原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 5章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん
(Page 47)
1991年におおよそ1000人の患者が米国では末梢血幹細胞採取とその移植(PSCH)を行いました。PSCHは急性骨髄性白血病(AML、急性非リンパ性白血病ANLLとも言う)・急性リンパ性白血病(ALL)・ホジキン病・ノン‐ホジキン性リンパ腫・脳腫瘍・乳ガン・卵巣腫瘍・多発性骨髄腫・小細胞肺ガン・睾丸腫瘍・神経芽細胞腫の患者に移植をする際の自家骨髄移植の代用あるいは追加併用法として用いられてきました。
米国内の58以上の移植センターが今日ではPSCHを実施しておりその症例数はどんどん増えています。PSCH移植が自家骨髄移植と違っている点は、ただ幹細胞(移植で患者に輸注される細胞)の採取法だけです。
幹細胞
成熟細胞は幹細胞といわれる母細胞から発展してきます。最も原始的なものは多能性幹細胞で、すべての血液細胞のおおもとであるとされています。多能性細胞がその他の血液細胞と違う点は、無制限に自己再生能と分化能力を持っているということです。自己再生能とは細胞がそれと全く同じ細胞を作り出すことができるということで、これにより安定した数のこの細胞が身体には維持できるわけです。分化能力とは細胞が一種類以上の成熟細胞を生み出せるということで、最終的には赤血球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球、血小板になっていきます。
医師が移植の際に骨髄を用いるとき、必要なものはその中の幹細胞なのです。幹細胞は中サイズの白血球のように見えます。おおよそ10万個の骨髄にある細胞の内、幹細胞は1個あるかないかです。
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幹細胞が患者の血流に輸注されると、ある骨の内部に移動してゆき、活動し始めコロニーを形成してcommitted
前駆細胞といわれる未成熟な細胞を作り出します。この前駆細胞が各種コロニーを形成してそれぞれが赤血球、白血球、血小板に育っていきます。
体内で一番幹細胞がまとまって見つかるのは骨髄ですが、幹細胞は血流すなわち末梢血の中にも見られます。血液中の幹細胞は骨髄中に比べると通常1/100程度の割合でしか含まれていません。末梢血液中から幹細胞を取り出すことを末梢血幹細胞ハーベスト(PSCH)といいます。
末梢血幹細胞採取(ハーベスト)
血流から幹細胞を取り出す過程は血小板献血者から血小板を取り出す過程と同じようなものです。患者はアフェレーシス装置という細胞分離器につなげられます。針を腕の静脈に刺して血液を採取し、幹細胞を選び出すための機械を循環させます。幹細胞を取った残りの血液(幹細胞以外の細胞)はもう一方の腕から血管に戻されます。あるいは、採取するときも戻すときもカテーテルを通すやり方もあります。
PSCHは苦痛がありません。患者は時に、軽度の頭痛、寒気、唇のあたりが痺れる感じ、採取中手が痙攣することがあります。
通常、移植に必要なだけの幹細胞を血流から取り出すには1回に2〜6時間かけてそれを数回繰り返す必要があります。「増殖因子」「コロニー刺激因子」(例−顆粒球コロニー刺激因子G−CSF、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子GM−CSF)が、末梢血幹細胞を採取する前とその期間中に投与されると、採取する処置の回数と継続時間は短縮されます。この手順は通常外来患者扱いで1〜2週間かけて行われます。一回毎に、幹細胞は極低温保存?といわれる方法で凍結しておきます。
(副作用について触れていませんね…(゚o゚)
末梢血幹細胞移植が適用になる疾患
・急性白血病
・脳腫瘍
・乳ガン
・ホジキン病
・多発性骨髄腫
・神経芽細胞腫
・ノン‐ホジキンリンパ腫
・卵巣ガン
・肉腫
・睾丸腫瘍
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PSCH法を採用する理由
医師がPSCHを勧めるときはさまざまな理由があります。時には骨髄から取った幹細胞を補うために用いられます。その他には、患者の骨髄がガン細胞で汚染されているかもしれない時に、末梢血の方は同様に汚染されていないことを期待して骨髄の代わりにPSCHを用います。前処置としての骨盤域への放射線照射と化学療法により骨髄中から得られる幹細胞数は減ることがあり、PSCHが必要になります。
PSCHの賛成論と反対論
PSCHにより骨髄が移植には不適切な患者にも唯一の自家移植を受ける機会が得られます、PSCHはまた、幹細胞の採集に全身麻酔が不要で、不快感をほとんどあるいは全く伴わないので、外来扱いで処置ができます。しかし、PSCHでの幹細胞採集には何日も、また何週間もかかることがあるのに対し、骨髄採取はオペ室で2時間1回の処置で済みます。幹細胞を、末梢血から採るのと骨髄から採るのとの所用時間の違いは、病気が急速に悪化している患者にとっては重要な問題です。
PSCHは採取した各検体を別々に凍結しないといけないので更に研究室での加工(プロセッシング)を必要とします。これにより費用がかさんだり、移植センターによっては研究室サイドの負担が増大します。骨髄移植ニュースがPSCHを実施している58の移植センターに対して1992年に実施した調査では、「移植に十分なだけの幹細胞を得るためにかかる費用はPSCHの方が骨髄から取るよりも高い」と38%が答えています。また、その金額の違いは2割増し以上であると答えたところが31%ありました。
