原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 3章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん

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第3章 自家骨髄移植


骨髄移植について思い巡らすときに、人は二者を心に描きます。白血病などの骨髄異常などで苦しんでいる患者と、患者の病気の骨髄にとって変わる健康な骨髄を提供するドナーの二者です。この二者の関わりがある移植が同種骨髄移植であり、ドナーと患者が一卵性双生児である場合は、共通遺伝子の骨髄移植(同系骨髄移植)になります。
しかし、また別のタイプの骨髄移植で自家骨髄移植autologous(オートロゴスという)と言うものが、現実にはさらに一般的に行われています。自家骨髄移植では、患者はドナー役と骨髄を受け取るレシピエント役の一人二役です。毎年約5,000例の自家骨髄移植が実施されており、同種・同系骨髄移植をあわせた数を2対1の割合で凌いでいます。
同種骨髄移植に伴うGVHDのような合併症は自家骨髄移植では避けることができます。感染を起こす危険も、やはり自家骨髄移植の方が幾分か少なく、それは同種骨髄移植においてはGVHDを抑えるために大量の免疫抑制剤が患者に投与されますが、自家移植ではそれが不必要だからです。

自家骨髄移植を受けるのはどういう人か
自家骨髄移植(ABMTs)はホジキン病、非ホジキンリンパ腫、乳ガン、卵巣ガン、睾丸腫瘍、神経芽細胞腫などのような小児固形ガンといったような命を脅かす病気と診断された何千人もの患者に治療の選択肢の幅を広げました。適切な骨髄ドナーが見つからないために以前には骨髄移植が受けられなかった何百人の白血病患者にも、自家骨髄移植で新たな希望が持てるようになりました。
このような病気だと診断を受けたすべての患者が自家骨髄移植を受けるわけではありません。病気の型、病気の進行の度合い(病期)、先に受けた治療に対する反応性(効果)、患者の年齢、全身状態などにより、患者が自家骨髄移植を受けるのに適しているかどうかが判断されます。

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白血病は例外として、自家骨髄移植で治療する病気は通常は骨髄の異常が原因であったり骨髄の異常を伴っていたりはしません。そうではなくて、身体のどこか他の部分に悪性のガン化した腫瘍があって、それが、大量の化学療法や放射線照射に反応する場合です。ところが大量の化学療法や放射線照射をすれば、患者の骨髄も一緒に破壊されてしまうのです。骨髄がなかったら、その身体は感染と闘ったり、酸素を運搬したり、出血を防いだりする血球を作り出すことができません。自家骨髄移植というのは、医師が大量化学療法や放射線照射を施した後に、崩壊された患者の骨髄を、あらかじめ抜き取っておいた患者の骨髄を戻し、患者「救済」を可能にするものです。
以下にあげた疾病については、自家骨髄移植で治療されたときの長期生存率が引用されています。この数値はさまざまな状況を含めたballpark estimatesに過ぎないことを忘れないでください。個々の患者の生存率は患者の年齢や全身状態、病気の特性、病期、これまでの治療への反応性などによって違います。患者の主治医が、自家移植を受けた後の長期生存率については一番よくわかっているのです。

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ホジキン、非ホジキンリンパ腫
自家骨髄移植が一番良く実施されるのがホジキン病、非ホジキンリンパ腫と診断された患者を治療する場合です。ホジキン病は、リード・スターンバーグ細胞という異常な細胞が一ヵ所以上のリンパ節でみつかるものです。治療をしないでおれば、この異常な細胞が近くの器官や組織に浸透し、正常な機能を崩壊します。
同様に非ホジキンリンパ腫でも、欠陥のあるリンパ球(白血球のひとつ)がリンパ節、骨髄、脾臓、消化器官などのいずれか一ヵ所以上で作られます。そのままにしておけば、そのリンパ球がその他の器官や組織を侵略し、正常な機能を妨害します。
ホジキン、非ホジキンリンパ腫の患者は放射線照射や化学療法の単独あるいは併用療法で治癒することが良くあります。しかし、放射線照射や化学療法で寛解が得られなかったり、化学療法の後に再発したり、治療を受けている最中に病気が進行したりすると、自家骨髄移植が救命のためには最良の選択となるでしょう。非ホジキンリンパ腫のある患者で腫瘍が化学療法に反応しないときは(つまり腫瘍の大きさが化学療法では縮小しないとき)、反応が良いタイプの腫瘍に比べると、自家骨髄移植をして長期生存が得られる可能性は低くなります。ホジキン病の患者ではこのことは当てはまりません。
進行したホジキン・非ホジキンリンパ腫で自家骨髄移植を受けた患者の長期生存率は25〜50%です。骨髄移植を受けなければ、5〜10%程度です。

