原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 2章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん

(Page 21)

第2章 血球についての基礎知識


血液は様々な種類の細胞から成り立っており、それぞれに違った役割を果たしています。大部分の血球は骨髄で造られ、その成熟(分化)の度合いは様々ですが、血流にのって行きます。
赤血球は血液総体積の45%を占めています。赤血球の一番重要な働きは肺にある酸素を積んで、体中の組織に酸素を届けることです。組織に着くと、赤血球は酸素と二酸化炭素を積み替えて、今度は二酸化炭素を肺に運び、そこで呼気として吐き出されます。
白血球数は赤血球数に比べると血流中には千分の一しかありません。白血球には主に5種類あります。好中球(顆粒性白血球とも言う)、好酸球(エオシン好性白血球)、好塩基球、単球、リンパ球の5種類です。それぞれが感染と闘う免疫系を助ける独自の重要な役割を果たしています。
好中球は細胞質の中に殺菌力のある酵素の顆粒を含んでいます。好酸球(エオシン好性白血球)は感染源となる原生動物を攻撃します。好塩基球は白血球でも一番少ない血球で、その役割は完全には明らかになっていません。喘息や蕁麻疹、枯草熱、薬物アレルギー反応などの、アレルギー反応を調整する重要な役割を果たしています。
単球は一番大きな白血球です。単球は身体を侵略してくる細菌やカビを飲み込んで破壊し、また他の白血球によって壊された異物のクズを掃除します。単球が血流から外れて組織や器官に入ると、単球はマクロファージと呼ばれるさらに大きな細胞になり、身体を侵略する異質な有機体を破壊するさらに強い力を持つようになります。
リンパ球は一番小さな白血球で免疫系の中心勢力となるものです。リンパ球はウイルス感染と闘い、またその他の寄生生物、細菌、カビなどの破壊を手伝っています。リンパ球の一つで、T細胞と呼ばれるものは侵略的有機体に対する免疫反応の統制をとるもので、ウイルスや原虫に対して身体を守る主要な防衛隊です。もう一つのリンパ球でB細胞と呼ばれるものは抗体あるいは免疫グロブリンと呼ばれる一種のタンパク物質を造ります。抗体は感染したことのある異質な有機体や細胞だとその表面にくっついて血流の中のcomplement systemと呼ばれる一タンパク物質グループに招集をかけ、有機体や細胞を取り囲み、穴をあけて壊します。

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血小板は血中の一番小さな細胞小片のような血球です。血小板は出血を止めるのに必要です。



造血
身体の中では新しい血球が絶えず造られています。健康な成人では、約1000億個の赤血球と4億個の白血球が毎時間に造られています。成熟した血球の寿命は短く、数日のものから数ヵ月程度までのものまでとなっています。
体内の血球産生の95%が骨髄で行われます。残り5%は脾臓で造られます。骨髄で造られた血球のほとんどは直接血流中に放たれますが、T細胞はまず胸腺(thymus gland)に行き(胸腺の頭文字を取ってT細胞と呼ばれるのです)、そこで血中に放出されるまでに更に教育やプログラミングをされるわけです。
成熟した細胞はすべて発生由来は同じで骨髄にある「多能性幹細胞」と呼ばれる極めて原始的な細胞から生まれます。この細胞は自身と同じな他の細胞をつくりだすことができます(自己再生能力があります)。多能性幹細胞はまた、その他の幹細胞―リンパ性幹細胞、骨髄性幹細胞を生産し、それらから様々な種類の成熟血液細胞が生まれます。
多能性幹細胞と同様に、骨髄性とリンパ性の幹細胞は最終的には成熟した細胞に育っていく幼若な細胞コロニーcolonies of offspringを作り出すだけでなく、自己再生能力があります。しかし、その自己再生能力は多能性幹細胞よりも限られた能力しかないようで、生み出せるoffspringの種類も少ないようです。リンパ性幹細胞はリンパ球(T細胞かB細胞)になる細胞しか造れません。骨髄性幹細胞からはリンパ球ではなく赤血球、血小板、白血球になる細胞にしか造れません。

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骨髄性とリンパ性の幹細胞は、"committed progenitor" 細胞のコロニーを造り出します。幹細胞とは違い、"committed progenitor" はただ一種の成熟細胞にしかなれません。最終成熟段階を終えた細胞は前駆細胞と呼ばれます。
健康な人では、各種の幹細胞やそのoffspringの数は極めて狭く限定されています。インターロイキンやコロニー刺激因子などのタンパク物質は、幹細胞が自己複写をするのか、それとも成熟した血液細胞になっていくoffspringを造るのか、両方するのか、どちらもしないのか、を決める重要な役割を果たしています。こうしたタンパクは前駆細胞の成熟も調整します。この統制機構が壊れると、骨髄のなかの幹細胞が増え過ぎたり少なすぎたりし、あるいはまた、ある種のprogenitor や precursor cellsが増殖して適切な成熟ができなくなります。
例えば、白血病の患者では、一種類以上の血液細胞(普通は白血球)が、正常に成熟できなくなっています。分化がある段階で止まってしまい、未分化な状態で無制限に自己複製して増えていきます。
骨髄移植により、医師は患者の病気の骨髄を大量化学療法や放射線照射の単独あるいは併用療法により破壊し、正常な血液細胞を造ることができる健康な骨髄とおきかえることができるようになりました。また、乳がんや卵巣がんなど悪性の疾患を抱えた患者も通常の化学療法よりも強力な大量投与で病気の治療ができるようになりました。大量化学療法は腫瘍と同じように骨髄も破壊してしまいますから治療の後に健康な骨髄を入れることで、正常な造血機能が再び得られるようになったのです。
BMT Newsletter (c) 1992

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