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血流から得られた幹細胞はうまく自家移植に用いられていますが、骨髄からえられた幹細胞と全く同じではないようです。しかし、移植に用いられる幹細胞が骨髄からであれ末梢血からであれ、完全回復率や長期生存率荷は影響がないようです。結局、自家骨髄移植の成功は、移植前に病気の細胞を破壊するために行われる化学療法や放射線照射ほどには、移植に用いる幹細胞の源に左右されることは余りないようです。
ディランジェの体験
インディアナ州ブレーメンにいる46歳のゼルダ・ディランジェには誇りとすべきものが沢山あります。彼女の乳ガン治療で末梢血幹細胞移植を受けて一年とたっていないのに、常勤の仕事に復帰し、1人目の孫エリンちゃんができたことを喜び、他の骨髄移植を受けようとする患者を支援しています。
ディランジェの回復への道は容易ではありませんでした。まず、ブルークロス/ブルーシールドが治療費支払いを拒否しました。「私が働いてる学校の女性たちが支払拒否のことを聞いてとても心配してくれました。同じことが自分にも起こり得ると悟ったのです。」とディランジェは言いました。「学校の職員や近隣の人たちが先頭に立って署名運動を展開してくださったり、インディアナ州のケント・アダムス議員と前知事のオーティス・ブラウンの介入、弁護士の力など、多くの助力のおかげで、ブルークロス/ブルーシールドは最終的には軟化し、支払いに応じたのです。」
1991年4月には、ディランジェと夫のラリーは、8日間毎日連続往復5時間かけて運転し、シカゴまで、末梢血幹細胞採取のために通いました。「看護婦さんがたは皆ほんとに慈悲深く天使のような人でした。ある人は私たちのために家から食事を作って来てくれました。そして採取処置をしている間、映画のビデオを持って来てくれて楽しませてくれました。」とディランジェは言いました。(訳者コメント−本当にそうなのです。NYでおかゆが食べたいという娘にどこかの日本食品店からレトルトのおかゆを買って来て温めて病室まで持って来てくれた人、ファミコンやビデオで楽しませてもらったり、かわいいばんそうこうを張ってもらったり、色とりどりの翼状針の針先を折って束ねてブローチのように結び「忘れないでね」って言う検査技師や〔もったいない?でもそれで子どもが心を開けば安いもの〕、もう言い出したらきりがない…みんなみんな温かかった。診察も看護も検査も受け付けも。)
一方、ブレーメンにいる友人や隣人たちはダンスパーティやその他の基金集めの催しを開いて、闘病費用の資金援助をしました。ラリーはトラックの運転手でしたが、クリスマス以降解雇されていました。治療中はゼルダに付き添えるように、春には仕事に戻れる機会を断りました。6月、移植のために入院してから28日目に、ゼルダは家に帰りました。「私が入院していたときの家族・友人・社会からいただいた支援は夢のようでした。70歳
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になる両親や息子、息子の友達、その他の家族みんなが私を見舞うために遠くから運転して来てくれました。学校の校長や先生方は血小板を献血しに来て下さいました。妊娠5ヵ月の娘が来たときは、私は本当に何がなんでも治らなくっちゃと思ったものです。初孫を見たかったですからね。」ゼルダは6月末には常勤で職場復帰しました。「初めの一週間はきつかったです。家に着くとバタンキューで、かろうじてご飯を食べて寝るだけの体力しか残っていませんでした。でも1日1日と日が経つに連れて、楽になってきました。」とゼルダは言いました。
遠からず、ゼルダは自分がいただいた親切を治療中にお返しできる機会に恵まれました。近くに住む、ブレーメンで車を買う?64歳のおじいさんが、私の経過を気にして私のことを色々聞くんです。そしてようやく、彼がリンパ腫の治療でインディアナポリスで末梢血幹細胞移植を受けることになっているとわかったので、私は彼に励ましたの手紙を書きました。」彼らは一ヶ月前に始めて出会い、それからずっとお互いに差さえあっているのです。「When
you give a little of yourself, you get a lot back in return.あなたが自分をほんの少し出せば、たくさんかえってくるわよ。(少し手を差し伸べれば、そこから得るものは多いわよ???????どういうニュアンスかわからないよ(^^ゞ。)」
「移植を受ける決心をするのは容易ではありません。初めはまるでローラーコースターにのせられているかのように感じるでしょう。何もかもが自分の管理から外れてしまいます。あなたの命は見知らぬ人の手の上にあり、未知のものへの言い知れない不安が募ります。時には心は空っぽになり、時には私は何をやっているんだろうと思います。でも、その次に『じゃあ、代わりの方法は?
どうせ死ぬのなら、闘って死にたい。』と思いました。私はまだ病気に負けたくなかったのです。こうして生き残れたことは、特別な思いです。
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BMT Newsletter (c) 1992
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