原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 7章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん

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第7章 我が子を救うのに骨髄移植が必要な時


「あれはまるで突然やってきたつむじ風のような、夢のようなことでした。あれはあの子がごく普通の15歳の男の子だった時のことです。80歳になっても生きていくはずだったのです。それが、次の日には骨髄移植について黒板に図解されたものを見つめながら、先生方が『お子さんは死ぬかもしれない』なんていうのを聞いていたのです。それは全く現実とは思えませんでした。何のことを言っているのだか分かりませんでした。ただ、お互いに抱き合って泣くしかできませんでした。」−骨髄移植を受けた患者の親

アメリカでは毎年、年齢は2ヵ月から21歳までと様々ですが、2000人以上もの子どもが骨髄移植を受けます。そうした子どもたちは白血病や再生不良性貧血、免疫不全症、先天性代謝異常、神経芽腫などの固形ガン、などの疾患と闘っているのです。疾患のタイプと病期、これまでに受けている治療、提供される骨髄との適合性、患児の全身状態などによって、骨髄移植が成功する可能性は90%にもなったり10%以下になったりします。

小児の骨髄移植は成人の骨髄移植と多くの点において同様ですが、移植を受ける患児やその親御さんたちには成人患者とはまた違った心配やニーズがあるのです。この章ではこうしたことについて考えてみましょう。そして、患者の親、医師、看護婦、心理学者、ソーシャルワーカー、そして患児がこれまでに経験したことを聞かせて頂き、互いに理解を深めましょう。

骨髄移植を決心する
骨髄移植を進めるかどうかを選択することは子どもにとっても親にとっても難しい決断です。 移植が間違いなく長期に及ぶ過酷な治療であることと、その成功の可能性を対比して考えなければなりません。 はっきりと「これが正しい選択だ」といえるものがないことも多く、どちらを選んでも同じように不安が付きまとう選択肢の中から決断を下さないといけないことで、親も子も欲求不満に陥ることもあります。

患児が14歳以下の子どもである場合は特にそうですが、親はほとんどの場合において、最終決定を下す権限と責任を持っています。

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それでもなお、親の選択から生じた結果を抱えて生きて行くのは子どもであることをわかっているだけに、心の中に問題が起きてくるのです。 「移植を受けるか、さもなくば死ぬかの瀬戸際だったのは分かっていました。」と5歳の再生不良性貧血だった男の子の母親が言いました。「でも、ずっと自分に問い続けたのですよ。『本当に私がこの子の人生に関わることを決める権利があるの?わたしはできるだけ長くこの子と一緒にいたいのよ。私は自分にとっての最善策を選んでいるの?それとも子どもにとっての最善策なの?』というようにです」

多くの骨髄移植センターやこれまでに移植を受けた患者の親御さんたちは、移植をするしないの決定を下す過程に出来る限り子どもも一緒に交えて考えることを強く勧めています。骨髄移植では、その期間中、患児からの協力と信頼が確保されることが不可欠であり、それにはまず病気と骨髄移植の手順について、隠し立てのない、思いやりのある説明をしてあげることです。.

子どもの病気や治療について患児の兄弟姉妹たちを話し合いに交えることで、家族の団結は強まり、兄弟姉妹が患児や患児に向けられる周囲の関心に対して感じるであろう憤りを軽減することが出来ます。「私たちは、起きている事柄を正直に12歳の息子とその兄弟に話をするべきであり、その子たちの年齢と成熟度に応じて決断を下すことにも加わらせようと決めました」と、ホジキン病で移植を受けた男の子の母親は言いました。「このことで二人の息子には心の成長という重荷を背負わせましたが、子どもたちはそれをのちこえられるように向上してくれましたし、家族はお互いを常に助け合いながら、より近く寄り添うようになりました」 「患児の看護や治療について兄弟姉妹を話し合いに含めた家族は兄弟姉妹の嫉妬心や怒りから生じる問題が後々出ることが少ない。出発点から病気の子どもにも兄弟姉妹にも全く正直に話していれば、後々になって、彼らがびっくりすることも、嘘をつかれ続けてきたと思うこともない」というのは、ある心理学者の指摘です。

