原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 6章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん

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第6章 感情面、心理面の考察


骨髄移植により、以前は不治の病とされてきた、白血病・再生不良性貧血・その他の骨髄の疾病やガンなどの病気と診断された多くの患者さんに希望がもたらされました。治癒するという希望が治療や回復期の苦しい時にも患者や患者家族を支えるのです。それでも、骨髄移植について熟考したり、移植術を受けたり、回復期の諸問題に対処していくことは、患者や患者家族、そして友人にとって、やはり苦しい経験です。

未知の経験に対処する
初めて患者が骨髄移植を受けなければならないだろうとの見通しを聞かされた時、その言葉にどれほど打ちのめされたことでしょう。骨髄移植を受けるかどうかの決断をしてくださいと医師に言われるまで、自分が命を脅かすような病気に罹っているという事実に気付いていなかった人もたくさんおられることでしょう。移植が成功する可能性を最大にするためにも受けるかどうかの選択を早急にしなければならないことも時々あり、それがまた、ただでさえ苦しい状況なのに、さらにストレスをもたらすのです。
馴染みのない医学専門用語で治療の手順を示した山のような資料・情報を理解しなければならないことで心はかじかむようです。既に聞かされた事実や自分に起こりうる死について受け止めるだけで精一杯で、更に情報を聞くことなど拒絶してしまう人もあります。同じ質問を何度も繰り返し尋ね、その度に返事が理解できない患者さんもおられます。
骨髄移植を受ける患者が聞かされる情報のうち、よい知らせらしいものはほとんどありません。患者が聞きたいのは、骨髄移植というものが「あっという間に終わり、危険性のない治療法である」ということなのです。さらに重要なことには、患者は移植を受ければ、病気が治り、この先何年も寿命が得られるという保証が欲しいのです。しかし残念なことに、そうした保証は何ら得られません。患者にとって確かなことは、「将来を手にするチャンスが得られる」ということだけなのです。

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もっと不安になる話を聞かされるのが恐くて、多くの患者さんは質問をするのを止めてしまいます。
答えを知りたいのだけれど、さらに不安になる話に自分をさらすよりも、不安を抱えたままにしておくことを選ぶのです。

情報を集める
医師が、骨髄移植について抜け落ちがなく偽りのない表現をしようとしても、患者を混乱させ打ちのめしてしまうときがあります。医師は患者がカテーテル・静脈注射・アスピレート・バイオプシー(生検)などといった医学専門用語はほとんどわからないことが多いのに、当然馴染みのある言葉だと思ってしまうことがあります。ある患者が「医師は医師語を話し、患者は人間語を話す(医師は医学を論じ、患者は人間を論じる?)」と表現しています。医師に「もう一度説明してください」「私にわかる言葉で話して下さい」と頼むことを躊躇しないでください。何度繰り返そうが、答えが納得できるまで尋ね続けてください。
骨髄移植に伴う合併症や副作用に関して、先の見通しを聞かせて欲しいと医師に尋ねてください。例えば、死亡する確率、肝臓が重度に損傷される確率が一時的な脱毛や口の痛みなどが起きる確率と同程度だなどと仮定しないでください(そんなことはありません!)色々な合併症が起こる可能性はどうかを尋ねましょう。そうすればあなたの心配は和らぐかもしれません。
また、時々、医師は骨髄移植中の疼痛緩和も心配が要らないことを言い忘れてしまうことがあります。ですから、患者が可能性のある沢山の合併症などについて聞かされるとき、入院中にひどい痛みに襲われるのではないかと考えるのです。移植後に痛みが生じてくれば、苦痛を軽減するために痛み止めが出されるのが普通です。
患者家族や友人には、医師から与えられた情報の山を患者が選別できるよう助けることができます。医師に同じ質問を10回も尋ねるのを躊躇してできない患者なら、代わりに家族のものが尋ねてあげると喜ぶでしょう。骨髄移植を受けた誰かで、自分の経験について喜んで話してくれる人の名前を渡してあげることも、とても助かるでしょう。移植医に会う前に、疑問に思うことは何でも書き留めておき、そのメモを持っていくとよいでしょう。

