Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients chapter 8
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訳者:撫子なんちゃん

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第8章 感染症


私たちが吸う空気も、食べるものも、握手をするその手も、手に触れるものも、私たちが日常の生活の中で接触するもの全てが、細菌、ウイルス、カビなどの感染症を呼び起こす原因となる可能性があります。正常な健康体にとっては、こうした日々の暮らしの中での感染源との接触は大きな問題にはなりません。感染の原因となるものが身体に入っても、免疫システムが働いて、身体を感染症から守り、感染源を効率的に破壊するからです。
ところが、骨髄移植を受けた患者に至っては、話は別です。骨髄移植を受ける前の化学療法や放射線照射は、ガン化した病気の細胞と正常な細胞を見分ける事ができず、ガン細胞や病気の骨髄を攻撃するだけでなく、患者の免疫システムも同様に乱してしまいます。皮膚や粘膜などの、身体を感染から守る第一の砦もダメージを受けます。身体の内部に控えている防御部隊の一部である白血球も壊されてしまいます。普通なら、はしかやみずぼうそうなどの原因となる、細菌やウイルスを破壊するときに援護射撃する、抗体といわれるタンパク物質も激減します。移植された骨髄細胞が生着して、新たに白血球を造りだすことができるまでは、骨髄移植を受けた患者は大変感染症に弱く、場合によっては命を脅かすものとなり得ます。
移植後の初め2週間から4週間ごろまでは特に重要な期間です。というのは移植された骨髄幹細胞が血液中から大きな骨の空洞へと移動し、新たに白血球を造り始める時期だからです。移植された幹細胞が新しく白血球を造血しだすと、感染の危険は着実に減りますが、多くの患者さんの免疫システムは移植後向こう半年から一年くらいまでは「難あり妥協品」状態(100%機能していない)で、GVHD(移植片対宿主病)が出ている患者さんだと更にこの状態が長引くこともしばしばあります。
移植後初めの一ヶ月間は、感染症にかかる危険性は自家骨髄移植患者も同種骨髄移植患者も変わりありません。それ以降になると同種骨髄移植―中でもGVHDの現れている患者の方が、自家骨髄移植を受けた患者より感染症にかかりやすいようです。GVHDが起こると、免疫力が低下した感染しやすい状態の期間は長引きます。

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移植後の感染症は重要な問題となりますが、よりよい管理予防対策がとれるよう、過去10年以上にわたって、大きな進歩が遂げられてきたために、感染症が原因の死亡患者は顕著に減りました。

感染と闘う−免疫システム
感染症や疾病に対して身体を守る防御機構が免疫システムです。免疫システムは色々な器官、組織、細胞、タンパク物質からなり、それぞれに身体を守るための独特の役割があります。
肌や、口・鼻の上皮粘膜は侵略的有機体や異物から身体を守るための第一砦で、日々、何百万もの害のある有機体を排除しています。切り傷が出来ると、感染源が身体に侵入し、白血球が活動し始めます。
白血球は血流にのって身体や、リンパ系をパトロールしています。そして各組織にいる住人をチェックし、身体を侵すような異物を見つけ出して壊しています。(リンパ系は血流と並んで走っているリンパ管の網状組織で、免疫系の細胞や廃棄物・代謝産物を運んでいます。
白血球は骨髄の中で作られる幹細胞から分化してきたものです。感染や疾病その他の異物から身体を守る際に重要な役割を果たしているのがリンパ球、マクロファージ、単球、好中球その他のナチュラルキラー細胞です。

リンパ球
白血球には二種類あります。T細胞とB細胞です。T細胞は身体の中の異物を認識し、その破壊を指揮し免疫反応を停止させたり、異物が入ってくると攻撃したりします。身体を侵略するウイルスや寄生生物や細菌は細胞から成っています。それぞれの細胞の表面には抗原といわれる遺伝子マーカーがあります。免疫系はどの抗原が身体に属し(自己であり)どの抗原がそうでないか(非自己である)かを認識します。ヘルパーT細胞が体内の異物を見つけると、それが侵略的細胞を飲み込み破壊するキラーT細胞の産生を刺激します。サプレッサーT細胞はいったん異物が壊されてしまうと、免疫系の攻撃を停止します。
ヘルパーT細胞はリンパ球のもう一つの型であるB細胞の活動開始を命令することもできます。ヘルパーT細胞がB細胞に異物である抗原を指摘すると、B細胞が免疫グロブリンすなわち抗体といわれるY字型のタンパク物質を作ります。抗体は照準を抗原にあわせ、侵略的な細胞の表面を攻撃します。そうして、抗体は全乗組員−血流にのって循環しているタンパク質のグループ−に招集をかけ、異物の細胞を取り囲んで穴をあけ溶解します。この過程を細胞溶解といいます。細胞溶解が完了すると、その他の白血球が破壊された細胞の残骸を掃除していき、サプレッサーT細胞はB細胞の活動を停止させます。