情報を得る
最終的な決定を下すのに先んじて、骨髄移植についての適切な情報を見つけ、吸収することは必ずしも容易なことではありません。ほとんどの移植センターではその手順について口頭で説明し、危険性や、起こりうる合併症、副作用などについても説明をするでしょうが、どの施設でもこうした情報が文書で用意されているわけではありません。それゆえに、与えられた情報を後でじっくりと思案し、自分たちの理解を再チェックし、新たに質問すべき点を明確にすることは、親にとって困難なときもあります。説明を受ける時には二人以上の大人が同席し、記録を取るようにすると良いでしょう。

時に、診てもらっている小児科医師と、移植チームとから、、子どもが助かる可能性、副作用、移植を要する緊急性、などについてくいちがう意見を聞かされることもあります。「移植チームとの初めての打ち合わせは、娘が白血病だと診断された時以上に、私の人生の中でも最悪に落ち込む経験でした」とある幼児のお母さんは言っておられます。「娘の主治医は起こりうる副作用についてなんて一度も話してくれたことはなかったのです。恐ろしくなってしまったわ。もう、ただ子どもを引っつかんで逃げ出したいと思いました。」

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医療チームに次々と質問して追究することを恥ずかしがらないで下さい。同じ質問をきくのがそれで90回目だとしてもです。あなたが理解できるまで、そして、移植の決断を下す際に基になる情報が十分得られたと思えるまで、何度でも質問し続けて下さい。どんなに時間がかかろうと、何度同じことを繰り返し尋ねられようと、すべての質問に確実に答えを出すことは医療チームの役目なのです。

同じ体験をしてきた、特に生存者(治癒した子)の親と話をすることはとても参考になると多くの親御さんたちは言います。主治医や、移植チーム、キャンドルライター(米国支援団体名称)、BMTニュースレターなどを通せば、そうした親御さんと接触が持てるでしょう。しかし、忘れてならないことは、そうした人たちと状況は似通っていても、全く同じ条件下の移植体験も、移植センターも、二つとないということです。

骨髄移植に関する質問や心配は子どもの年齢によって変わってきます。小さい子どもでは、「それはどれくらい痛いの?」「パパ、ママと離れなければならないの?」「学校にはいつ戻れるの?」「髪の毛はいつ、また生えてくるの?」「ずいぶん吐くの?」「骨髄移植の後も化学療法をしないといけないの?」というような、短期的な問題に焦点を当ててきます。移植手順の基本的理解が得られると、小さい子の場合は、親に一番いい方法を決めてくれるように頼る傾向があります。

ところが、それとは反対に、ティーンズの場合は、決定を下す過程にもっと積極的な役割を果たすようになり、法的にも、治療の手順に対して彼ら自身の同意を求められている州がほとんどです。ティーンズは自分の容姿をとても気にかける傾向があり、髪がなくなること、ステロイドホルモンにより体重が増えることなどをとても悩みます。骨髄移植が終わると、仲間たちとうまく調和していくけるか、普通の学校生活に戻れるか、ということを気にかけます。

骨髄移植後に、子どもが出来なくなる可能性があることは青春期の人にとってとてもつらいことでしょう。性的なアイデンティティや性的活動はティーンにとっては大切なことで、彼らは、子どもが出来なくなるということを積極的な性生活が出来なくなるということと誤解して信じ込むことがあります。子どもが出来なくなることを考えるのは、「家族」や「親になること」についての話あいが、養子をもらったり、医療繁殖技術(人工授精、体外受精など)によって宿された子どものある家庭に対立するものとしての、伝統的な生物学的な家族だけに狭められて、常に成されてきた場合は特に苦しいものです。若い男性のための精子銀行も、可能性はありますが、この方法を検討したり試みたりすることに、ティーンはとても戸惑ってしまうことがあるようです。

親は決まって、再発の危険性、生着不全、移植片対宿主症、移植後感染症にかかりやすい期間の長さ、など、長期にわたる問題に焦点を置いて質問してきます。親もやはり、移植後の無排卵、無精子になる見込みにがっかりさせられるのが普通です。自分の子どもが本当に無排卵、無精子になった時には、養子をもらったり、人工受精・体外受精などで家族を持つことだって出来るということを考えもせずに、自分の血を引いた孫が見られないということにがっかりする人もあります。移植を受ける時にとても小さかった子どもの親は、将来この無排卵、無精子の問題について子どもに話をするのにどうしたらいいか―いつ問題を切り出そう、何と言おう、どんな反応がかえってくるのだろうかと悩みます。

