KENの超・闘病法からの N e w s 〜過 去 記 事

- [6] (98.7.01〜8.30)-
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98.8.30 ◇◇翻訳者第2次募集◇◇

英文医療関連情報翻訳プロジェクト、順調に進行しています。
翻訳対象の第2次リストです。
ふるってご参加ください。
米国立がん研究所の医療情報サービス、キャンサーネットからの選定です。先方に問い合わせをしたところ、「翻訳について品質保証もクレジットも与えられないが、翻訳するのはかまわない」という返事をもらいましたので、翻訳作業に着手します。

*が優先重点項目。
**は売約済みです。

○PDQR Supportive Care Information Health Professionals
Anxiety_disorder
Cancer_and_suicide
Constipation,_impaction,_and_bowel_obstruction
Delirium
Depression
Fatigue
Fever,_chills,_and_sweats
Hypercalcemia
Loss,_grief,_and_bereavement
Lymphedema
Nausea_and_vomiting
Nutrition
Oral_complications_of_cancer_and_cancer_therapy
Pain
Post-traumatic_stress_disorder
Pruritus
Radiation_enteritis
Skin_integrity_changes_secondary_to_cutaneous_metastases
Sleep_disorders
Superior_vena_cava_syndrome
Transitional_care_planning

○PDQR Treatment Health Professionals(超ハイレベル。重要)
*Leukemia, acute lymphocytic, adult
*Leukemia, acute lymphocytic, childhood
*Leukemia, acute myeloid, adult
*Leukemia, acute myeloid, childhood
*Leukemia, chronic lymphocytic
*Leukemia, chronic myelogenous

Lymphoma, central nervous system (primary)
Lymphoma, cutaneous T-cell
Lymphoma, Hodgkin's disease, adult
Lymphoma, Hodgkin's disease, childhood
Lymphoma, Hodgkin's disease during pregnancy
*Lymphoma, non-Hodgkin's, adult
*Lymphoma, non-Hodgkin's, childhood
*Lymphoma, non-Hodgkin's during pregnancy
*Myelodysplastic syndrome


○PDQR Supportive Care Information Patients(このあたりも大切)
*Anxiety_disorder
*Cancer_and_suicide
Constipation,_impaction,_and_bowel_obstruction
Delirium
Depression
Fatigue
Fever,_chills,_and_sweats
Hypercalcemia
Lymphedema
Nausea_and_vomiting
Nutrition
Pruritus
*Sleep_disorders
Transitional_care_planning

○Cancer Facts Supportive Care

Home_Care_for_Cancer_Patients
*Hospice
How_To_Find_Resources_in_Your_Own_Community_If_You_Have_Cancer
Organizations_Offering_Services_to_People_With_Cancer
Questions_and_Answers_About_Finding_Cancer_Support_Groups
*Understanding_Prognosis_and_Cancer_Statistics


○Patient General Information
Managing Side Effects

Get Relief From Cancer Pain
Q&A About Pain Control
Helping Yourself During Chemotherapy
Chemotherapy and You

*Taking Time**
*When Someone in Your Family Has Cancer**

○PDQR Treatment Patients

Leukemia, acute lymphocytic, adult
Leukemia, acute lymphocytic, childhood
Leukemia, acute myeloid, adult
Leukemia, acute myeloid, childhood
Leukemia, chronic lymphocytic
Leukemia, chronic myelogenous
Lymphoma, cutaneous T-cell
Lymphoma, Hodgkin's disease, adult
Lymphoma, Hodgkin's disease, childhood
Lymphoma, non-Hodgkin's, adult
Lymphoma, non-Hodgkin's, childhood
Myelodysplastic syndrome

○Stories for and by Kids

* Phil the Pill--about a boy who absolutely hated taking his medicine.

* Talking With Your Child About Cancer
This booklet discusses health-related concerns of kids of different ages and suggests ways your family can discuss your illness with you.


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98.8.30 ◇◇臍帯血バンクの予算が決まる。5億円◇◇