目標を設定する
骨髄移植のために病院で過ごす移植前、移植の最中、後の、全時間は終わることのないように思えるものです。患者がとんとん拍子に日々良くなっていくことは滅多にありません。毎日がとても少ししか前進ぜず、時には後退もあり、全く変化のないこともあります。元気になって、人生のこの時期を過去のこととしたいと一日千秋の思いでいる患者や愛する家族は、鈍い快復に落ち込みます。
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この先5日間、5週間、5年内に起こりそうなことを心配するのではなく、その日その日を乗り越えていくように考えるのが良いでしょう。医師もその他の医療従事者も患者がその日その日に達成できる処理し易い目標設定をしてあげるのが良いでしょう。また、病状に良い経過が得られたら、どんなに些細なことでも伝えてあげると良いでしょう。「骨髄移植の回復期に起こるごく普通の経過だ」と医療スタッフには当然のことのように思えても、患者にとってはとても励ましになる大ニュースであることもあるのです。骨髄が生着したとき、検査結果が良かったとき、血球数が上昇してきたとき、それを患者に伝え、「おめでとう。良かったですね」と言うべきです。血球数が増加し目標の血球数に向かっていくのをグラフに表わしてあげるのも良いでしょう。患者は「悪い知らせ」にいつも打ちのめされています。どんな向上でも、前向きな知らせでも、いかに些細なことであっても、患者の気力を支えられるのです。
同様に、患者が調子がよさそうに見えるときは患者家族がそのことを言葉にして元気づけてあげると、患者の闘病意欲が高められます。病状が後退することも避けられないですが、そんな時は、あなたのがっかりした思いを患者以外の誰かと話をするのが一番です。

コントロールが効かない
骨髄移植と言うのは身体的に衰弱させられる体験です。移植を受けている患者は数週間は虚弱な健康状態になり、どうしようもなく弱く感じることでしょう。補助なしに歩くことも、本やテレビに集中するのも、会話の流れに着いていくことも、ベッドで起きていることさえも、患者に残っている体力以上に力を必要とするでしょう。かつては体力もあり、自分のことは自分で出来て、他の人から頼りにされていた患者は、この身体の衰弱というものがとても対処しにくいものだと気づきます。自分のコントロールがきかないことは患者にとって恐怖にも怒りにもなるのです。
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この期間に患者が感じる恐怖感を軽減するのには二つの方法が有効です。まず一つは、患者が自分のことを自分でするには余りに虚弱なときは家族が守ってくれると安心できることです。患者が痛み止めが欲しい、質問がある、別な形の助けがいる―そんなときに、家族が適切な病院職員を見つけ、問題を解決してくれる・・と頼れることでとても安心できます。患者は、医師や病院職員が沢山の患者の要求をうまくあしらわないといけないことを知っています。自分と親密な関係の人が患者を守ってくれ、自分だけを見ていてくれると思えることに、とても慰められます。
二つ目は、患者の恐怖心は情報を与えられずにいると不必要に高められてしまうということです。個室に隔離されていると、毎日自分の症例を調べて自分からの質問や症状の訴えなど経過をみてくれている人はいるのだろうか、と不安になります。特に変わった知らせがなくても、一日を通して頻繁に患者のところに医師、教育実習生、看護婦が来てくれるようお願いしましょう。そうすれば患者は自分が忘れ去られてなどいないことを確信できるのです。
患者はレントゲンやその他の検査を受けるたびに、医療技術者、補助婦、その他の馴染みのない病院職員の手に委ねられます。
こんなときは、身体の状態が衰弱していることから生じた恐怖心が強くなることがよくあります。もし問題が起きても、対処するだけの体力もなく医学的知識もない患者にとっては、ぎこちなく患者を扱ったり、いつまでもこのままにして置かれるのか思える程、台の上に患者を置き去りにしておくようなレントゲン技師、そして患者を移動させるときにIVラインの調整器を操作する補助婦などは、患者を怖がらせるものなのです。同様に、何らかの形で患者を身体的に拘束するような検査、例えば、患者の顔面にぴったりとフィットするマスクをつけないといけないような検査や、CATスキャンのように患者を狭い空間に入れるものなどは恐いものです。こうした検査をしている間、家族や信頼できる看護婦がそばにいるか、作用の穏やかな鎮静剤を服用させておくと患者は気持ちが落ち着き、ストレスも軽減されるでしょう。