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「まだ男女の区別の特徴や自分の性を築きつつある過程のとても幼いこどもと無排卵、無精子について話をすることは、その問題が骨髄移植のように医療的に危機的状態の真っ只中に取り上げられた時は特にそうですが、心の支えになるよりもむしろ心を傷つけてしまいます。この問題について話をし始めるのは9〜10歳が良い時期でしょう。今の状況を特別視せず、多くの大人が(6人に1人は)こどもができないこと、子どもを生むことと子どもを育てることを分けて考えること、を教えてあげるのがいいでしょう。思春期に入ると、さらに問題意識は高まり、子どもが出来ないことと、普通の性生活をするということを区別して考えることが大切になります。この問題は一回きりの耐久レース式会議のように集中的に話して、あとは何にもしないという風に扱われる問題ではありません。子どもはそのことについて長い間、質問や感情を抱いており、そうした質問や想いを話せるように仕向けてあげるべきです。」と、ある心理学者は言います。

「時に、親と子どもの間で、骨髄移植を受けるかどうかの意見が分かれることがあります。骨髄移植をしても長期生存の可能性が低かったり、子どもができなくなる見込みだと聞いてがっかりしているなどの子どもの場合にこうした例が多くみられます。こうした意見の対立を解決するのは難しいですが避けて通るわけには行きません。お互いの言い分に耳を傾け、患児の心配事を親の心配事と同様に尊重してあげましょう」と、骨髄移植看護コーディーネーターの1人はアドバイスしています。

骨髄移植を進めていく分別は両親の間でも不一致が見られるのは珍しいことではありません。「成功率が余りに低く思えたので、はじめは全く受けることに反対でした。医師が反対の意見を述べていてさえです。私は全く胸を引き裂かれる思いでした。そしてとうとう、もしも型のあった骨髄提供者が見つかれば、骨髄移植を受けさせようと決めました。そして、その通りになり、娘は今元気にしています。」と、ある幼児の母は言いました。

「私たちは息子をやっとのことで幸せで元気そうに見える状態まで戻したと思ったところなのに、今度は骨髄移植を勧めるんですもの。考え続けましたよ。なぜ、あの子を爆弾の落下地点に連れ戻さなければならないのかと。なぜ、あの子をそっと1人にさせておいてあげられないのかと。」とは別の母親の言葉です。

移植に備える
さて、骨髄移植を受ける決心がついたら、今度は沢山の準備が始まります。移植を受ける患児、その兄弟姉妹、親御さん、拡大家族の一員の人たちは皆、これから先に待ち受けている肉体的にも精神的にも厳しい時期に備えなければなりません。患児以外の子どもがおられる親御さんは特にそうですが、病気の子ども、自分の配偶者、他の子どもたちがこのつらい経験を乗り越えられるように支えようと、あっちにもこっちにも引っ張られ身体がいくつあっても足りない感じがするでしょう。残りの家族やともだちは、こうした時に何が必要かを患児の親にたずね、そうした頼みに応えてあげて、自分たちなら違うように物事を決めると思うことがあっても、その親の決定する権利を尊重してあげることが、一番の助けになるでしょう。

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移植を受ける子どもにしてみれば、この様な過酷な難しい状況やそれに伴う激しい感情を経験するのは人生で初めてであるのがほとんどでしょう。幼い子どもだと、病気になったり治療を受けたりするのは自分のせいだと思い、自分がいけない子だったり罰を受けているのだと思い、心配します。幼い兄弟姉妹たちもまた同じように病気になった子どもに腹を立てて、お前なんか病気になって死んじゃえと言ったから、それがほんとに起きているのだ―などというように、自分が問題を起こしたのだと心配することもあります。

どの年齢の子どもでも、自分の思っていることをオープンに話しをして、心配なことが明らかにされるように、促してあげることが大切です。あなたの子どもさんが何を考えているかを見つけ出してください。患児が病気や移植について話さないだろう、何も問題などない、と決めつけないでください。時々、子どもの心配なことや不安が言葉ではなく行動の変化となって現れることがあります。たとえば、悪夢にうなされる、好戦的態度をとる、気持ちが沈むなどです。子どもに、病気になったのはあなたのせいではなく、治療は悪いことをした罰ではなく、病気を追い払おうとするための最善の方法なのだとわからせてあげるのが大切です。親は子どもに「あなたは運が悪かっただけで、あなたがおびえていること、混乱していることを私たちはちゃんとわかっているし、私たちがあなたの不運は一緒に背負うから、一生懸命力を合わせて、また元気になるようがんばろう」と思っていることを子どもにわからせなければなりません。