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寿命がくるまでにB細胞は何百万個もの抗体を造ります。いったん抗体ができると、それが何年もの間、身体の中を循環しており、ある特定の抗原から更に攻撃を受けても身体には免疫ができた状態になっています。

その他の白血球
単球、マクロファージ(大食細胞)、好中球を、あわせて食細胞と呼びます。これら細胞は異物を飲み込み破壊したり、T細胞やB細胞によって破壊された残りをさらえていく掃除担当係のような細胞です。ナチュラルキラー細胞は別のタイプの白血球で、腫瘍細胞を認識し破壊するものです。
免疫システムが正常に機能するためには、全種類の白血球が血流のなかに十分な量で存在し、その割合も適切であることが大切です。白血球をつくりだす骨髄が正常に作動しなかったり、破壊されれば、身体はもはや、重症で時には致命的になりうる感染源と闘うことができません。

細菌感染
細菌は顕微鏡レベルの大きさの有機体で、組織に侵入し急速に分裂増殖していきます。細菌は身体のどこにでも感染することができますが、気管支や、耳、副鼻腔(洞)部位の感染の主たる原因となるものです。
細菌はトキシンといわれる毒性のある化学物質を産生し、それが組織の正常な機能を妨げます。中でもとりわけ恐いのは、トキシンがショックや血圧低下を招き、心臓や脳の組織に十分な酸素が届かなくなると致命的になりうることです。また細菌はその膨大な数により、組織の正常な機能を妨害することもあります。例えば、ある種の肺炎は、細菌が急速に分裂増殖して、通常なら空気が身体に取り込まれる場であるべき肺胞が、細菌で満たされてしまうことで起こるのです。
細菌による感染は、骨髄移植を受けた後の当初2〜4週間にとてもおこりやすく、患者の約半数に起こっています。移植前に受けた化学療法や放射線照射が患者の細菌感染と闘う力を弱めてしまうのは次のような3つの経過によるものです。

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まず、第一は、通常なら細菌が身体に入ってくるのを防いでいる皮膚や粘膜などの防護壁がダメージを受けるからです。第二は細菌と闘う役目をになっている白血球の中の好中球が破壊され、患者が好中球減少状態になっているからです。第三には特定の細菌に対して既に免疫を獲得させていた抗体が激減しているからです。
移植後の細菌感染が特によく起こるのは消化管、皮膚(とくにヒックマンカテーテル、中心静脈カテーテルの埋め込まれているあたり)、口腔内です。また、時に膀胱炎や肺炎も起こります。
骨髄移植後の初めの数週間に、患者が細菌感染症に罹って、38.3℃(101F)以上発熱することがあれば、通常アミノグリコシド系、ペニシリン系、セファロスポリン系かバンコマイシンを大量に使います。皮膚についた細菌を除くため、患者は毎日入浴かシャワーを浴びます。一般的には、口の中を殺菌するためにも口腔衛生には念入りな手入れが必要です。歯茎が傷ついて細菌、真菌、ウイルスなどが侵入するのを防ぐために、毛のやわらかい歯ブラシかスポンジを使って歯と歯茎を清潔にします。
病院スタッフや見舞い客は、患者に触る前に、殺菌力のある洗剤を用いて丁寧に手を洗い、(手は感染源を一番よく運ぶ媒体です)患者の部屋にいる間は、保護マスクをつけ、ガウンや手袋を身につけます。患者の好中球数が低い間は、有害な細菌やカビを持ち込む可能性がある花や鉢植え植物類は(生花であれ、ドライであれ)置いてはいけません。同様に、患者の免疫系が適切に機能しだすまでは、生の果物や野菜は患者の食事から除いておきます。
通常は細菌感染は、迅速に気付き、抗生物質で対処されれば、致命的なものではありません。

