由な想像力で長いリストを作れば作るほど創造的な解決ができるチャンスも高くなります。最後にそれぞれのアイデアの長短を計り、過去の経験に基づいてするべきことを選べば、あなたの考えていることが成功するベストチャンスがえられるでしょう。
・考えられる障害
- なにがあなたの計画を実行することを妨げるものか、そしてどのようにして障害に対処するかを考えてみます。
- 医療的な問題は、他の人たちがどのような困難に出あい、いかにして克服したかを主治医、看護婦あるいはソーシャル・ワーカーから聞きます。
- 医療問題以外のことについてはどのような問題が計画を実行するための障害となるのか、どのようにして対処したら良いのかを考えてみます。
・あなたの計画の実行と調整
- 最後に、どのようにして計画の進行をチェックするかを決めます。どのような改善を期待しており、現実にはどの程度の速さで変化が期待できるのでしょうか。専門家や今までに同じような問題に対処されてきた人々に、提言や忠告を尋ねることです。
- いかにして家庭看護計画を最大限に活用するか
- 最初に概要の項目を読んでどのような情報が含まれているかを知ることです。その後であなたにできることと、理由を完全に把握できるよう全体を読みます。
この項で説明したように、各章ごとに同じような配列で概要がつけられています。最初は項目のはや読みができますし、容易に大項目でなにを言おうとしているかが判断できます。項目の頭に⇒が付いているものはあなたに取れる行動、あるいはあなたが注意を払うべき症状です。ですから、自分に何ができるかを早く見つけるには⇒
が左の方についている項目を読んでください。
問題に対処する前に本書の内容すべてを読まれることを提案します。それであなたは問題点や、その解決について完全に把握できます。
- ・問題には早期に注目し、対処する
- ガン患児を支えるときに最も大切なことは、早めに問題に注目し対処することです。はじめの段階であれば問題の解決は容易です。早い時期に介入すれば、問題が大事にいたる前に防止できることもよくあります。
問題が発生する前にこの介護計画を読んでいれば、もし問題が起きても、準備が整っているでしょう。又、計画には予防策が含まれているものもあり、問題によってはそれ自体の発生を防ぐことさえできます。
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