患者へのヒント

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患者は自分の身体に自分のコントロールが効かないことに怒りを感じます。この怒りが、医師やその他の医療職員や愛する家族にさえ向けられることがあります。患者の怒りや欲求不満を発散させるために介護者にできることがいくつかあります。
一番大切なことは患者を尊重することです。どんなに衰弱した状態でも、成人患者では1人の大人として扱われたい、認められたいという思いがあります。患者の知性は認められるべきであり、慎み深さは尊敬されるべきであり、自分の状況を何らかの形でコントロールしたい気持ちは理解されるべきです。どちらかと言えばしたくないことでもやってみるように、機転を利かせて患者を励ますのではなく、命令しようとする人に対して怒りを示します。このような物事の判断に患者自身の考えが反映されるようなチャンスをあげることで、患者のどうしようもない気持ちや怒りが少し和らぎます。
患者の慎み深さやプライバシーを尊重することも怒りの原因を抑えます。患者の病気が重いほど、患者の身体や心を世間にさらけだしてよい理由などありません。
患者には医師や、心理学者、ソーシャルワーカーなどと二人きりになって、プライベートな心配事や感情について話をする時間が必要です。家族や友人はこの欲求を尊重してあげなくてはなりません。特に、患者と心理学的カウンセラーや、教会のカウンセラーとの話し合いに居座ると、本当に助けを求めている心配ごとや感情を話すことができなくなってしまいます。

隔離
骨髄移植後の患者の免疫系が抑制されているときに、感染を防ぐため患者に特別な用心が払われますが、それが患者に社会から絶縁されたような孤独な気持ちを感じさせます。患者は注意が注がれる中心ではなく、家族や友だちと何の用心もなくマスク・手袋・ガウンもなしに自由に触れ合いが持てて、病気や治療以外のことを考えられるごく普通の環境を切望しています。
病室を患者の部屋らしく雰囲気を変えることで、いつもの生活から引き離されたように感じるのを抑えることができます。家族の写真を手元に置き、寄せられたお見舞いカードを飾り、いつも病室に飾ってある真っ白い「芸術」の代わりに、患者の選んだ絵を飾ることなどが効果的です。寝具カバー類をいつも患者が使っているものを持ち込んだり、好きな音楽が聞けるようカセットデッキをおいたり、本、ビデオなどを用意することでも病室を家庭的にできます。家族やともだちが訪ねるときは、病院の外の様子について話してあげると良いでしょう。家族や友人に関する前向きな明るい逸話や、おとずれた店や美術館の話、見てきた劇や映画の話、職場や学校の最新の噂話など、外の様子が患者にわかるようなものなら何でも話してあげると、孤立感や正常な生活から切り離された感じが減るでしょう。
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身体的なつらさ
骨髄移植の前に受ける大量投与の化学療法や放射線照射の副作用には、移植後の薬物服用や合併症と同様、患者にとってストレスのたまるものがあります。
一時的な脱毛は患者の印象を変え、患者によっては自意識過剰になったり、家族や友人に見られるのをためらうようになります。入院期間中には、頭にスカーフを巻いたり、ターバンを巻いたり、帽子をかぶることで、目立たなくなったと患者は思えますし、かつらよりも心地のいいものです。食事もまた、ストレスの多いものです。病院食は一番ましなときでも、とても貧弱なメニューです。治療による一般的な副作用である口中の痛みでも、食べることが不愉快になります。治療中に患者に投薬される薬が食べ物の味を全くかえてしまうこともあり、口に合わなくなります。家族がもっと食欲の出る食べ物「慰問食★?さしいれ」を持ち込んでくれるのが患者にとってはうれしいようです。(医者の許可が出ていればですが)
毎日飲まなくてはならない山のような薬に患者はひるんでしまい、薬を飲み込もうとしても困難な人もあるでしょう。患者の全体的な健康状態をモニターするための検査のバッテリーは、痛いものではないですが、患者には自分の身体が始終暴行を受けているように感じられるでしょう。こうした必要な薬や検査を省略することはほとんど出来ませんが、介護者が共感してくれることでストレスに対処しやすくなります。
場合によっては、検査に伴う身体的な不快感を減らし、ストレスを軽減させることは可能です。たとえば、骨髄穿刺の前に、デメロールやモルヒネなどを前投薬しておくと、患者の気持ちが静まり、処置が受け入れやすくなります。検査時の苦痛が心配なら、前投薬やその他の痛み止めを適用してくれるよう頼むのを遠慮すべきではありません。あなたの要求に対して医療スタッフがいい顔をしなくてもびくびくしないでください。必要以上に痛みを我慢する理由は何もないのです。
移植を受ける患者の家族は患者の苦痛や要求を医師や医療スタッフに知らせる積極的役割を請け負うべきです。家族が患者の個性を一番良く知っており、患者が痛みや不快感に対してどの程度克己心が強く(我慢強く)助けを求めずにいるのかも知っているのです。病院スタッフは、患者が痛みが出てすぐに楽にして欲しいと言うか、不快感が本当に激しくなってからしか言わないかを知っておくべきです。患者が助けを求めたときにスタッフが反応する速さは家族からのこうした重要な情報によって左右されることが多いのです。
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精神科医の助力
骨髄移植の体験に不安やストレスが伴うのは普通のことであり予想されることでもあります。とても不安で動揺している患者は意気地なしでも気が狂っているのでもありません。ただとてもストレスのたまる経験にとても正常に反応しているだけです。
多くの移植患者にとって移植期間中に精神科医や心理学者が訪問するサービスがプラスになっており、患者にはこうした専門家の助力を利用するよう勧められるべきです。あなたの主治医がこのような有益なサービスを進んで提供してくれないときは、頼みましょう。
患者の中には、移植によるストレスを自分の力で処理できそうにないことに気がついて、ショックを受けたり当惑したりする人があります。今までに一度も心理学者や精神科医の助けを必要としたことのない人には特に当てはまることです。骨髄移植中に心理学的な、あるいは精神医学的な助けを必要とするのは正常なことです。患者が人間として脱落したというのでもなく、移植後もずっと精神科医にかかる必要があるというのでもないのです。
精神科医は患者に鎮静剤や抗うつ剤を用いてストレスを処理しやすくすることがよくあります。骨髄移植患者のほとんどは以前にこうした薬を必要としたことも飲んだこともないでしょう。この類の薬を短期間の入院中に服用することは一般的なことで、それで患者が長期にわたって薬物に依存するようになるわけではありません。
移植患者が経験するとても一般的な問題、「不眠」を何とかしたいときには鎮静剤や催眠剤がとても有効です。睡眠が取れなくなると、患者は急速に消耗し、ぼんやりとして、とても起こりっぽくなり、さらに日中のストレスに対処するのもさらに大変になってしまいます。不眠の改善には薬が有効です。眠れぬ夜とそこから生じるストレスを我慢する必要などありません。