時には、子どもが親に話すよりも他の誰かと自分の思いについて話すことの方が、ずっと心を開いて話せるようです。これは自分の親の気持ちを傷付けることを心配したり、親をがっかりさせたくないという思いのある前青年期と青年期の子どもに特に当てはまることです。ティーンズに特有の独立願望がめざめてきている青年では特に、親の同席の場で「自分の周りのガードを解く」のに抵抗を示すことがあります。親はこの事実に怒りあるいは傷つくこともありますが、子どもが話す心の用意が出来た時に、一番楽に話せる人と自分の思いについて話しあえることが大切なのです。親のいるところでは心を開いて話そうとしない場合には、 親は看護婦や心理学者、あるいは他のカウンセラーなどに、子どもが心を開く様に力になってほしいと頼むのも良いでしょう。

移植を受けようとしている子どもは、病院や、この先関わりが出来てくる人たちや、処置に使う備品に、すっかり慣れておかなければなりません。子どもにはカテーテルや点滴スタンドなどの見慣れない装置をみせておくべきであり、そうした装置が何をするものか、なぜそれが必要で、それを使うとどんな感じがするのかなどについて簡単明瞭な説明をあたえておくべきです。子どもたちに病院の備品を触らせたり、入院する前に人形などを使って処置の手順を示しておくと、子どもはそうした備品に安心し、質問をしやすくなり、本番の自分の治療に使われた時には不安が軽減されるのです。

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兄弟姉妹の心配事

兄弟姉妹を病院に連れて行き、病気の子どもがこの先の数週間をどんな所で過ごすのかを見せておくのはとても良い考えです。こうすると、彼らは移植のための準備が始まって自分たちのことは忘れられていると感じることが少なくなり、病気をしている兄弟姉妹がどこにいて、どんなことをされているのかについてもよりよく解ることが出来るのです。

患児が病院にいる間は、兄弟姉妹たちは友人や親戚の世話にまかされることがよくあります。これはその子どもたちを自宅やいつもの日課から引き離すことになります。小さい子どもだと、親から強制的に引き離されたことを「罰」だとみなすこともあります。親がこの別離を望んでいるのではなく、それは一時的なもので、なぜ親と一緒にいることが出来ないのかを子どもたちに解らせることが大切です。出来る限りいつも自宅でしているのと同じ日課で、あそび、学び、食事をするなどして、「自宅から離れた自宅」環境を創り出すのが効果的です。日常的に親と患児以外の子どもたちが接触する計画を設定すると、自分たちが無視されているとか、病気になった子どもほど愛されていないという感情を弱めることが出来ます。「毎日必ず娘に電話をしてメモを残しました。伝言を書く時は、兄(弟)に何がおきているかを書きましたが、電話をする時は、必ず娘のことについて話をするようにしました」と娘を祖父母に預け、息子の移植に付き添った親が話してくれました。

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もし、入院中に親と一緒に兄弟姉妹も滞在する場合は、専門スタッフが子どもたちと話をして、彼らの心配ごとに取り組みます。移植センターの中には、兄弟達がこの体験を無事乗り越えられるように、特別なプログラムが用意されているところもあります。

兄弟姉妹骨髄提供者
移植を受ける子どもにたくさんの時間と体力が集中し、骨髄提供をする方の兄弟姉妹に対するニーズや心配は低く評価されてしまうことがよくあります。こうした子どもたちにとって、これから受ける医療処置は兄弟姉妹からの骨髄を待っているほうの子どもと比べて恐怖感は決して少なくありません。ドナーになる方も自分の疑問に答えてもらい、心配なことを解決するために、注意深い準備が必要であり、移植を受ける子どもと同様に自分たちのことも親が心配してくれていると感じる必要があるのです。拡大家族の一員や、友人の人にも、病気の子ども同様、提供者になる方の子どものニーズをわかってもらうようにしておくべきです。「ともだちが電話をかけてきてくれては息子がどうしているかを聞いてくれました。私はあの子は元気にしているけれど、今痛くて苦しんでいるのはドナーの娘の方で、今すぐにあなたたちの関心が娘に必要なのと言いました」と、ある親が言っておられました。

