原典:Bone Marrow Transplants: a Book of Basics For Patients 11章
URL:http://www.bmtnews.org/bmt/bmt.book/toc.html
訳者:撫子なんちゃん


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第11章 不妊症・男子不妊症――移植後の生殖機能と家族計画


骨髄移植を受ける患者が、移植に先立って耳にする情報の中でも とても不安になる問題の一つに、移植後に妊娠する(させる)ことが出来なくなるだろうということがあります。自分の家庭を持っておらず、あるいは、家族を増やしていくつもりのある人にとっては、これはとてもショックな知らせでしょう。
これは骨髄移植そのものが原因ではなく、移植の前処置として行われる、大量化学療法と放射線照射のいずれか一つあるいは両方が繁殖のための細胞にしばしばダメージを与えるからです。たいていの化学療法剤や放射線照射は、正常細胞と病気の異常な細胞とを見分けることができませんから、病気を根絶する間に、繁殖のためのデリケートな細胞もダメージを受けてしまうのです。
移植を受けた患者が、皆子どもが出来なくなるわけではありません。そうなる可能性は患者の年齢、性別、性の成熟度、化学療法のタイプや薬の投与量、放射線照射がある場合はその照射量、治療期間中の予防策などによって変わってきます。このように、白血病やホジキン病の患者の多くが移植前から化学療法を受けた結果、すでに移植前には繁殖能力がなくなっていることもよくあることです。移植後の「子どもが出来ない」という問題は命を脅かすような状況のものではないですから、今日まで、さほどこの問題に医学的な関心の焦点が当てられることはありませんでした。しかし、骨髄移植患者の生存治癒率が向上し続けているため、「出産できる」というような、「生活の質」の問題が移植生存者の主たる関心事になって来ています。
幸運なことに、骨髄移植後に子どもが欲しいと言う夫婦のために有効利用できる選択肢があります。養子縁組みのほかに、医療技術の補助を受けた、繁殖技術――例えば精子バンク、受精卵の極低温保存(凍結)、人工授精、体外受精、ドナーからの精子や受精卵の無償提供など――が骨髄移植により繁殖力のなくなった患者に希望を与えてくれます。宗教的、倫理的、医学的、経済的な面を考慮して、各個人がやってみようと思う選択をすればよいでしょう。しかし、移植に先立って選択肢を理解しておくことで、移植後の家族計画もよりよいものになり、子どもが出来なくなる可能性があるということに絡んだストレスをいくらか軽減できるでしょう。

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妊娠へのステップ

妊娠するというのは微妙な頃合を要する、込み入った過程です??。普通は男性も女性も繁殖力のある生殖器があり、女性の排卵する成熟した卵子が、健康な男性の精子と受精できなければなりません。受精卵は、女性の子宮に移動し、子宮の内膜に着床し、そこで胎児へと成長し始めます。
卵子は卵巣で作られます。月経周期の初めには、卵胞刺激ホルモン(follicle stimulating hormone =FSH)が、脳の近くにある脳下垂体(前葉)から分泌されます。卵胞刺激ホルモンは卵巣のなかの液体で満ちた卵胞の中にある未成熟な卵子(卵母細胞)を卵胞一つに成熟卵子一つが入った形で成熟させていきます。★言葉が混乱しているなあ。。各周期中には100150の卵母細胞が成熟し始めますが、周期の12〜14日目あたりになると、卵巣内に十分成熟した卵子は一つしかないのが普通です。成長した卵子はエストロゲンと言われるホルモンを血流にのせて放出します。エストロゲンは、とりわけ、受精卵を受け入れるための準備として子宮内膜を肥厚させます。一つの卵だけが十分に成熟する頃になると、??エストロゲンの濃度はピークに達し、黄体形成ホルモン(luteinizing hormone=LH)を産生するように脳下垂体を刺激します。