患者のために、そばについている
患者家族が患者の世話をするときに1日1日のことを考えて関わっていくことがとても大切です。家族や友人が患者にしてあげられるのが、ただ「そこにいる」ことがベストであるときが良くあります。愛する家族やともだちがそばにいてくれるだけで、とても慰められるものです。お見舞いに行っている間中、何かを話し続けなければならないと思わないでください。読書をしたり、時々患者と話をしたり、テレビを見たり、家にいるときのように一緒に時間を過ごしてください。一番大切なことはあなたがそこにいるということなのです。
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ほとんどの入院期間を通して、患者は見舞い客と話をしたり電話に出ることさえできないほど弱っているでしょう。それでも、患者にとっては家族や友だち、職場の同僚が自分が快方に向かうことを願い、回復を応援していると知ることは大切です。患者は、自分が誰かに忘れ去られていると感じると、とても落胆します。家族や友達から届いた、お見舞いカードも手書きの手紙も、励ましのことばも病室で孤独を感じている患者にとってはとても意味のあるものなのです。留守番電話(応答器)を患者の電話にしておくことも、患者がエネルギーを消耗させる電話の応対に出なくても、家族や友だちからの回復を願う声を聞かせることができる一手でしょう。
友達や知りあいは深く立ち入るのを恐れて、電話や手紙を控えることがときどきあります。あなたが電話したり手紙を出したいのなら、まず家族などに聞いてみることです。大抵は、あなたが患者を気遣う気持ちを伝えることは患者の闘病意欲を高め、回復に良い影響が出るものです。その他にも、血小板を患者のために献血する、患者家族の家庭の雑用を引き受ける、患者の子どもの面倒を見る、患者に付き添っている人が一夜でも家に帰れるように交替する、患者が仕事に復帰するまで仕事をカバーしてあげる――なども、とても喜ばれるでしょう。
夜間は患者はとても隔離された感じがして寂しく、特に緊張が高まります。気が紛れるものは少なくなるし、助けを求めていける顔見知りの姿もあまり見当たりません。日中には普通程度だった恐怖感は、暗闇の中でひとりになると一層高められます。--------------------------------------------------------------------------------
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多くの移植設備では付き添いのものが泊まれるように患者の病室に簡易ベッドやソファーベッドを置いています。愛する家族が同じ部屋に夜もいてくれることで患者のストレスはとても軽減されるのです。もし今いるセンターにて、付き添い用の宿泊用具を通常は用意していなくても、喜んで特別に準備してくれるでしょう。

