原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 1章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん
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骨髄移植はかつては不治の病と考えられていた病気を治療する比較的新しい医療処置です。1968年に第1例が成功して以来、白血病・再生不良性貧血・リンパ腫(ホジキン病など)・多発性骨髄腫・免疫不全症・その他の固形ガン(乳ガンや卵巣ガンなど)と診断された患者の治療に骨髄移植が用いられてきました。
1991年には、全米で7,500人以上の患者が骨髄移植を受けました。今日では毎年何千人もの命が骨髄移植で救われていますが、ドナーの骨髄を用いる移植を必要とする人の70%が、適切な骨髄ドナーが見つからないために受けることができないのです。
70%??
骨髄とは何ですか?
骨髄とは骨の中に見られるスポンジ状の組織です。胸骨・頭蓋骨・お尻の骨(腸骨)・肋骨・脊椎などの中にある骨髄には幹細胞という身体の中の血球を造り出す細胞が入っています。こうした血球には感染と闘う白血球(leukocytes)、酸素を運搬し器官や組織からの廃棄物を取り除く赤血球(erythrocytes)、血液を固まらせる血小板(platelets)があります。
どうして骨髄移植なのですか?
白血病・再生不良性貧血・ある種の免疫不全症の患者は、骨髄の中の幹細胞が正常に作動せず、欠陥のある未熟な血球が過剰に作り出され(白血病の場合)たり、血球数が低くなったり(再生不良性貧血の場合)します。未熟で欠陥のある血球は正常な血球が産生されるのを阻害し、血流中に蓄積していき、他の組織を侵すこともあります。
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この異常な幹細胞や異常な血球を破壊するには大量の化学療法や放射線照射が必要になります。しかしこうした治療法は異常な細胞だけでなく骨髄中の正常な細胞も破壊してしまいます。同様に、ある種のリンパ腫やその他のガンを治療するために攻撃的な(強力な)化学療法をすれば健康な骨髄も破壊されてしまいます。骨髄移植というのは、このような病気の治療をする際に強力な化学療法や放射線照射を可能にするものです。それは化学療法や放射線照射を施した後に、病気の骨髄や損傷を受けた骨髄を、入れ替えることで可能になるのです。
骨髄移植で病気が再発することが100%ないという保証はできませんが、移植により治癒の可能性の増大や少なくとも無病の生存期間延長が多くの患者に認められています。
移植の型
骨髄移植では、患者の病気の骨髄が破壊され健康な骨髄が患者の血流中に輸注されます。移植がうまく行くと、新しい骨髄は大きな骨の空洞に移動し、生着して正常な血球を作り始めます。
ドナーからの骨髄を使った場合は、移植は同種骨髄移植、あるいはドナーと患者が一卵性双生児の場合は、同系骨髄移植といわれます。同種骨髄移植では、患者に輸注される新しい骨髄は患者自身の骨髄とできるだけ完璧に遺伝子配列?が一致していなければなりません。ドナーの骨髄が患者のものと合っているかどうかを決めるために特別な血液検査が実施されます。ドナーの骨髄が遺伝子的にうまくあっていないと、もらった骨髄が患者の身体を異物と認識し、攻撃し破壊しようとします。これが移植片対宿主病(GVHD)として知られる状態で、命を脅かすこともあります。また、患者の免疫系がもらった骨髄を破壊することもあり、これは移植片拒絶(生着拒絶反応?)といわれるものです。
患者が兄弟姉妹で完全一致のドナーを見つけられる可能性は35%あります。適合する兄弟姉妹がない場合は国際骨髄バンク登録機構から見つけ出すか、一部不一致の移植、または自家骨髄移植が考慮されます。
場合によっては、患者自身が自分のドナーになることがあります。これが自家骨髄移植といわれるもので、骨髄に起こっている病気が寛解状態にある場合か、治療するべき病状が骨髄に関係がない(乳ガン・卵巣ガン・ホジキン病・非ホジキンリンパ腫・脳腫瘍など)場合には可能です。骨髄を患者から移植前に抜き取っておき、多分、残っている悪性の細胞(病気が骨髄を侵している場合)を取り除くためにパージングされます。