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黄体ホルモンは成熟卵を卵管へ放出させる引き金の役割を果たします。卵胞の上皮層(排卵後は、黄体corpus luteumと呼ぶ)は卵巣に残り、プロゲステロンを産生します。プロゲステロンなどのホルモンは黄体から分泌され、受精卵を受け入れて育てていける様、子宮内膜を強化します。
卵管は卵巣と子宮をつないでいます。卵巣と卵管の接合点は小さな指のような「ふさ状べり」で、そこで成熟卵を捕らえて卵管に送りそこで受精が起こります。卵子は卵管に入ると24時間以内に受精しなければならず、精子が女性の膣を経由して子宮に入り、卵管にまで進み入って卵と受精して胎芽になっていくチャンスは少ないのです。性交により100万の二乗個くらいの精子が射精されますが、卵管に無事たどり着くのはたった数百個だけです。いったん精子が卵子と受精すると、生じた一つの受精卵は分裂増殖していきます。4〜5日すると、子宮にたどりついた頃には、100個以上の細胞から成るようになっています。受精卵が成長を続けるためには子宮内膜に着床しなければなりません。これは通常受精から、5〜7日経った頃に起こり、それが妊娠の始まりです。着床が起こると、受精卵はヒト絨毛性ゴナドトロピン(human chorionic gonadotropin=HCG)といわれるホルモンを放出し、それが卵巣にエストロゲンとプロゲステロンの分泌を続けさせ、子宮内膜を維持します。(妊娠したかどうかの早期診断は血液中のHCG濃度を測定します)受精卵が着床しなかった場合は免疫システムにより退化し破壊されてしまいます。

精子産生
精子は睾丸の中にある電子顕微鏡レベルの糸のような管である精細管で作られます。女性の卵巣で卵の産生を刺激するのと同じホルモンFSHとLHが男性の精子の産生をも刺激します。精細管の内壁の細胞は日々新しく未熟な精子細胞(精母細胞)を数百万個発生させています。精母細胞は精細管の中央部に移動しながら、2回分裂を繰り返し、そこで4個の精子細胞となっておたまじゃくしのように尾のついた形の精子へと成熟していきます。精子の頭の部分には、精子が卵子の外殻を通り抜けられるようにする化学物質だけでなく、女性の卵子と受精して一組となる遺伝情報(DNA)が入っています。精子は睾丸を離れ、長くコイル状になった精巣上体(副睾丸)を通って移動し、その間に成熟していき貯えられます。射精を呼び覚ます刺激が起きると、精子は膀胱の後ろの精嚢と呼ばれる小胞に移動し、そこで精嚢と前立腺からの液体(精嚢液)が加えられて、精液が出来ます(98%が液体で2%が精子です)。この液体が精子に元気を出させる栄養分を与え精子を保護します。その後精液は、膀胱と精嚢から体外につながる、ペニスのなかの尿管を通って分泌されます。

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性交の間に、精液は女性の膣の中の子宮頚部の近く、つまり子宮の入り口に射出されます。精子は子宮頚部や子宮の中を通って卵子との受精が出来る卵管までたどり着かないといけません。卵子と巡り合えると、たった一つの精子がその頭部に貯えらた化学成分で、卵子の外殻を突き抜け中央まで穴をあけて進み、そこにある卵子の遺伝物質(DNA)と融合して受精卵(胎芽)となります。