白血病
白血病を自家骨髄移植で治療するのもずいぶんと一般的になっています。急性リンパ性白血病の患者(ALL)や急性骨髄性白血病(AMLまたは急性非リンパ性白血病ANLL)の患者は完全寛解状態に入っていれば自家骨髄移植が実施できます。慢性骨髄性白血病(CML)の患者では完全寛解を得られることがほとんどないため、通常、自家骨髄移植はこうした患者(CMLの治療に自家骨髄移植を使うとても興味深い治験が進められていますが)に選択できる治療ではありません。
白血病は身体の中の血球を作る器官である骨髄の病気です。白血病の患者では、非常に多い異常な白血球が骨髄で作られ正常な血球の造血が妨げられます。正常な血球がなければ身体は感染と闘ったり、酸素を運搬したり、出血を防ぐ力が損なわれます。治療をしないでおけば、急性白血病の患者はおおよそ数週間ないしは数ヵ月の内に死亡します。

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急性骨髄性白血病(AMLまたはANLL)の患者で、標準の化学療法で一次完全寛解を得たものは、骨髄移植によって長期生存の可能性を有意に高めることができるようです。移植を受けなければ、おそらく長期生存率は20〜30%程度でしょう。
一次寛解期のAML患者の治療で、自家骨髄移植が標準の化学療法よりも効果的であるかどうかを調べる研究が現在すすめられています。予備試験では自家骨髄移植を受けた方が生存率は向上することが判ったものの、生存率が向上したのは自家骨髄移植によるものなのか、それともその他の因子、例えば治験に加わるよう選択された患者のタイプや、患者が罹っているAMLのサブタイプなどによるものなのかを決定する、さらに進んだ研究は現在進められています。
また骨髄移植は急性リンパ性白血病の患者にも実施されます。ALLは子どもに多い病気です。標準の化学療法での治癒率がとても高いだけに、今日までにALLの治療に骨髄移植が適用された症例に関してわずかの研究しかされて来ていません。自家移植も同種移植もALL患者にとって有効な治療の選択肢であることが研究から判ってきたものの、信憑性のある長期生存率を打ち出すには、現時点ではまだ不十分なデータしかえられてないと専門家たちは考えています。
白血病の治療に自家移植が選択可能な治療法であると聞くと驚く人が良くあります。完全寛解に達した後も患者の骨髄の中には悪性の細胞が残存しているということが判っているだけに、患者から不完全な(病気の)骨髄を採取してそれを自家移植法で患者の身体に再度輸注することに何の意味があるのだろうかと不思議に思うのです。
研究者には確信ある解答はできませんが、患者の身体の中に再導入されたガン細胞の数がとても少ないために、身体が本来持つ防御力が働き、ガン細胞が増殖する前に破壊することができるのだと理論づける学者もあります。多くの移植センターでは採取した骨髄中に残っているガン細胞を減らすために骨髄をパージング(浄化)処理しています。パージングに関する詳細は30ページを見て下さい。

乳ガン
乳がんは女性がかかるガンで3番目に頻度が高く、毎年何千人もの死者が出ています。1990年には、150,000の新たな乳ガンが診断され、44,000人が乳がんが原因で死亡したと報告があります。
この乳がん治療の初期治療は放射線照射を伴う外科手術か外科手術単独のものです。再発の危険が高い症例では、化学療法が外科手術の後に行われますが、乳がんがいったん広がり転移すると(ステージ4)通常の化学療法ではもやは治癒できません。