親も、親戚も、友人も、そして移植チームのメンバーも時々兄弟ドナーの協力を確保し、「あなたの骨髄が病気の兄弟姉妹の命を救うのだよ」と強調することで、その子の自我をささえようとすることがあります。しかし、こうした言葉は、提供者が重要だと思わせること以上に、むしろ、骨髄移植が成功 するか失敗するかは全く子どもの関知しない問題であるにもかかわらず、ドナーになる子どもの個人責任かの様なとんでもない感覚を植え付けることにもなりかねません。もし移植を受けた方の子どもの血球数に向上が見られなくても、もし合併症が起きても、あるいはもし患児が最終的には助からなくても、兄弟姉妹は大変な自責と落胆に苦しむでしょう。例えこうした結果がドナーになった方の子どもに対して明らかにされなくても、責任感はそれでもなお存在し、そのことについて話し掛けてやるべきでしょう。★

移植を待つ
いったん骨髄移植への備えが整うと、家族は途方にくれた気持ちになります。この移植を待つ期間中には、移植のことが心配になり、移植を進める選択をしたことを再考し、患児のことだけでなく家族のものも自分自身の不安も絶えず募るようになって、とてもストレスの溜まるものです。親と子どもが自分たちの心配なことについて話し合ったり、特別な外出や催しをしたりして数時間でも嫌なことから注意をそらそうとすることなどは、友人や拡大家族の一員にしてあげられることで、とても効果があります。

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この期間中には既に家庭の中や、夫婦関係に存在しているストレスがより高められてしまうことは珍しくありません。別居や離婚をする予定は骨髄移植の計画が入った結果として保留になることもあり、配偶者間の緊張は高まります。ストレスが更に増えたことによって急速にアルコール依存症・薬物乱用などが起こってくることもあります。こうした問題に対して助力を求めることにためらいを感じないでください。あなたが初めてではないのです。一般的には、この様な困難な時には、家庭の慣例を出来るだけ変えない様にするのがよく、対話の窓口をいつでも開けておくことが最良です。

移植を受けている時の生活
骨髄移植は決して日常的なものなどではないですが、入院中でも出来る限り子どもを家にいる時と同じように日常性を維持していくことが大事です。お気に入りの服や、絵、おもちゃなどを持ち込むことは、正常な感覚の維持に役立つでしょう。電話や手紙、それから・あるいは子どもが一緒にいて心地よいと感じる、子どものクラスメート、好きな先生、教会の仲間、あるいは故郷の医師のお見舞いなどを手配するのもよいでしょう。入院中の子どもが見れるように家族やともだちをビデオに撮る家庭もあります。

みんなの懸命な努力にも関わらず、入院はやはり子どもにとっても大人にとってもストレスの溜まるものです。患児は検査・薬・処置漬けになります。どの年齢の子どもでも、またティーンズでは特に、規則という規則や、病棟のボス的存在の人にうんざりしてしまい、個人としてのコントロールがきかないことに怒りを感じるようになることもあります。これはいく通りかの形となって表現されてきます。

怒ったり、あるいは好戦的な態度をとり、親や医療スタッフと協力しあうことを拒絶するようになる子もあります。また、明らかな理由もなしに泣いて、何が悲しいのか説明をすることも出来ない子もあります。食べたり遊んだりするのを拒絶する子どもも出てきます。また、気持ちが沈んだり、無気力になったり、退行したり、赤ちゃんぽく振る舞ったりする子もあります。例えば、以前には自分で出来ていたことが出来なくなったりします。親はこうした行動の変化の矢面に立たされることになるのが普通です。

子どもはとても長い時間とエネルギーをかけて成長していき、自分の人生をコントロールしながら、徐々に独立していくものですが、移植をうけると、その独立心とコントロールを失ってしまうのです。そしてその結果、とても怒ったり、沈んだりするようになるのです。

子どもは親が感じるような緊急性を同じようにいつもの医療処置について感じたりはしません。子どもたちと話し合って、こどもがつらいのはわかっていることや、怒りを感じるのも普通のことでそれでもいいということを知らせることが大事です。