化学療法と放射線照射
化学療法でも、特に(複数の薬剤を組み合わせた)併用療法では、精子や卵子へと成長していく精巣や卵巣の母細胞にダメージが加えられたり、それらを破壊してしまったりします。放射線照射も同様の問題を起こしますが、さらに子宮内膜や卵管にもダメージを与えます。化学療法や放射線照射のいずれか一方あるいは両方によって起こった男女の不妊問題は一時的であることもあれば、生涯に及ぶこともあり、骨髄移植の前処置である大量投与だけでなく、少量投与の化学療法や照射でも起こることがあります。骨髄移植を受けることを考慮する前に、既に病気の治療のために標準の化学療法や照射を受けた患者も、骨髄移植を選択する時点で既に不妊状態になっていることもよくあります。
化学療法剤でも、アルキル化剤といわれる分類のものは特に繁殖のための細胞への毒性が特に強いです。そうした薬剤には、cyclophosphamide (シトキサン、エンドキサン), ifosfamide(イフェックス,イホマイド), melphalan (アルケラン), mechlorethamine hydrodchloride (ナイトロジェンマスタード・ナイトロミン), thiotepa(テスパミン), busulfan (マブリン)があります。その他の薬剤としては、carmustine (カルムスチンBCNU), chlorambucil(クロラムブシル)、 cytosine arabinoside (シタラビン=キロサイド・サイトサール)=(ARA-C), cisplatin (CDDPシスプラチン=ランダ・ブリプラチン), doxorubicin (アドリアシン,ラブレックス), procarbazine(ナツラン), and vinblastine (エクザール・ビンブラスチン)なども不妊を招きうる薬剤です。
一般的には、標準的化学療法を受けた結果として不可逆的に不妊になるのは、成熟した患者よりも若い患者の方が少ないようです。患者が思春期前の女性の場合は特にそう言えます。不妊になるのは受けた化学療法の種類や投薬量と関連があり、累積の総投与量が大量になるものでは少量のものよりも繁殖のための細胞に毒性が強くなります。ホジキン病の早期にある患者だと、ASVD法(アドリアシン・ブレオマイシン・ビンブラスチン・DTICダカルバジンの4剤)で治療を受けることが時々あり、この方法は他の方法と同様に病気に効果がありますが、この病気の治療によく使われてきたMOPP法(ニトロジェンマスタード、オンコビン、ナツラン、プレドニンの4剤)よりも繁殖のための細胞に毒性が少ないのです。しかし、この毒性が少ない方法は病気が進行して骨髄移植が必要な病期に至っている場合は選択できません。

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研究者は化学療法と一緒にホルモン剤を投薬して、治療期間中、生殖器の機能を抑制しておくと永久的な不妊の発生率を減少させることが出来るのではないかと理論づけています。しかし、この理論はまだ大規模な臨床治験で確認される必要があります。
化学療法が繁殖のための細胞に与える影響についてわかっていることの多くは、骨髄移植を受ける患者に施される典型的な処置よりも少量の化学療法を受けている患者の治験からわかってきたことです。再生不良性貧血で、移植前処置として大量化学療法(放射線全身照射を受けずに、体重1kgあたり200mgのシクロフォスファミド=エンドキサンを投与された)移植患者を対象に実施された一つの治験では、26歳未満の全女性が移植後に排卵が再開されましたが、一方では25歳以上の3分の一の女性と、全男性の3分の二しか移植後に、妊娠可能な状態に戻れませんでした。(こうした結果は、さまざまな病気・病態で、移植前にさまざまなプロトコールの大量投与化学療法を受ける患者に対して、推測的に当てはめられるべきではありません。)
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無排卵・無精子を起こす可能性のある薬
薬剤名: (この薬を治療に用いる疾患名)
Cytoxenシトキサン、エンドキサン: (白血病, 再生不良性貧血、リンパ腫、乳ガン、卵巣ガン)
Ifosfamideイホマイド,イフェックス: (肉腫、乳ガン、泌尿器のガン)
L-Pamアルケラン: (多発性骨髄腫)
Nitrogen Mustardナイトロミン: (ホジキン病)
Thiotepaテスパミン: (乳ガン)
Busulfanマブリン: (白血病)
BCNU カルムスチン: (脳腫瘍)
Chlorambucil クロラムブシル: (白血病、リンパ腫)
ARA-Cアラシー、キロサイド,サイトサール: (白血病、リンパ腫)
Cisplatinランダ・ブリプラチン: (頭部・頚部腫瘍, 肺ガン、乳ガン、卵巣ガン、リンパ腫、睾丸腫瘍)
Adriamycinアドリアシン: (乳がん、卵巣ガン、リンパ腫、ホジキン病、肉腫、小細胞肺ガン)
Procarbazineナツラン: (ホジキン病)
Velbanエクザール・ビンブラスチン: (ホジキン病、リンパ腫、乳がん、睾丸腫瘍)



化学療法に加えて放射線照射が施されると、若年の患者においてさえ、不妊になる危険性は高まります。患者の性別、性的発達成熟度、総投与量によって、放射線治療を受けた後の不妊傾向は変わってきます。骨髄移植の前処置として全身照射を受けた患者の中には、治療後に妊娠可能な人はほとんどありません。
骨髄移植後の妊娠に関するデータは組織立てて集められておらず、医療の中枢たる所まで報告が上がって来ていませんが、移植患者のなかに、最低でも64例の妊娠があったとされています。