日常生活に復帰する

病院から解放される日は興奮するものでも、恐いものでもあります。また反対に、患者は病室に隔離されていた状況から抜け出せてうれしいものです。他方では、患者の医療的な需要に答えてくれるよう控えていてくれた病院職員の安全網を失うことはとても恐いものです。
病院の外の世界の光景、音、においが患者の知覚を襲ってきます。患者が病院から初めの一歩を踏み出し、元の普通の生活へと復帰していくときはとても感動的でもあり、消耗する経験でもあります。
回復期間中に、患者は自分がもう正常であり、そのように扱われたいと切望します。哀れみは欲しくないのです。自分のことは出来るだけ自分でやりたいし、絶対に必要なことでない限り、特別扱いをされたくないのです。
家族や友人、職場の同僚は患者との関係を再構築するのが難しいと感じることがあります。患者は以前と違って見えます。痩せていたり、一時的に髪がなかったり、感染を防ぐためにマスクをつけていたり、体力も全くないように見えるでしょう。患者は数週間あるいは数ヵ月社会から隔離されていたのですから、かつてと同じだけ家族や友だちと多くの経験を共有してきてはいないのです。訪れた人は適切な話題を探すのにぎこちなさを感じ、このぎこちない感覚のために電話や訪問を思いとどまってしまうこともあります。
特に子どもの場合は、病気についての無知が患者との関わりを恐れさせてしまうのです。ある高校生が言うには、彼女が学校に戻ってから、彼女が姿を現すたびに学校の廊下が文字どおり、ひとっこ1人いない状態になったそうです。他の子どもたちは病気が移るのを恐れ、もう死にかかっていると信じきっていたクラスメートと関わるのが不安だったのです。
ともだちや患者家族はこうした移植後のぎこちなさを、移植を受けている間も患者と連絡を取り続けるようにすることで克服できます。病院の外の普通の暮らしを、お見舞いに行っている間も、メモでも、電話ででも、患者と共有することで移植後の関係をスムースに築くことが出来るでしょう。
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移植する成人患者の子どもは、移植を受けた子どものともだちやクラスメートの場合と同様に、患者が家に戻ってくることを伝え、「病気が移る」とか「患者の死が避けられないものである」とか言う「神話」を前もって十分に振り払い、心の用意をさせてあげるべきです。これは患者のストレスを和らげるためだけではなく、子どもが自分の親や友だちに対して抱いている、内に秘め恐怖感を和らげるためでもあります。
友だちが、患者といつどんな風にしたら元の普通の関係になれるか確信が持てず、自分から行動を起こす前に、患者からのきっかけを待っていることが良くあります。例えば薬局に薬を受け取りにいってもらえないか、子どもを学校の行事に連れていってくれないか、買ってきたものをデパートに返品して来てくれないか、といったように些細な仕事の代理を友だちに頼むことで、糸口ができて、ともだちも患者が友だち付き合いをする用意ができたことを知るのです。
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移植患者の友人は、患者を過度に肉体的負担や危険のない場所や催しにさそってあげると、患者が元の正常な生活へと気楽に戻れることもあります。このように出かけるときには、患者はマスクをつける必要があることもあります(せっかくの楽しい経験もマスクがあってちょっと残念ですが)が、普通の生活の流れに戻りたいと願う気持ちが、マスクで目立ってじろじろ見られるのが嫌な気持ちを克服し、誘ってくれたことに、とても感謝するでしょう。
回復期には、移植片対宿主病 (GVHD)―移植後に起こる副作用で、同種骨髄移植を受けた患者の多くに現れる―もまた、とてもストレスの多いものです。GVHDについては第9章で詳しく述べてあります。



患者を支える人のためのヒント
骨髄移植は患者にとってだけでなく、周りで患者を支える人たちにとっても大変なものです。特にこの先、付き添おうとする人や、責任のある分担がある人ではそうです。ここに役に立ちそうなヒントを挙げておきます。