☆臍帯血バンクの概算要求の内容が決まった。これまでこの補助金を取るために、臍帯血移植検討会などで議論をしてきたのだ。ようやく、公的バンクの実現がリアルになった。臍帯血移植検討会中間まとめで規定された公的臍帯血バンク設置のための概算要求の内容は以下のとおり。厚生省から大蔵省にこの額で要求される。満額通るとみられる。
・臍帯血移植対策費
  臍帯血移植推進事業費           4億1346万円
  臍帯血バンク設備整備事業         未定、申請・要望に応じて
  研究費。臍帯血関係厚生科学研究      5000万円
                       合計 約5億円
・補助金の詳細項目(末尾添付)を検討すると、厚生省が実際に公的臍帯血バンクをどういった仕組みで運営しようとしているかがみえる。
 臍帯血バンク事業に必要な項目すべてにお金がついているわけではなく、漏れているところもある(臍帯血バンク=地域バンクの運営費など)。実際に、臍帯血バンクを立ち上げるには、もっと資金がいる。
・5年間で2万件の臍帯血を保存するとしている。今回の事業費は4000件を想定している。同様の予算が5年はつづくと想定される。5年間で少なくとも総計25億円程度のものになる。今年の2次補正予算でバンク施設の設備投資関係でまとまった金額が要求されるべきだ。バンクは立ち上がりが大切だ。初期投資は一定以上のものが必要だ。
・補助金の経路                日本赤十字社
日赤が受け取る。しかも臍帯血バンク連絡協議会ができるまでの過渡的措置でなく、厚生省によると「これからもずっと日赤に出す」とのこと。
 これは臍帯血バンク連絡協議会に支払われるべき。前回の検討会で強引に赤十字に事務局をおくことに決められた。補助金を落とすのも日赤になった。事業費4億1346万円のうち、3億1061万7千円はHLA検査等経費(うち2億7447万8000円は採取・検査料経費)だ。
 HLA検査を日赤が行い、このほとんどを日赤がそのまま受け取ることが想定されている。本来、HLA検査の委託者である協議会にお金をつけ、受託者である日赤に数と品質の実績に応じて支払うべきだ。日赤はHLA検査の受託者のひとつの候補にすぎない。業務の受託と受け取る金額が補償されているのはおかしい。
 骨髄バンクでも骨髄バンク事業費のうち、過半数の額が直接日赤に落ちているが、その弊害が明らかだ。なかでも日赤が1日あたりの検査個数の制限をつけてきたことが、ドライビングの拡大など、ドナー登録者拡大の足枷になってきた。
 日赤の独占を保証し、競争が起こらない仕組みの根源は、1受託者に過ぎない日赤にお金を落とすおかしな仕組みだ。
 ユーザーが自動車を買ったときにメーカー(ディーラー)でなく、部品会社に直接お金を払うようなものだ。部品会社が納入と受け取り金額を保証されて、なんの改善を行うだろうか。
・日赤の役割
 説明資料では、事務局を日赤におくと明記されている。また、役割として連絡協議会の庶務、会計処理事務、関係機関との調整の事務となっている。臍帯血移植検討会では「事務局の場所については日赤におきたい」ということになった。だが、それはあくまで「協議会の事務局を物理的に日赤への間借りにする」ということと認識されていた。それが「協議会の事務は日赤が行う」ということになっているのだ。また、厚生省幹部は「臍帯血バンク(地域バンク)の事務・保存などの実務も各地の日赤が行うことが自然で効率的」と明言する。このあたりは、きっちり議論されるべきだろう。

☆骨髄バンク事業関連予算は前年なみ
 骨髄バンク事業については前年とほぼ同額になった。財団法人骨髄移植推進財団に1億4000万円。日本赤十字社に3億7000万円。

臍帯血移植対策
(単位:千円)
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平成11年度
事 項 概算要求額 備 考
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臍帯血移植対策 413,460
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(項)保健衛生諸費
(目)骨髄提供者登録事業費等補助金
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臍帯血移植推進事業費 413,460 補助先:日本赤十字社
補助率:10/10
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(1) 連絡協議会経費 32,593
@ 連絡協議会事務費 24,587
ア 人件費 6,733 1人
イ 事務費 6,514 旅費、庁費(印刷製本)
ウ 第三者評価外部委託費 11,340
A 連絡協議会会議費 8,006
ア 総合企画委員会 2,162 15人、年3回
イ 運営専門委員会 2,883 15人、年4回
ウ 採取・分離・保存技術専門委員会 2,162 15人、年3回
エ 移植評価専門委員会 799 10人、年2回
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(2) HLA検査等経費 310,617
@ 採取・検査料経費 274,478 臍帯血バック、一般母親HLA検査
A 分離・保存料経費 26,783  消耗品費
B 臍帯血管理従事者  9,356 1人(HLA検査技師手当?、0.5日)
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(3) 採取検体輸送費  12,600
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(4) 採取等協力医療施設経費 35,687 1バンク5ヶ所を想定
@ 消耗品費 6,350
A 採取手技料 29,337 ???,0.5日
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(5) 提供者(ドナー)フォローアップ経費 3,418 6ヶ月検診
@ フォローアップ審査会経費 3,018 医師2人、月2回
A 通信運搬費  400 健康調査票送付
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(6) 情報管理経費 18,545
@ コンピューターリース費 4,999 パソコン、プリンタ、9月分
A システム開発費 7,541 プログラマー(??委託費)
B 電話回線使用料   3,601
C 消耗品費    2,404 コピー用紙、フロッピィディスク
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(目)保管衛生施設等設備整備費補助金
■臍帯血バンク設備整備事業 --- 保健医療局企画課所管案(メニュー化??)
補助先:日本赤十字社
                補助率:定額(10/10)
                   対象設備:液体窒素タンク
プログラムフリーザー