医療補助技術による繁殖技術MEDICAL ASSISTED REPRODUCTION
骨髄移植後に、子どもがほしいと望む夫婦の場合は、近年では医療技術の力を借りた繁殖技術の進歩により利益が得られることもあります。必ず成功するとは言えないものの、こうした繁殖技術により、男性ならば自分の遺伝子を引き継いだ子どもを持つ機会が与えられ、女性なら生物学的に(あるいは時には遺伝子的にも)子どもの母親になれる機会が与えられます。

人工授精ARTIFICIAL INSEMINATION
化学療法や骨髄移植を受ける男性にとって、将来、自分が生物学的な意味での父親になるための機能を保存するには、精子バンクを利用するのが最良でしょう。人工授精は男性の精子を、月経周期の中でも成熟卵が卵管に排卵された可能性が最も高い時をねらって、女性の膣の中に注入するものです。卵子がいつ卵管に排卵されたかを正確に予測するのは困難なため、人工授精をするときはその成功率をあげるために、2日間連続で繰り返されることが多いのです。精子が卵子を受精させ、そうしてできた胎芽が子宮に移り、子宮内膜に着床すると、それが妊娠の開始です。
凍結した精子は順調に人工受精に用いられてきています。このように、移植後の男子不妊症になる可能性に直面している男性は自分の精子の幾らかを、骨髄移植に先立って保存しておき、後になって自分の配偶者の卵子を受精させることが望めます。
精子バンクは比較的簡単な手順により進められます。普通は、1〜3週間かけて精液を数回分射精して集め、凍結させるか極低温保存で無菌の容器に保存されます。平均して、一回の射精で6バイアルの精子が採れます。(一回の人工授精に1〜2バイアルが必要です)

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骨髄移植前の患者の射精によって得られた精液の精子数や精子の運動性(精子が前方に進んでいく力)は、精子バンクで極低温保存するのに必要とされる基準よりも、少なかったり弱かったりすることが時々ありますが、それでも通常は凍結することは可能で、後々人工受精に用いることは可能です。
精子バンクへの支払いは――精液の採取(一射精あたり100〜500ドル)、年間保存料(一患者あたり150〜400ドル)、梱包・発送料などです。人工授精法に関するの支払いはそれ自体に精子の解凍料金や調整(1バイアルあたり100〜200ドル)料金、医師の手数料も含まれています。健康保険では、こうした料金が全額まかなわれるものから、全く出ないものまで色々でしょう。

◎提供者の精液Donor Sperm
患者の精子が移植に先立って凍結されない場合でも、精子ドナーを利用すれば、人工受精法で妊娠を成立させることは可能です。精子は夫婦の知っているドナーからでもよいですし、精子バンクからの匿名ドナーからでも得られます。
匿名ドナーからの精子を提供する精子バンクでも、個人を特定できない範囲でのドナー情報については教えてくれるところがあります。例えば年齢、人種、髪や目の色、信仰宗教、職業、趣味などです。匿名ドナーの精子は、HIV(エイズウイルス)感染がないか調べる検査が十分できるように、使用の最低6ヵ月以上前には凍結されているものが好ましいです。ドナーの精子は1バイアルにつき25ドルから125ドルまでと、精子バンクによって色々です。

◎成功率Success Rate
1988年に米国科学技術評価室the U.S. Office of Technology Assessment?が行った調査によると、人工受精によって毎年約65,000人の新生児が誕生しています。個々の診療所からの報告によると、人工授精法を施された女性患者の50〜90%が、新鮮な精子を使用した場合は12ヵ月以内に、凍結した精子を使用した場合は18ヵ月以内に、妊娠しています。
人工受精を成功させるためには女性が排卵する時を判断することに熟達した医師が必要で、精子が卵子を受精させる可能性を最大にするような人工受精のタイミングが得られるようにします。凍結した精子を扱うには新鮮な精子を扱う時よりも多くの医師の手と研究技術が要ります。というのは、解凍に必要な技術や温度設定、精子の洗浄やインキュベート過程が解凍後の精子の生存数に影響するからです。極低温保存の精子検体の50〜75%は解凍後も活性があります。人工受精には、使用可能な精子検体に加えて、受胎する方の女性側に正常な繁殖機能が必要です。(1)女性の方にも健康な卵子を産生するのに障害がある(2)性周期の排卵期に受精卵を受け入れ成長させる子宮の準備が適切に整わない (3)卵管に障害がある (4)女性が39歳を過ぎている――などの場合には、さらなる医療技術の介入なしには、人工受精の成功はあまり望めないでしょう。