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過去5年間、進行した乳ガンを大量化学療法と自家骨髄移植を併用して治療ができないかという研究がされてきました。自家骨髄移植では、化学療法後に患者の骨髄を置き換えることができるのだから、以前に可能だったものより、さらに強力な大量化学療法ができるはずです。
以前に強力な化学療法を受けたステージ4の乳ガン患者を超大量化学療法と自家骨髄移植で治療する臨床治験における早期の結果は期待の持てるものでした。患者の27%に寛解が得られたのです。しかし、その寛解は永く維持できませんでした。
以後、ステージ4に入ったばかりで、以前に強力な化学療法を受けたことがない患者や寛解後に初めて再発した患者を対象に行われた治験では、超大量化学療法と自家骨髄移植を受ける前に1サイクルの化学療法を実施すると、症例の50%以上に寛解が得られ、その中の一部は3年以上の寛解維持が得られたことが判りました。
超大量化学療法と自家移植の前に化学療法を実施することが、ステージ2の乳ガン患者(ガンが腋下のリンパ節に転移している患者)と、ステージ3で一次寛解中で再発してはいないが、再発の危険が高い部類に入る患者(ガンが10ヵ所以上のリンパ節転移をしているもの)の生存率を向上させるかどうかの治験は現在進行中です。既に得られている範囲の結果からは、期待が持てそうです。

小児神経芽細胞腫
小児の神経芽細胞腫は頚部から背中を通って骨盤まで走っている神経を侵すガンです。これはほとんど乳幼児期の子どもにしかみられません。早期に発見されると、放射線照射と外科手術で治療されますが、診断がついた時点で病気が進展して転移している患者では、化学療法ではごくわずかの%の患者しか治癒していません。
大量化学療法と自家移植で治癒率の向上を試みる研究がなされてきました。研究では腫瘍が標準の化学療法に対して抵抗性ができている患者の一次寛解時に、大量化学療法と放射線全身照射の単独あるいは併用と自家移植により40〜50%が2年以上の寛解維持を得られるということが判りました。再発後に自家骨髄移植を受けた患者については生存率はさほど良くありません。自家移植で治療した患者の長期生存率は同種骨髄移植で得られた結果と同様です。

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その他の病気
卵巣ガン、脳腫瘍、ユーイング肉腫、睾丸腫瘍、その他の固形ガンも自家骨髄移植で治療されます。こうした疾病を自家骨髄移植で治療することの有効性について主治医に情報を求めましょう。

骨髄のパージング
パージングと言うのは自家骨髄移植を受ける患者から採取した骨髄の中に残っているガン細胞の数を減らすために移植センターが用いる技術です。パージング処理の背景にある理論は簡単です。採取した骨髄中のガン細胞を減らせば、自家移植後の再発傾向が下がるだろうということです。
パージングには二通りの技術が用いられます。一つは「モノクローナル抗体」という特殊なタンパク質で、悪性の細胞と正常な細胞を見分け悪性細胞の表面にくっつくものを用いる方法です。こうして標識をつけられた悪性細胞は、さらに別の「補体」 あるいは "immunotoxins"といわれるタンパク質によって壊され取り除かれます。あるいは小さな磁気を帯びたビーズで「マイクロスフィア」というものにモノクローナル抗体で被膜を作り、骨髄と混合します。骨髄は電磁石間を通る間に、マイクロスフィアと一体化した悪性細胞が取り除かれます。
二つ目の方法は薬物処理によるパージング法です。骨髄を正常細胞よりもガン細胞に対して毒性が強い化学物質とインキュベートします。その後、骨髄を患者に移植します。
現在、米国内の多くの移植センターでは、白血病の患者から採取した骨髄を自家移植の前にパージングします。動物実験では骨髄中に残っている白血病細胞を除去するのにパージングは効果的であると判明しています。最近、ヨーロッパで実施された白血病患者を対象にした研究では、パージング処理と長期生存率向上とが密接に関連していると発表しています。
非ホジキンリンパ腫の患者から採取した骨髄のパージング処理は更に論議を呼んでいます。今日までにパージング処理した骨髄で非ホジキンリンパ腫の患者の長期生存率が向上したという研究結果は発表されていません。
ホジキン病の患者から採取した骨髄をパージングすることは一般的に行われていません。しかし神経芽細胞腫の患者では一般的に行われています。
パージングには欠点があります。薬物を使ったパージングでは悪性細胞だけでなく正常な細胞にもダメージを与え、生着遅延が起こり、血小板や顆粒球の造血が遅れるために、