そして何ヵ月も経って―
移植体験の記憶は時と共に薄れていくものですが、移植による精神的外傷はその後何ヵ月も、時には何年も残ります。患者が移植体験のことを考えずに一日を過ごせるようになるまでには、ずいぶんと時間がかかるものです。全く移植と何の関係もない言葉や出来事が不愉快な記憶を呼び起こし、その度に患者は動揺します。
移植を経験してきた人の多くが、体験について話すのはつらく、特に深く関係もなかった人と話すのはつらいものだと感じるようです。過去の苦しみを忘れ、救われた命を大切にして生きていきたいと感じているのです。
中には自分の体験を聞いてもらいたいと思う人もあります。支援団体が支えになる患者さんもあるでしょうし、カウンセラー・他の移植患者・家族・友人と一対一で話したい人もあるでしょう。
移植患者の家族や友人が、患者が自分の思いを彼らと話したがらないことで、拒絶されたように感じるのは良くあることです。しかし、患者がそうした人たちを愛していればこそ、みんなの心配がありがたいとおもうからこそ、患者は、自分のペースにあわせて、自分のやり方で、移植体験と取り組む必要があるということを理解するべきです。残念なことに、患者はどれほど周りの人の支えがありがたいと思っていても、自分自身も家族たちも両方がこの体験を論じるだけの精神的エネルギーを持ち合わせていることは滅多にないのです
多くの移植患者が体験する化学療法や放射線照射の副作用で、長期に及び、かつ緊張の多いものは不妊・男子不妊の問題です。精子バンク・超低温凍結受精卵保存法・養子縁組・ドナーの精子や卵子を用いた補助的生殖医療などは、移植患者がこの問題に対処する際に、考慮できる方法です。こうした選択肢については、11章で詳しく述べられています。
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骨髄移植は感情的に大パニックを呼び起こすにもかかわらず、移植後の人生はとても特別なものです。どんなに予後が心配ないと言われても、患者にとって将来はあって当たり前のものではなく、人生の一日一日を精一杯活かして生きる喜びを感じていくことがよくあります。移植後の生存月数が月単位から年単位へと延びるに連れて、この先自分に与えられた長い人生を再び楽しみにできる喜びをさらに感じることができるのです。

1991年6月15日土曜日、私たちはフロリダ大学骨髄移植病棟「シャンズ病院」の開設10周年記念を祝いました。知人たちの様子はすっかり変わり、私たち皆、(苦しいことは)時間が癒してくれることをこの時ほど鮮明に感じたことはありませんでした。私たちが最後に会ったときには骨髄移植病棟で過ごす時間に苦しみ憔悴しきっていた大勢の「病院卒業」の元患者たちは、もう元の輝かしい健康な自分に戻っていました。何という素晴らしい顔ぶれの勢揃いでしょう。
その場にいたもの皆に、笑いと涙がこみ上げていました。この、命をかけた挑戦に敢然と立ち向かうすべての人に、この詩を捧げます。

心の準備が整わぬヒーローたちよ
Unready Heroes

休み無く学ぶ人生―
文字は丸覚え 数は暗唱 歴史の流れを読み
菓子を焼き 切れたフューズをつなぎ 緩やかに踊り
こうしてわれらは生まれ 育まれ 歳を取り 死を向かえ
されど 紛れもない事実 医師への同意の証しに 心の用意は整わず

慎み深く学んだ人生―
病室の扉を閉ざし 身体に布を纏い
少女を少年たちより遠ざけ 男と女は仕切りで離され
自然な身体の営みに気取った言葉をあて
それがゆえ 日々ポータポティー(簡易便座)の中を
医師に調べさせる開き直りすらできず

危険を求める無防備な人生―
危険な木登り 無茶に道を横切り バンジージャンプ
サーフライディング 暴走運転 飛行機操縦
ロラーコースターに戦慄を求める
されど 命懸けの挑戦 冷酷な現実には 心の用意さえ整わず

常に用心深い人生―
危険から身を隠し 無茶もせず
ラグビーなら 前衛ど真ん中に 突っ込み
最低限の努力で切り抜け 特に抜きんでることもなく合格点
それがゆえ 医師の誇りのヒーローとなる心の用意もできず

ジョン・グラハム・ポール、MD、フロリダ大学小児科教授


(迷訳・珍訳ですが、この詩は闘病体験のある心の友と私と二人の合作です。味わって見てください。―撫子なんちゃんより)
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