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体外受精In-Vitro Fertilization
男性側の精子を凍結することは可能ですが、受精してない卵子を凍結しうまく利用できるようにするのはとても困難です。受精前の卵子を凍結させたものを用いて、生命を誕生させたという報告は未だ、なされていません。ですから、精子バンクに匹敵するような有効な選択肢は骨髄移植後の不妊問題に直面している女性には現在のところありません。しかし移植後の卵巣機能喪失がある女性でもドナーの卵子を用いた体外受精を試みることは可能です。
体外受精では、提供された成熟卵子をいくつか培養皿の中で精子と結合させ、そこで受精を起こします。そうして生じた受精卵は女性の子宮に移されます。受精卵が子宮内膜に着床すると、妊娠が開始されます。
もともとは、体外受精は、卵巣の機能は正常(卵子を産生できる)なのに子どもを宿すことができない女性のために用いられていた方法です。最近では卵巣の機能に問題がある女性、高齢になった女性、治療で化学療法や放射線照射を受けたために卵子の状態に不安がある女性などがドナーから卵子をもらって妊娠できるようにと体外受精を用いてきました。ドナーからの卵子を用いて体外受精をしても、自分の遺伝子を引き継いだ子どもを持つことはできませんが、子どもを無事出産するのに必須の、発育の場すなわち子宮を、9ヵ月の妊娠期間中提供でき、生物学的には子どもの母親(遺伝学的な母親と区別して)になれます。
体外受精法における提供者は夫婦にとって面識のある人でも、匿名の誰かでも可能です。プログラムによっては自分たちで卵子提供者を用意させるところもあれば、完全に匿名ドナーを用いるところもあれば、どちらでも可能なところもあります。
必要な卵子の確保には、卵巣でいくつかの卵子が成熟するよう、刺激剤が卵子提供者に注射されます。性周期の10〜21日にヒト閉経期ゴナドトロピン(hMG=パーゴナル・ヒュメゴン)、卵胞刺激ホルモンFSH(メトロジン)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG=ゴナトロピン)、★黄体化ホルモン放出ホルモン(LH−RH)アナログleuprolide (Lupron)などの薬剤を用います。受精卵が子宮に移される方の患者は、経口の卵胞ホルモン(エストロゲン)剤と黄体ホルモン(プロゲステロン)注射薬を毎日計画通り投薬され、子宮が受精卵を着床させ発育させることができるように準備を整えます。
ドナーの卵子が成熟すると、微細な超音波誘導針アスピレーション?といわれる外科処置か、腹腔鏡といわれる全身麻酔の必要な別の外科的な処置によって取り出されます。取り出した卵子は培養皿のなかで精子と結合させ、18〜24時間インキュベートします。こうして出来た受精卵を先端にシリンジがついた細いカテーテルを用いてレシピエントの子宮に移します。一般的には3〜5個の受精卵を5〜10分間程度かけて、こうした非外科的な処置で移し終わります。

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体外受精の変形法として、配偶子卵管内移入法?=GIFT (gamet intrafallopian tube transfer) と接合子卵管内移入法?=ZIFT (zygote intrafallopian tube transfer)があります。GIFT法は、精子と卵子の結合は回収後に行われ、ただちに卵管に注入され、受精が実験室ではなく自然な環境下で(生体で?)起こるようにしたものです。ZIFT法は、卵子は実験室で精子と受精させられ、その後受精卵を、体外受精のように子宮に入れるのではなく、卵管に入れるものです。診療所からの報告では体外受精よりもGIFT法やZIFT法の方が成功率が高いと報告されていますが、多くの専門家の中では、こうした結果は患者の選択によってバイアスがかかりますし、体外受精の受精処理過程を扱う研究技師の技術も管理下におかれていないと議論されています。
1サイクルあたりの体外受精やGIFT処置、ZIFT処置の料金は、6000ドルから12,000ドルまでと幅があり、担当する診療所、提供者への支払、交通費、宿泊費などによって変わってきます。こうした料金の支払いは健康保険の種類によって全額賄われるものもあれば、一部分あるいは全く払われないものもあります。施術後の検診費用(例えば、妊娠判定テスト、出産前処置、など)は普通の妊娠で保険により支払われるのと同様に認められるのが普通です。