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「私は息子に泣いてはだめよとは決して言いませんでした。何がつらいのかを話して思いを全部出してしまうようにうながしました。口腔の手入れなど本当に嫌だと抵抗する時は、その時は、しつこく無理強いはしませんでした。そのことについて話をして、大抵はもめることもなしに、5分もすればちゃんと済ませていました。時には看護婦さんが入ってくる数分前にはそれをすることを提案し、そのことで、これは看護婦さんに言われてしたのではなく自分で決めてしたことだと感じることが出来たのです。彼はそういう風に考えるのが好きでした。」と★

子どもも、大人と同様に自分の身体を守り、自分の命をコントロール★することに関心があります。子どもでも人として扱って下さい。子どもに許可を得ることなく、身体に何かしようとしないでください。処置や日々の活動について、子どもにもイヤと言う機会や選択をする機会を、その選択を引き受けてあげられる場合はいつでも、与えてあげて下さい。」と子どものセラピストが説明しています。

病院にいても日常やってきたことを継続できるようにすることが子どもにとっては大切です。理想的には日課として、子どもにとって「安全な時間」をいくらか設けて、その間は、不愉快な検査や薬や病院スタッフが入り込んでくることのないようにするべきです。ある移植センターでは、ある患児の親が自立式の簡易テントを持ち込んで、室内に子どもの「安全域」を創りました。子どもが1人っきりになりたい時はテントのなかに入って遊ぶのです。



新しい薬や、医療処置をする時は前もってすぐに子どもに心積もりを注せることがとても大事です。子どもは、自分に何がされるのか、その備品がどんなもので、処置を受けている間はどんな感じがするのかを知りたがります。子どもの想像力が、処置について事実以上に恐ろしいイメージを呼び起こしてしまうことはよくあります。

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小さい子どもは、処置に使う言葉の意味を誤解して、不必要に怖がることがあります。例えば、子どもは「うつ」という言葉を腕に注射の針が刺さることではなく銃で撃つことを想像することだってあるのです。子どもには薬や処置のことを前もって十分すぎるぐらいに話し、わからないことを一つずつ解決してあげなければなりません。しかし、余り早くから話してしまうと、それについて考え込んでしまう時間ができます。

痛みを和らげるための薬や、沈静効果のある薬を投薬する時でも、事前に説明をすることが必要です。「初めてあの子が鎮痛剤のデメロールを与えられた時、彼はとても取り乱しました。その薬で、ふらふらすることを聞かされていなかったために恐くなったのです。それからは、私は必ず彼に、この薬をのむとどんな風に感じるかわかっているねと確認しました。」とある母親は言っています。

病院にいて退屈することは子どもにとっては重大問題です。退屈凌ぎに、お気に入りのおもちゃ、ゲームなどを家から持ち込むとよいでしょう。ティーンズ向けに気分転換や活動を計画することは特に大切です。「息子は小児病院に入院していた時15歳でした。そこではたくさんの活動が組まれていましたが、ほとんどがもっと幼い子供向けに計画されていてティーンズ向けのものではないのです。」とある親が指摘しています。

入院期間は親にとってもつらいものです。我が子が難しい医療処置を受けているのを見るのはつらく、自分が子どもの看護に何も出来ない時は特にそう感じるものです。?「病院では、大切な子どもさんだからそばについていて下さいと言い続けるけれど、その言葉を言われると、私が十分にやっているとは決して思えなかったのです。」とはある母親の言葉です。「子どもが私たちに話したり、痛いと言ったりするにはまだ小さすぎて、常に心配でした。」と別の親がいいました。

親は子どもの重要な擁護者です。特に、痛みの緩和を確保し、医療処置に伴う不快感を最小限にすることに至ってはそう言えます。例えば、ある移植センターでは、骨髄採取(吸引)(とても不快な処置です)をする時は事前に鎮静剤や他の鎮痛剤を投与するのが普通です。他のセンターではしません。もし、子どもが処置にとても苦痛があるなら、鎮痛剤を使ってくれる様頼むことをためらわないでください。そして、医療チームが納得の出来る理由も言わずにあなたの頼みに初めから抵抗を示しても、びくびくしないでください。