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移植に備える
移植を成功させるには患者が過酷な移植処置に耐えられるだけの健康状態でなければなりません。患者が移植を受けるべきかどうかを決める際には、年齢、全身状態、患者の診断、病期などすべてが、医師によって考慮されます。
骨髄移植に先立って、患者が肉体的に移植に耐えられるかどうかを明確にするため、一連の検査が実施されます。心臓・肺・腎臓・その他重要な器官の機能検査が患者の基準線を知るために実施され、移植により身体の機能が何か損傷を受けているかどうかを見るために、移植後の検査と移植前の基準線が比較されます。通常、移植前の検査は外来扱いで行われます。
骨髄移植を成功させるには熟達した医療チーム――骨髄移植に十分経験を積み、トラブルや副作用の発現を敏速に認識し、問題が起きれば速やかに且つ適切に対処できる医師・看護婦・その他の支援スタッフ――が必要です。また、良い骨髄移植計画は、患者や患者家族に感情面や心理面での支援を、移植の前後を含む全期間にわたって提供することの重要性を認識しており、こうした目的から患者の支援や他の支援制度を家族が容易に利用できるようにします。
骨髄採取
移植に用いる骨髄が患者から取られようがドナーからの提供であろうが、骨髄を集める処置−骨髄採取−については同じです。骨髄採取は病院のオペ室で行い、通常は全身麻酔を施します。骨髄採取には危険が伴うことはほとんどなく不快感もさほどひどくありません。??こんなこと……簡単に言っていいのかなあ??
患者に麻酔が効いている間に、大量に骨髄が含まれている背部の仙腸骨の空洞に針が挿入されます。濃く赤い液体の骨髄が注射器に抜き取られます。骨髄を必要量抜き取るためには普通、左右のお尻の皮膚に数カ所針を刺し、その刺したところからは(方向を変えて)多数回、骨に針を刺して採ります。外科的な切開や縫合を行うことはなく、針を刺すだけです。(注−跡がきれいになるようにほんの少しだけ切開し、そこから針を刺し、採取後は数針縫合する施設もあると聞いていますが)
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採取される骨髄の量は患者の大きさとドナーの血液(骨髄液)中にある骨髄幹細胞の濃度(数)によって変わります。普通は、1〜2クォート(1クォートは0.95リットル)の骨髄と血液の混ざったものが採取されます。ずいぶん多いように響きますが、現実には全骨髄量の2%程度にしか相当せず、4週間もすれば再生され元に戻ります。(日本人では?
麻酔が切れてくると、ドナーは採取部位に不快感を感じるでしょう。その痛みは氷の上でひどく滑ってころんで打った時の痛みに似ています。通常はアセトアミノフェンなどの鎮痛剤で抑えられます。移植患者ではない健康なドナー(自家移植でない場合)は一晩だけ病院滞在した後解放され、あとは2〜3日内には完全に正常な活動を再開できます。
自家移植の場合は、採取した骨髄は凍結され、移植の当日まで(極低温保存)-80から-196
度の範囲で保存されます。まずパージング処理をされます。パージング処理とは(30ページ参照)顕微鏡レベルでは容易に認識できない、骨髄中に残っているガン細胞を取り除く処理です。
同種骨髄移植の場合は、骨髄はGVHDの危険を減らすためにT細胞除去処理をすることがあります(94ページ参照)その後、患者に輸注するため直接患者の部屋に運ばれます。
前処置
骨髄移植用のユニット(無菌室など)に入れられた患者は、骨髄とガン細胞を破壊するための化学療法と放射線照射をまず数日間受け、新たな骨髄が入る場所を用意します。これがコンディショニングまたは前処置と言われるものです。化学療法と放射線照射の方法は正確にはさまざまで、治療する病気・治療のプロトコル・移植実施施設が選択した治療計画などによって違います。
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コンディショニングに先行して、カテーテルと呼ばれる(ときにヒックマンとか中心静脈ラインなどとも言われる)細くて柔軟な管が、患者の心臓のすぐ上あたりで胸部の太い静脈に挿入されます。医療スタッフは、この管から無痛で投薬したり輸血したりでき、治療期間中に必要な何百回もの血液採取が、患者の腕や手に針を刺さなくてもできるのです。