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真菌感染

真菌は私たちが日々遭遇している原始的な生命体です。パンに生えるカビも一般的な真菌の一例です。ほとんどが無害で、カンジダという真菌などは普通私たちの身体の中に常在しています。
骨髄移植後の初め3ヵ月間は真菌による感染症が起こりやすく、特に、GVHDの出ている移植患者ではそうです。皮肉なことに、移植後の抗生物質投与が広範囲に用いられるようになり有害な細菌感染の発生率を減らすことに成功したものの、こうした抗生物質が、真菌の活動をくい止めている身体の中の有益な菌も破壊してしまうのです。真菌による感染症は気付くのも治療をするのもとても難しいものです。移植後の真菌感染症として最も一般的なのがカンジダとアスペルギルスによるものです。
カンジダは私たちの消化管、口、膣の中にある常在菌で、普通は細菌によって抑えられています。ところが、抗生物質の投与により細菌が破壊されると、体内の真菌が分裂増殖し、身体のいたるところに感染していきます。
アスペルギルスは副鼻腔、咽喉部、肺などによく感染し、肺炎を起こすことがあります。建設工事現場や、建物の修改築をしているところにはしばしばアスペルギルスが見つかります。
骨髄移植センターによっては、患者の部屋に専用の空気清浄器が取り付けられており、空気から真菌を取り除いています。生花、鉢植え、生鮮果実、生野菜などを患者から遠ざけておくことで真菌感染の機会を減らす事ができます。



移植後の主たる感染原因菌

自家骨髄移植を受けたときよりも、同種骨髄移植を受けた時の方が、感染症発生は起こりやすく、GVHDが出ている患者では特にそうです。



抗生物質を服用した後に発熱が続く患者には、真菌感染へと悪化していくのを予防管理する目的でアムホテシリンBという抗真菌剤を投薬するのが普通です。アムホテシリンBに毒性があり、GVHDを管理するための薬の効果に干渉するらしいとのことから、それに変わる別の抗真菌治療が研究されつつあります。カンジダ感染の治療にはフルコナゾールという薬が有効であると臨床治験でわかってから、現在では予防治療薬として使われています。これまで、アスペルギルス感染は治療が困難で、感染した患者は死亡することがよくありました。アムホテシリンBの使用だけでなく、アスペルギルス感染を早期に診断する新しい技術が用いられるようになり、アスペルギルス感染による死亡者数は減らすことが出来ました。

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ウイルス感染
細菌よりも小さく、自給自足はできない寄生性の微生物がウイルスです。ウイルスはその存続、繁殖のために、ヒトの細胞などのような他の有機体を侵略しなければなりません。ウイルスは、宿主細胞の遺伝子部品をいじりまわし、仲間のウイルスを増やすために工場にもっていきます。最終的には、ウイルスは宿主細胞を破壊するか、無力なものにしてしまい、近隣の別の細胞に移って、自己再生と細胞破壊を繰り返してゆきます。
ウイルスによる感染症も、とても治療しにくいものです。ウイルスに有効な薬はほとんどないために、健康な個体にとって、ウイルスが侵略してくるのを防ぐのは、T細胞と、B細胞が産生した抗体が頼りです。アシクロビルやガンシクロビルのような抗ウイルス剤もいくつか有効なものがありますが、それらで効果的に治療ができるウイルスの数はとても少なく限られています。
移植後に起きるウイルス感染は新たなウイルスにさらされたことや、患者の体の中で活動を休止していた以前からあるウイルスが再活性化された結果、起きてくるものです。移植前に受けた化学療法や放射線照射は、T細胞を破壊し、またウイルスを抑える役目の抗体を激減させます。
ウイルスによる感染は骨髄移植後12ヵ月までの期間に起きるのがとても一般的ですが、2年して出てくるものもあります。移植患者に非常によく見られるのは、単純疱疹性ウイルスherpes simplex virus (HSV) 、サイトメガロウイルスcytomegalovirus (CMV)、水痘帯状疱疹ウイルス varicella zoster virus (VZV)によるものです。