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患者が感染に対して抵抗力がなく出血傾向がある間、入院期間の延長という結果を招きます。薬物を用いたパージングに伴う問題は、パージング処理に用いる薬剤の最適濃度に関する研究が進み明らかになるに連れて、減ってきています。

回復後
長期生存が望めるかどうかの予後は治療した元の病気が何であったか、自家骨髄移植を実施した時点での病期、患者の年齢、治療歴、移植期間中に出た合併症によって変わります。自家骨髄移植(あるいは他の骨髄移植であっても)で病気が治癒するという保証は全くありません。
にもかかわらず、その他の方法では通常はほとんど確実に死が待っています。それだけに、移植により得られた人生の一日一日は格別です。自家骨髄移植で得られる可能性のある報酬はやってみるだけの価値が十分あると多くの患者が口を揃えます。

ジョージアの体験談
私は1989年の2月に乳ガンと診断されました。6回の手術、8週間の放射線照射を含む18ヶ月間にわたる絶え間のない治療に耐えてきました。そしてとうとう1990年の3月に自家骨髄移植を受けました。乳ガンと闘うために乗り越えてきたことすべてが信じがたいです。私の乳がんがステージ4だと知ってすぐに自家骨髄移植を受ける決心をしました。私の病気が転移しているので化学療法では十分に闘えないだろうと思ったのです。親しい友人が転移した乳がんで骨髄移植を受け、母の友人の義理の娘もやはりそうでした。どちらも移植後に亡くなりましたが、彼女たちの病気は移植を受けた時点で、私の病期よりも進行した病期でした。2例も悲観的になる前例があり、励みになるような例は一つもなく、ずいぶん大胆なことをしているんだと気づきました。でも、私は病期がまだ彼女たちより進んでいないという事実が違った結果をもたらすかもしれないと思い、自家移植を直ちに受ける決心をしました。何と恐い決心をしたこと!・・それにしてもなんて恐い病気だこと!
腫瘍科の医療チームと移植することについて話をしたとき、彼らはとても協力的で、治癒を目指している私を支援してくれました。乳がんがステージ3に進行している場合は、患者は骨髄移植という選択可能な手段があることを伝えられるべきだと強く感じます。おそらく移植がうまく行くチャンスは、移植実施時期がおそいより早い方が高いでしょうからね。

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ステージ3のときにガンの限局性の転移を局部的に照射した治療はわたしには役に立ちませんでした。
移植後5ヵ月たって、医師が私の身体にもはや病気の形跡が見つからないと言うのを聞いて飛び上がりました。移植後、数ヵ月間は「ただ、移植が終わっただけ」と感じていましたが、移植を受ける決心をしたことを喜びました。
乳ガンとこんなに厳しく長い闘いをした後に、感情的に、身体的に、心理的に回復するのにはしばらく時間がかかりました。今は治療中に私の身体に加えられた侵襲にもかかわらず、ずいぶん落ち着きました。
以前は週に45人の生徒にピアノを教えていました。しかし、乳ガンと闘病している間は、断続的に、2〜3人の生徒にしか教えることができませんでした。徐々にもとの規則正しい生活に戻ることができましたが、以前に比べるととても適度な状態です。私の心が満足するのに十分なだけの活動量と身体の健康状態にとってオーバーワークな状態との間でバランスの取れた解決を見出すのが難しいですね。
これは私の人生の中で最も厳しい試練でしたが、神に感謝し、自分がここまでやってきたことを自分で誇りに思います。3月には移植後の一年検診に行きます。何ともなかったら、うれしくてシアーズタワーのてっぺんで踊ってしまいそうだわ。もし悪い結果だったら、悲しいけれど、自分の転移性の乳ガンと闘うために、できる限りの最強の治療を私が選んだのだと判っているから・・(後悔はありません)
私の命を救って下さったすべての医療専門家、医師の皆さんに敬礼! そして病気を治すため骨髄移植を受けるほど、命を大切にし愛する すべての勇敢な人たちにも。
イリノイ州在住 ジョージア・コンフォート(40歳)

編集者コメント:ジョージアは移植後一年の検診で、バッチリOK!でした(^○^)。
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