◎受精卵凍結Frozen Embryos
現時点では、受精していない卵子を凍結するのは実現不可能ですが、受精卵や、胚芽を凍結するのは可能です。ほとんどの体外受精計画において、子宮に移し入れるのに必要な分以外の受精卵は、すべて後の需要のために凍結されます。
少なくとも、ニューヨークシティにあるコーネル医科大学の★繁殖医学・不妊研究所?Center for Reproductive Medicine & Infertility at Cornell Medical Collegeでは、既に、化学療法や放射線照射をどちらか一方または両方受ける女性のために、自分の受精卵を複数個、治療に先立って凍結しておく機会を得られるような実験的プログラムを開始しています。今日までに8名の女性がそのプログラムに参加しています。受精卵はうまく凍結することが出来ていますが、彼女たちは誰一人まだ病気から十分に回復出来ておらず、凍結した受精卵(胚芽)を用いた体外受精卵移入?を試みるには、まだ先は遠いようです。

◎ドナーの卵子を用いた体外受精の成功率Success Rate of IVF with Donor Eggs

アメリカ体外受精登録機構から発表された数字によれば、1989年には48診療所が、ドナーからの卵子を用いて328人の女性に体外受精を実施しています。ドナーの体外受精による受精卵377例を移し入れたうちの、21%が子どもの誕生につながりました。凍結受精卵を用いた場合の体外受精による受精卵移入の成功率は更に低く8%、子どもを誕生させた例の54%は、報告が提出された110の診療所の内、10診療所で、扱われたものでした。体外受精のドナー受精卵移入の成功率を左右する因子はいくつかあり、個々の診療所からの統計を比較解釈する際には十分な注意が払われるべきです。医師や、研究技師の技術だけでなく、体外受精を受ける女性の年齢、卵子提供者の年齢や卵巣刺激薬剤への反応度、精子側の因子などのすべてが体外受精の成功率に影響します。

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計画を選択するChoosing a Program
あなたのニーズに合った有効な繁殖計画を見つけるには、調査と、慎重な分析と、十分な情報に通じた婦人科医や、不妊専門医が必要です。自分に合った計画を見つけるために遠方まで(州外、国外)いくことも必要かもしれません。
補助繁殖技術協会?The Society for Assisted Reproductive Technology (SART)では最低限の基準を設定しています。協会に属するプログラムメンバーは精子や受精卵の極低温保存法や、人工授精、体外受精などに関して基準に従わなければなりません。SARTはプログラムメンバーに、医師や、プログラムに携わる研究技師のトレーニング及び経験に関しても、ある程度の基準を設けています。また、自らの診療所での成功率に関するデータを情報公開するよう求められています。米国受精協会?The American Fertility Society(AFS)ではこうした基準、SART会員診療所リスト、体外受精の各診療所ごとの成功率(ただし、ドナーの卵子を使った体外受精はデータに含まれていません)について資料をお渡しできます。そして、ドナーの卵子を使った体外受精プログラムと会員(医療機関)は提携しています。★??
受精計画を選ぶときには、その診療所で何例ぐらいの人工授精や体外受精の経験があるか、何人の子どもが実際に誕生したのかを尋ねましょう。個々のプログラムを評価するには、プログラム全体の成功率だけでなく、抱えている不妊原因、病歴、年齢などがあなたを反映しているようなカップルについての成功率に焦点を当てるのがよいでしょう。既成のプログラムであっても、そのプログラム自体の成功率ではなく、国全体としての成功率や他の医療機関のデータしか用意してないようなところには注意して下さい。
もし、ドナーの卵子を使って体外受精をすることを考慮しておられながら、自分ではドナーを見つけられないというかたは、不妊外来?(受精クリニック??)で提供者を見つけられないか聞いてみましょう。よい返事が返ってくれば、現実に今、何人の提供者があり、適合者を見つけるまでにどのくらい待たないといけないかを尋ねましょう。プログラムによっては、ドナーはいると答えても、現実にはまだ探しているというところもあります。
また、待機ドナーが沢山いて、さほど長く待たずに、あなたに適合した人が見つかるところもあるでしょう。ドナーをどのようにして募集しており、どのような医学的あるいはその他の検査・評価が実施され、あなたと適合するドナーについてどんなことを指定できるのかを尋ねましょう。
受精計画によって、そのプログラムが提供できる感情面での支援や心理カウンセリングの程度も、また様々す。ある診療所では、心理学者とソーシャルワーカーがそのプログラムの重要な位置に置かれているところもあり、また一方ではそうした支援サービスは全くないところもあります。医療技術補助による繁殖はつらい体験であることもあり、こうした支援サービスが大切であることはお判り頂けることと思います。