単純性疱疹感染
単純性疱疹感染は二つの別々なウイルスが原因で起こります。ヘルペス1とヘルペス2です。口の周囲や口中に、痛くて発熱を伴う水疱ができるのが口唇ヘルペス(ヘルペス1ウイルス)です。また、生殖器や肛門に痛みのある水疱ができるのが性器(陰部)ヘルペス(ヘルペス2ウイルス)です。
アメリカ人の約70%が、通常小児期に、ヘルペス1ウイルスにさらされています。このウイルスはとても伝染しやすく、活動中のヘルペスによる炎症が口に出ている人と接触することで伝染するのが普通です。一方、ヘルペス2ウイルスは感染している相手との性交渉により伝染するのが普通です。
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ヘルペス感染は初回感染後に繰り返し起きてくることがあります。何年間も体の中で活動を停止していて、あるとき再燃します。それは予想できるときも出来ないときもあります。ヘルペスが再燃してきたことがなくても、体の中にウイルスは存在しています。
ヘルペス感染は、移植後一ヶ月間に起きてくるのが普通です。必ずと言っていいほど移植の前から体の中に存在しているヘルペスウイルスによっておきてきます。骨髄移植を受けた患者では、ヘルペス1ウイルスの感染に伴う一般的な口の痛みに加えて、ヘルペス1ウイルスによる皮膚障害が起こることが時々あります。まれなケースではヘルペス1ウイルス感染が脳に起こることがあります。
単純性疱疹は抗ウイルス剤による治療によく反応するウイルスの一つです。経口投与や静脈注射でアシクロビルを用いた治療が普通行われます。現在ではほとんどの移植センターで予防的にアシクロビルを投与するようになり、移植後のヘルペス感染発生率は大幅に減りました。

サイトメガロウイルス (CMV)
CMVすなわちサイトメガロウイルスは、よく、移植患者の感染症の原因となるものです。骨髄移植を受けた患者の約30%が、通常移植後2〜3ヵ月中に、サイトメガロウイルス感染を合併します。
サイトメガロウイルス感染は肝臓、結腸、目、肺などを含むいくつかの臓器に進行していきます。サイトメガロウイルス感染は全部心配ですが、中でもサイトメガロウイルス肺炎が特に厄介で、それは、これにかかると致命的になることが一般的だからです。消化管におこったサイトメガロウイルス感染もまた致命的になることがよくあります。
都会に住んでいる人では特にそうですが、総人口の約半数が一生の内にはサイトメガロウイルスにさらされます。移植の前に、医師が患者の血液検査をして身体の中にサイトメガロウイルスがあるかどうかを調べることができます。もし、検査しても見つからず、陰性であれば、移植前も期間中も後も、患者はサイトメガロウイルスにさらされないように
注意が払われます。可能なら、サイトメガロウイルス陰性の骨髄提供者を選びます。患者に用いられる血液は患者に輸血される前に、サイトメガロウイルス陰性であることを確実にするため選別されることもしばしばあります。あるいは、サイトメガロウイルス陰性の血液が手に入らなければ、輸血時に、免疫グロブリンを静脈注射する移植センターもあります。
移植前に、サイトメガロウイルス陽性と結果が出た患者では、陰性の患者に比べて移植後のサイトメガロウイルス感染を発症する確率は2倍になります。自家骨髄移植を受けた患者よりも同種骨髄移植を受けた患者の方がサイトメガロウイルス感染症を起こしやすく、特に一部不一致のドナーから移植を受けたときは起こしやすくなります。

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自家骨髄移植患者の2〜4%と、同種骨髄移植患者の約10〜20%の患者が、サイトメガロウイルス肺炎を起こしています。サイトメガロウイルス肺炎を起こす危険性は年齢と共に高くなり、GVHDが出ている患者でも高くなります。
近年の研究によると、ガンシクロビルという新薬を免疫グロブリンの静脈注射と併用して投与すると、サイトメガロウイルス肺炎を効果的に治療できるとの報告があります。また、ガンシクロビルがサイトメガロウイルス感染症の予防治療として有効かどうかを判定する治験も現在行われています。