こうした時には親が疲れきって病気にならない様に、無理をしないことが大切です。ソーシャルワーカーや見舞い客が子どもと時間を過ごしている時に数分でも数時間でも休むのがいいのです。夜は病院から離れて過ごすことで、ゆっくりと眠れて、また翌日からの緊張にうまく対処できるようになるとある親は感じたようです。また、一晩中子どものそばにいてやることの方がストレスが少なく、自分はその方がいいと言う親もあります。

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子どもは親の気持ちをとても敏感に感じ、親が悲しんでいたりストレスを感じているのが分かると不安になります。子どもによっては自分のせいで親が悲しんでいるのだと思って罪に感じ、親に心配させたり悲しませたりさせまいという願いから、自分の不安を率直に話すのを控えてしまいます。入院は自分たちに関係ある誰にとっても不安なもので、みんなでその体験を乗り越えていくことが大切なのだと認めることが大切です。

「毎日、息子が『お母さん大好き。僕のそばにいてくれてありがとう』というんですよ。気分がよくない時もそれを聞くと楽になるんですよ。子どもは自分にとってつらいのと同じように親にとってもつらいことなんだってわかっているんですよ」と5年生の子の親が話しておられました。

家に帰る
みんなが待ち望んだその日に、いよいよ家に帰るのはほろ苦い経験です。入院生活は終わったものの、回復期間は終了とは程遠いのです。薬は毎日何回も与えられるし、中心静脈ライン(カテーテルすなわち柔軟なチューブでそこを通して検査用血液を採ったり、薬の点滴や輸血が施されます。)は清潔に保たないといけないし、子どもの経過を見せるために週に何回も外来に行かなければなりません。親は感染症や他の合併症の徴候に気を配りながらびくびくしています。短期間、子どもを再入院させる必要があるという問題がみつかることは珍しいことではなく、これは親にも子どもにも驚くものとなります。

「事態を収拾するのは大変なのよ。数ヵ月間、私は自動操縦装置がつきっぱなしだった気がしたわ。寝る方法も忘れてしまって、いつもかも引きずられるように重かった気がするわ。みんなのニーズに応えるには一日何時間あっても足りなくて私の体力も足りないように思えたわ。10ヵ月たって、これは一体いつ終わるのかしらって考えたのよ」とある母親がいいます。

よくあることですが、友人や拡大家族は、子どもが家に帰ってからも精神的外傷が長く続くことをわかり損ねることがあります。「彼らは、いったんあなたが病院の扉の外に歩き出したら、すべてのことがあなたにとってもう済んだことだと思うのです。そしてあなたが置き去りにしてきた元の生活をまた手にするだろうとおもうのです。そんな風には行かないものですが。」と複数の親がいいます。「誰かが、『あなたはほんとに幸運だとおもわなくちゃね』とか『感謝しなくちゃね』とかいう言葉を、私自身は『どこが幸運なものか』と思っている時にいうのを聞くとほんとに気が狂いそうだわ。」と別の親がいいます。「私は奇蹟を証明できたことに感謝はしているけれど、私たち家族がこうしたことすべてを体験しないといけなかったことに今でも本当に怒っているのよ。どうして私たちが?って考え続けたわ。私たちがこんな目に会わなければならない様な何をしたというのよ」

移植を受けた子どもと一緒に病院に付き添っていた親と、残りの子どもたちとの再会は必ずしもスムースなものではありません。「初め、3歳の子どもは私に話すのを拒んだのです」とある母親が言いました。また別の親は「娘は、息子が移植を受けている間、家で夫の世話に任せておきました。彼女は夫には自分の父親として話をするのですが私には拒絶するのです。それはとても傷つきました。セラピストを呼んで、彼女の不安や怒りを理解することができ、乗り越えることが

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出来ました。」といいました。

移植を受けた子どもが家に戻って来てからも特別な関心を集め続けることに、兄弟姉妹が腹を立てたりやきもちを焼いたりするのはよくあることです。彼らは母親が自分にもっとかまってくれるように病気になりたいと言うこともあるでしょう。彼らは移植を受けた子どもに対するのとはちがう規則が自分たちには適用される事実に腹を立てます。日常的に病気の子の世話を兄弟姉妹たちに手伝ってもらうことで、彼らは自分が必要とされ大切な存在なのだと感じることが出来ます。親と患児以外の子どもとが一緒に何か特別なことをする時間を設けることも効果的です。