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感情面の考慮Emotional Considerations
医療技術補助繁殖を試みる決断をする前に、夫婦にとっては骨髄移植を受ける患者の予後が、長期生存を望めるものかどうか、もし再発や死の転帰をとることになった場合、配偶者は(一時的であれ、長期的であれ)片親で育てる覚悟ができているかどうか、親の再発や死亡が子どもに与える衝撃はどうか、などを考慮する必要があります。患者は主治医と自分の健康状態が妊娠により悪化することがないかどうかについても話し合うべきです。
骨髄移植を受けた人に関しては、医療技術補助繁殖では、たった一度の妊娠のチャンスさえ、何ら保障はありません。妊娠するまでには何度か試みなければならないでしょうし、全く成功しない夫婦もあるでしょう。そのうえ、妊娠が成立すれば、普通の妊娠と同じく、流産や、胎児の奇形の可能性もあります。成功した時のことだけでなく、うまくいかなかった時の失望にも夫婦の備えが必要です。
ドナーの卵子や精子を必要とするプログラムでは、さらに別のジレンマが生じてきます。「配偶子の提供者は知っている人の方が安心できるのか、知らない方がいいのか? ドナーから提供を受けたら親戚や友人たちには知らせておくべきだろうか? 子どもができたら、その子は妊娠を可能なものにしてくれた提供者について、何を知りたがるだろうか?」 といったような思いです。
受精卵を産生し、将来の需要に備えて凍結する道を選択した夫婦にとって、万一配偶者が死亡したり、あるいは夫婦関係が解消されたりしたときに、その受精卵をどうするかという問いについて明らかにしておくべきです。「受精卵を処分すべきか? 他の不妊に悩む夫婦に提供するべきか? 離婚した相手がそれぞれに受精卵の保管権を持つのか?」 こうした問いは夫婦にとって決め兼ねる、感情的負担の大きな、法的倫理的な問題です。特に骨髄移植にするか、その他のガン治療にするかの決断を同時に迫られている時にはそうでしょう。

養子縁組の道THE ADOPTION OPTION
★養子縁組をうまく成功させるには時間をかけ、手段を選び、感情的なエネルギーを傾けることが大切です。養子縁組みをするには二つの方法があることを考慮します。すなわち仲介所を通したものと個人的にとりおこなうものです。

仲介所を通した養子縁組Agency-Assisted Adoption
米国では養子縁組を取りまとめている仲介所がいくつかあります。紹介できる子どもの数、手数料、養子をとるための親の必要条件は組織によって大きく差があります。