前処置期間中に患者に実施される化学療法と放射線照射の用量は、同じ病気でも移植を受けない患者に行われるものより遥かに強力なものです。患者は弱くなり、刺激に敏感になり、吐気を催したりします。たいていの移植センターでは不快感を最小限に止めるため鎮吐剤(吐気止め)を投薬します。
骨髄移植
化学療法や放射線照射後1〜2日して、移植を行います。骨髄は患者に輸血と同様にして静脈から輸注されます。骨髄移植は外科的な処置ではありません。手術室ではなく患者の部屋で行われます。
患者は骨髄を輸注している間、発熱・悪寒・蕁麻疹・胸の痛みなどがないか、何度も確認されます。移植が完了すると数日数週間、待機状態の始まりとなります。
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生着
移植直後の2〜4週間はとても重要な期間です。前処置で患者に施した大量化学療法と放射線照射が患者の骨髄を破壊しており、身体に備わっている「免疫系」(防御システム)は無力化しています。移植された骨髄が大きい骨の空洞に移動し、「生着」して活動し始め、正常な血球を作り始めるのを患者が待っている間は、とても感染し易く出血し易くなっています。感染を予防し、闘うために患者に抗生物質投与や輸血が繰り返されます。
出血の予防には血小板が輸血されます。同種骨髄移植ではGVHDを抑えるためにさらに別の薬物治療を受けます。
患者がウイルスや細菌にさらされるのを最小限度におさえるため、特に注意が払われます。病院スタッフも見舞い客も殺菌性の石鹸で手を洗い、場合によっては保護ガウン・手袋・マスクなどを患者の部屋にいるときは付けてもらいます。新鮮果実・生野菜・鉢植え・生花などは真菌や細菌を運び込むことになり患者に感染の危険が及ぶので、患者の部屋に入れないようにします。部屋を出るときには、患者はマスク・ガウン・手袋を身につけ、細菌・ウイルス感染から身をまもると同時に、周囲の人に対してもその患者が感染し易いということをわからせましょう。骨髄が生着したかどうか、また患者の臓器の機能はどうかを見るために、毎日採血されます。移植した骨髄がようやく生着して正常な血球を作り始めると、患者は抗生物質の服用を徐々に止められ、血液や血小板輸血ももはや必要がなくなります。骨髄が健康な赤血球・白血球・血小板を十分な数だけ作るようになると、その他の合併症がない場合は、患者は病院から解放されます。移植患者は4〜8週間病院に入院するのが一般的です。
骨髄移植中患者が感じること
骨髄移植は身体的にも、感情的にも、心理的にも、患者・家族両方にとって負担の大きい治療法です。患者はこの体験と取り組むためにできるだけ多くの支援を必要としており、また求めていくべきです。自分一人で「耐え抜く」のは移植体験と取り組む際には賢いやり方ではありません。
骨髄移植は消耗する体験です。流感の重症なケースを想像して下さい。―吐気・嘔吐・発熱・下痢・極度の衰弱―。次にこんな症状と数日間ではなく何週間も取り組むのがどんなものか想像してみて下さい。入院期間中移植患者が経験するのは、それに近い状態です。
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この期間、患者はとても気分が悪く弱っています。歩いたり、長時間ベッドで起きていたり、読書をしたり、電話で話したり、友達と話したり、テレビを見たりすることさえ、患者に残されている以上に体力が要求されるため、できそうにありません
骨髄移植後には感染症・出血・GVHD・肝障害などの合併症がおこることがあり、さらに不快感を増します。しかし、痛みに関しては薬で抑えられるのが普通です。更に、口の痛みがおこると食べたり飲んだりが苦痛になります。一過性の精神錯乱も時には起こり、一時的なものに過ぎないことを理解しない患者はとても怖がります。こうしたトラブルに患者が取り組めるよう、医療スタッフは患者を支えます。
感情的ストレスを処理する
移植に伴う身体的な不快感に加えて感情面や心理面での不快感もあります。患者によっては身体的なものより感情面や心理面でのストレスの方が問題だと感じる人もあります。
心理的感情的ストレスが生じるのはいくつか要因があります。まず、移植を受ける患者は「自分が命の危険がある病気に罹っている」という知らせを聞いて既に心に傷を背負っているということです。移植が治癒の希望をもたらすとはいうものの、長期間厳しい医療処置をうけるという見込みは、やはりうれしいものではなく、成功する保証もないのです。