「私はお見舞いに来てくれる人で息子に贈り物をくださろうとしている方には娘にも一つ持って来て下さるか、何も持ってこないかどっちかにしてほしいと頼みました。息子ばかりにみんなの注意が集まるのは娘にとってはとてもつらいことで、自分が締め出されたかのように感じたのです」

移植を受ける子どもは、兄弟姉妹に注がれる関心が不足しているために、彼らが寂しい思いをしていることを感じることがよくあります。小さな男の子が姉妹に言います。「今は、僕はこんなに怠け者で、ママになんでもかんでもしてもらっていてゴメンね。僕がよくなったら、しばらくママを一人占めしてていいからね」

移植を受けた子どもが、移植後に行動に問題が起きるのは珍しいことではありません。「親は子どもが家に戻ると、厄介な羽目におちいります。★ 病院にいる間は、子どもはたくさんのカードやプレゼントや風船そのほか注目を得ることが出来るのが普通ですから、家に帰ってもそれが続くと期待するのでしょう。自分に注がれる関心が減ってくると、子どもは怒って腹を立てるようになることもあるのです。」とある看護婦は言います。

「移植後は、移植を受けている子どもも兄弟姉妹も、ごく普通の風邪や、その他の軽症の不調でも症状をとても気にするようになりました。ある夜のこと私が息子の部屋に行くと鼻をすすっているのが聞こえました。『よくあることなんだ。夜になると悪くなるから、病院に連れていった方がいいよ』というのです。大丈夫よと言ってやったら、『それもよく聞くなあ』ですって」とある母親が言いました。

息子の骨髄移植以降、娘は病気になるのをとても怖がります。先週インフルエンザにかかり、息子ではなく娘の方が病気であったのははじめてのことだったのですが、彼は娘をのぞき込んだり、背中をさすってあげたり、何か飲み物を持っていったり、娘を楽にしてあげようとするのです。二人はとてもお互いを気にかけていました。と、別の親が言いました。

兄弟姉妹が病気だと訴えてきたら無視したり、取るに足らないことだと思わないでください。あなたが移植を受けている子どもの幸せを気にかけるのと同じに他の兄弟姉妹の幸せも気にかけていると気づかせてあげて下さい。たいしたことではないとあなたが思っても、医師に連絡を取ってみて下さい。それで、彼らの気持ちが楽になるのです。

「兄弟姉妹が自分は病気だと訴えるのは注意を引くためにわざと使っている手だと思い込まないでください。子どもはよく無意識の内に病気の症状の真似をして、そのうちに本当に病気だと思い込んでしまうのです」というのはある心理学者のアドバイスです。

ある移植後に起きることで、親が目標にしてきたことが子どもにとっては思いもかけず精神的外傷になることもあります。例えば、ある2歳のこどもが、彼の中心静脈カテーテルを外された時にとても怒り出しました。「それが外れたらあの子は喜ぶだろうと思っていました。でも、その代わりにとても怒ったのです。―それはあの子にとっては身体の一部がひきはがされたようなものだったのです」とある母親が言いました。

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学校に復帰することは子どもがよく「戻るのが楽しみね」と励まされる道標ですが、それがまた大変な失望をもたらすことにもなるのです。子どもはクラスメートたちが自分の戻ってくることを待ちわびていたわけでもなく、かつてのともだちは自分抜きの新しい興味や活動にとどんどん向かっており、他の子どもたちも、長い間病気をしていて、外見も今は少し変わって見える自分と仲間になるのを恐れていることに気がつくこともあります。「子どもが学校に復帰する前に、同級生たちに心積もりをしてもらうのもいいですよ。看護婦や、医師、またはソーシャルワーカーに、学校を訪ねてもらい、その子に起きたことを説明し、質問に答えてもらうのです」とはソーシャルワーカーからのアドバイスです。しかし、前もって準備をしても、移植を受けた子どもが学校に戻って適応していくのは困難であることに気づくときもあります。

数々の困難にも関わらず、骨髄移植を受けた体験は家族の結束をより親密なものにすることも多いのです。「私の子どもたちは口喧嘩ばかりしているけれど、お互いのことをとても気にかけ守ろうとしてもいるのよ」とある親が言います。「体験している時は、それは辛かったけれど、今はまた良い時がやってきました」と別の親がいいます。「息子はやってのけたのです。彼は今元気にしていて、生きていると言うことの意味に皆感謝しています」

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BMT Newsletter (c) 1992

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