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伝統のある仲介組織(たとえば、カトリック慈善団体Catholic Charities、ユダヤ児童局Jewish Children's Bureau、その他無宗派の機関いくつか)は最も出費の少ない方法ですが、年間の養子縁組み数は少ないです。そうした所は親になる方の必要条件も、宗教、結婚の有無、結婚期間、年齢、職業上の地位、不妊証明、家族の中の子ども数、健康状態など一番厳しく制限があります。歴史の浅い組織は、費用はこれらより高くなりますが、紹介できる子どもの数も多く、親の資格についてもより柔軟で、喜んで紹介してくれます。
他州や外国からの養子縁組み、(新生児ではなく)縁組みを待っている子ども(例えば、少数民族や二人種間に出来た子ども、年長になった子ども、身体上あるいは精神上の特別なニーズがある子ども、兄弟の片割れ??など)を専門に取り扱う機関もあります。そうした「待機している子ども」をすすんで養子にしようとする人は、子どもの年齢や、人種、身体的必要条件にあれこれ注文のある人よりも速やかに子どもを見つけることが出来ます。
ほとんどの機関では、里親に、「産みの母親に健康上の問題や薬物・アルコール中毒がないか」など選別にかけられていること、そして妊娠中に母親が助言や適切なケアを受けたかどうかを知る権利を認めています。また、そうした機関は、生みの親に子どもを養子に出す決断に関して助言もし、生みの親が十分に情報を与えられた上で選択した決断であることを明確にするために、他の選択肢についても話し合うのが普通です。
たいていの州では、仲介のあるものすべて、州外、国外を問わず、親権交替のための家庭調査のようなものの提出を、里親の家庭認可をする際に求めています。里親になる人は、健康状態を家庭調査の一部として書面で提出しなければなりません。骨髄移植を受けた患者にとっては家庭調査による親の健康状態の必要条件を満たすのは困難か不可能であることに気づかれることでしょう。ですから個人的に養子を探す必要があるかもしれません。しかし、州によっては個人的な養子縁組みでも同様の家庭調査を求められるところがあります。

個人的にする養子縁組Private Adoption
養子を取ろうとする親にとっては仲介組織に頼るのではなく、自分たちで産みの親になる人を探し出すのが一般的で遥かに早く見つけられます。多くの州では、養子を迎えたい親に、産みの親になる人の見つけ方や、出産予定のある母親を出産前に選抜、調整にかかる方法を勧めることを専門とする代理人や養子縁組みコンサルタントがいます。コンサルタントは金銭的な補助(あれば)の程度、産みの母(父)親の親権、出生後の養子縁組みを合法的に完了させるための適切な手続きなど、法的な問題の指導もします。金銭的な補助とは州から生みの親に出産前期間中に支給されるものです。

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個人的に養子縁組をする場合は手続きを代行する法的代理人を選ぶ際に細心の注意を払うことを勧めます。ほとんどの州では赤ちゃんブローカーを取り締まる厳格な法律が定められており、養子を取る親に対し子どもを探す際の代理人関与の程度に制限を設けています。出産予定の母親を捜し歩き養子に出させようと圧力をかけるような代理人や、子どもの確保のために出産する母親に非合法的な金銭を渡すような代理人、法律上の注意事項や養子縁組を完了させるのに必要な記載事項(書類)を間違って処理するような代理人だと、
後々、産みの母(父)親が養子縁組の取り消しを求めてきたときに、里親は子どもを失う危機に立たされることになります。

費用Cost
養子縁組にかかる費用は最低8000ドルから30,000ドルぐらいで、多いのは10,000ドルから15,000ドルの間です。金額の差が生じる要因としては、仲介所を通すか個人的にするか、養子縁組みが州内成立か州外成立か国際間成立か、出産までの母親の医療費や個人的出費がどの程度まで里親の負担になるのか(法的にはどうか)、保険や従業員給付制度が養子縁組み関連費用をカバーするのかどうかなどがあります。

感情面の考慮Emotional Considerations
養子にする赤ちゃんを見つけるというのは、くどくどしく欲求不満に陥りそうな作業です。子どもを喜んであなたの保護下に任せようとする産みの親を探し出すのには何ヵ月もかかるでしょう。さらに、多くの州では、産みの母親は(時には父親も)子どもを養子にとった家庭に引き渡してから一定期間は、いったんは認めた養子縁組みを無効にする権利が認められています。こうした合法的な拒否は当事者すべてにとってトラウマをもたらすものになり得ます。
今日では、産みの親と里親が対面したり、お互いのことを知るようなオープン式の養子縁組みが一般的になりました。養子縁組の条件として、誕生後子どもと接触を持ちたいと言う産みの母親もあるでしょう。里親は親も子どももどちらもが最も心地よいオープン性(持たせるならば)の程度を判断する必要があります。

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