二つ目は、骨髄移植を受ける患者はとても孤独感を感じることです。患者の免疫系が損なわれている間、感染から守るために特別な注意が払われますが、それが患者には、自分以外の者から引き離され普通の人間の触れ合いから切り離されたような気持ちを感じさせてしまいます。患者は個室に入れられ、時には空気を浄化するために特殊なエアーフィルター装置が取り付けられます。見舞い中に細菌やウイルスの拡散を防ぐため、見舞い客の数は制限され、手袋やマスクやその他の防護服などを身につけるように言われます。患者が部屋を出るときは、マスク・ガウン・手袋などを感染防止のために身につける様に求められます。この孤立した気持ちは、慣れ親しんだ環境や、家族や友人との密接な肌の温もりを患者が一番求めているまさにそのときに、起きてくるのです。
「どうしようもない」気持ちは移植患者が共通して感じるもので、そこからまた、怒りが生じてきます。生存をかけて見知らぬ人に全面的に依存することは、相手がどんなに有能な人であれ、ほとんどの人が狼狽させられるものです。ほとんどの患者が骨髄移植の手順を書き表した医学専門用語などには馴染みがないという事実がどうしようもない気持ちを助長します。洗面所を使うことなどの基本的な日々の動作に見知らぬ人の力を借りなければできないことも、厄介なものだと感じます。
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移植した骨髄が生着し、血球数が安全域にまで回復し、副作用が消えるのを、何週間も待ち続けることが感情的なトラウマを増幅させます。回復の様子はまるでローラーコースターに乗っているようなもので、ある時はずいぶん良くなったと感じるのに、また次の日目覚めると、すっかり以前のように苦しくなっているだけだったりします。
退院
退院後、患者は2〜4ヵ月間は自宅で(遠方から移植を受けに出て来ている患者は移植センターの近くに部屋を借りて)回復期間を過ごします。通常は移植後半年までは常勤の仕事に復帰することはできないでしょう。
患者の身体が退院して良い状態になっても、回復期が済んだのではなく、まだまだこれからです。初めの数週間は、患者は寝るか、ベッドで起きているか、家の中を少し歩くぐらいの体力しかないでしょう。患者の経過を観察し、必要なら薬物治療や輸血をするために、頻回に病院や関連クリニックを訪れる必要があるでしょう。患者が完全に元の正常な活動に復帰するには移植の日から6ヵ月以上はかかるでしょう。
この期間は、日々の生活で接触のあるウイルスや細菌に対して正常な防御力を発揮するには、まだ白血球数が低すぎることがよくあります。そのため、公衆との接触は制限されます。混雑した映画館・食料品店・デパートなどは回復期の移植患者は避けるべきです。危険を冒して外に出かけるときはマスクをつけると良いでしょう。
患者は必要に応じて週に数回は経過観察・輸血・その他の薬物治療などのために病院の外来に行かなければならないでしょう。最終的には元どおりの正常な生活ができるように、また生産的で健康な生活を楽しみにできるよう十分元気に回復します。
移植後の生活
移植した骨髄が正常に機能するには一年はかかります。患者はこの期間に起きる可能性のある感染症や合併症が現れていないか、綿密に経過観察されます。
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骨髄移植後の生活はうきうきしたり、くよくよしたりするものです。また一方では、生死の境まで行った後に生き残っているということは興奮するものです。移植後、生活の質が向上したと気づく患者がたくさんおられます。
にもかかわらず、常に再発するかもしれないという心配が付きまといます。さらに、患者が回復して、ずっと後になってからも、無関係な言葉や出来事が不愉快な骨髄移植経験の思い出を呼び起こすことも時々あります。患者がこうしたさまざまな困難と取り組めるようになるには永い時間がかかるのです。
やる価値があるのか?
あります!骨髄移植をじっくりと検討している患者さんにとって、移植を受けなければ代わりに待っているものはほとんど確実な死です。骨髄移植が苦しい体験であるという事実にもかかわらず、骨髄移植後に元気に生きていられることの喜びは、努力するだけの価値が十分にあると大部分の人が感じています。
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