水痘帯状疱疹ウイルス
水痘帯状疱疹ウイルスVaricella Zoster virus (VZV)はshingles帯状疱疹ウイルスまたはherpes zoster 帯状疱疹ヘルペスと呼ばれることがあります。(★ singles ( L cingulum, girdle) 帯状ヘルペス、帯状疱疹 (herpes zoster)ここのところの言い方は監修の先生にお任せしたいと思います。)水ぼうそうを起こすウイルスと同じウイルスです。骨髄移植患者の20〜40%が移植後1年間に、(通常は3ヶ月目頃に)水痘帯状疱疹ウイルス感染症を合併します。水痘帯状疱疹ウイルス感染症はGVHDを伴っている同種骨髄移植患者にとても頻繁に起こりますが、自家骨髄移植患者でもよくあります。
水痘帯状疱疹ウイルス感染はその発現の仕方が二通りあり、どちらかで現れてきます。一つ目は、身体のどちらかの神経枝にそって?、かゆく水疱をともなった発疹が出ます。発疹が出ているところの皮膚下の神経の末端が侵されて、とても痛みます。二つ目は角膜(黒目の部分)神経や目に向かう神経(眼神経?)に現れる場合です。痛みのある発疹が額やまぶたのあたりの神経にそって出ます。即座に処置されないと、目に損傷を残します。
水痘帯状疱疹ウイルスに感染すると、通常は7日間かけてアシクロビルを静脈注射されます。極めて伝染しやすく、治療のために入院が必要となるのが普通です。入院すると、痛みを抑えるために、タイレノール(アセトアミノフェン)やコデイン、モルヒネなどが投薬されます。早期に治療を施せば水痘帯状疱疹ウイルス感染による痛みは軽減されます。迅速に処置されれば水痘帯状疱疹ウイルス感染が致命的になることはありません。
水痘帯状疱疹ウイルス感染は移植後に、一度ならず起きてきます。かゆみや痛みは感染の臨床症状がすべて消えた後も長く続きます。
ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルスによる感染を予防するためにアシクロビルを用いる方法が、同様に水痘帯状疱疹ウイルス感染の予防にも有効なことがあります。水痘帯状疱疹ウイルスは極めて伝染性が強いので、水ぼうそうにかかったことのない患者や血液検査で水痘帯状疱疹ウイルス陰性と出た患者は、水ぼうそうや水痘帯状疱疹ウイルス感染症にかかった人との接触を、移植後一年間は避けるべきです。

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その他のウイルス
アデノウイルス、パポバウイルス、EBウイルス(エプスタイン・バーウイルス=EBV)、RSウイルス(RSV)、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)などのその他のウイルスも、発症率はとても低いものの、移植後に様々な問題を起こすことがあります。アデノウイルスとRSウイルスの感染は致命的な肺炎を起こす可能性があります。また、アデノウイルスは腎臓や消化管に感染し、血尿が起こることもあります。まれなケースですが、EBウイルスが同種骨髄移植患者のリンパ系を侵し、リンパ腫のような状態にすることもあり、時には致命的になります。こうしたウイルスによる感染症の発症率は移植後に公衆との接触を制限し、マスクをかけて、几帳面に手洗いを励行することで多いに減らすことができます。



感染防御

感染の危険性を最小限にするために、患者ができることは次のようなことです。


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原虫
一つの細胞からなる寄生生物で、人の細胞などを常食にしてその生命を存続させています。この原虫感染を主に防御するのがT細胞です。原虫感染は細菌やウイルスの感染に比べれば頻度は少ないですが、移植後でT細胞が不足している患者にとっては深刻な事態を招くこともあります。
ニューモシスチス・カリニという原虫の一つは健康な人の気管に潜伏していて、何ら害がないのが普通です。ところが、免疫システムが抑制されると、この原虫がその人の肺に侵入し、微細なのう胞を造ります。これが肺炎を引き起こします。バクトリム(バクタ)やセプトラ、ペンタミジン(ロミジン)などがニューモシスチス・カリニ肺炎を予防し治療するのにとても効果があります。 ★薬は要チェック★
移植後患者にはトキソプラズマ症といわれる別の感染症も起こります。トキソプラズマ症はトキソプラズマ・ゴンジと呼ばれる原虫によって起こり、猫の糞便から伝染することが多いのです。トキソプラズマは脳、目、筋肉、肝臓や肺を侵します。この病気の一般的な症状は目に痛みのある網膜炎を起こすことで、迅速な治療がされないと目に損傷が残ります。早期に診断をし、適切な治療をすれば、トキソプラズマ症はめったに致命的になることはありません。(訳注−toxoplasmosis - トキゾプラズマ症 - 原虫性寄生虫のToxoplasma gondiiによる疾患で、羊は流産、ミンクは脳炎、ヒトは種々の症状を起こす。 臨床症状が起こるとすれば、発熱、リンパ節腫脹、頭痛、筋肉痛、倦怠感があって、最終的に回復するが、免疫無防備状態宿主では、しばしば致命的な脳炎が起こる。)

感染の機会を避ける
移植後は、注意を払うことなどすっかり忘れてしまい、感染症にかかるという脅威など無視してしまいたい衝動に駆られます。しかし、ほとんどの人にとって無害な細菌、ウイルス、カビが、移植後のまだ十分に免疫システムが回復してない移植患者にとっては命取りになることがあるのを忘れてはなりません。冒険はしないことです。移植後に感染源から遠ざかるというのは、不便なことでも不満のたまることでもありますが、数ヵ月間、気をつけることで、自分の命を救えるのです。

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