98.8.12 ◇◇患者家族の願い◇◇

 元患者家族からKENにお手紙が届いた。本人の承諾を得て、ここに紹介します。米国から骨髄提供を受けた患者さんの家族だ。
・闘病している患者と患者家族の気持ちの痛切さ。
・もっと骨髄移植のチャンスを増やせないのか。
・バンク利用料への保険適用が急がれる
・国際検索、同時平行検索がもっと普及するようにできないのか。
・さきごろ医師に送った緊急要望をもっともっと広めていく必要がある。
KENはこの手紙を読んで、そんなことを感じました。
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
 息子が亡くなって○カ月、8月1日からお盆に入ります。やっと納骨することにしました。お坊さまが「輪廻転生、若くして亡くなる事はつらいものですが、生きている人がその人の分までしっかり生きることが供養になるのです。若い皆さんお願いしますよ」と、参加していた息子の友達に言って下さいました。私たちも息子の年を数えるばかりの生活にならないように頑張ろうと思います。家族であっても"喪失"と"癒し"は自分自身で考えていかねばなりませんね。
 家族が大変な病気になったら、自分をすてて何としてでも治したい、助けたいと思います。まさか自分や子どもがガンになることはないと思っている人もまだまだ多いでしょう。イザその時に頭をガツーンとやられるわけです。その上、その日から大金が必要になるわけです。
 おかげさまで日本は健康保険をほとんどの人が使えるでしょう。高額医療費のシステムもあります。でも病気は医療費だけではすみません。入院すると毎月の病院通いの交通費、差し入れ、食事などの費用がかかり、生活も変化し色々出費が重なります。骨髄バンクの利用料が健康保険適用にならないと、なかなかやっていけません。
 こんな病気になるなんて誰も想像していません。まして骨髄移植をアメリカバンクから貰うのにこんなにかかるとは・・・・・・命と引き換えたいぐらい欲しいものなのに・・・。
<症例1>移植を受けずに、3度も再発し、抗がん剤多用で治療できなくなり亡くなっていった20代前半の男の人もいました。「息子さんが落ち込んだら、僕がこんなになっても頑張っている事を話してください」と言ってくれていました。
 日本と他国の検査を同時に出来れば、移植が間にあったかも・・・決定までの日数がもっと短ければ移植できたかも・・・
<症例2>22歳、女性。申請から決定までが長過ぎた。抗がん剤多用の副作用で心臓をやられてしまい、移植断念。今は家に戻り、検査と輸血で通院している。ツライこの先の日々、どう心を思いやればいいのでしょう。
<症例3>20代後半、男性、日本→アメリカ→台湾のドナー検索を順に行ったが一致者がいなかった。今は一部不一致ドナーの選定中です。体の方も再発後の寛解なので急がれるところです。
 患者対医師ではなくて、人間対人間でやって欲しい。『やれたら・・・』『やれば・・・』『もし・・・』ではなく、人間が生きられるか死を待つかの瀬戸際にあることを本当に理解しているのでしょうか。医師自身自分が病気になって、初めて病院、医師のあり方の不条理に気づいたという記事が新聞にのっていました。これからもアメリカからの移植は増えるでしょう。
 お金ができずに自分の家族が移植できないとしたらどうしますか。何とかしてやりたいがどうにも出来ないとしたら・・・。生きることを望む人全てに、元気に生きることのできる命をもらえる可能性が持てるように、健康保険適用を。
 あとは病院間、関東と関西の情報交換が必要です。大阪成人病センターでの臨床例がもっと早くわかっていたら、新しいGVHD抑制剤を息子にも使用したかった。
(もし知っていたら担当医に願い出て使って欲しいといっていたと思う)
 同じ病気を知った親同士、話を聞くことで分かり合えることもあると思い、また戦友と会うつもりです。
KENさん、ありがとう。
−−−−−−−−−−−−−−−−
みなさんもお便り下さいね。



98.8.12 ◇◇おめでとうドナー登録10万人(本当なら30万人?)◇◇

 今日、明日にでも日本の骨髄バンクのドナー登録者が10万人を突破する。大きな一里塚だ。10万人の善意にありがとう(僕も10万人のひとりです)。そのために尽力されてきたボランティアや関係者のみなさん、おめでとうございます。
 ところが、だ。骨髄バンクの設立運動時代からずっと骨髄バンクを見守ってきた人のなかにはこう言う人がいる。「本当なら今ごろ30万人を達成していたはずだった」。いったいどういうことなのか。
 1 今春から本格的にはじまったドナーの土・日登録受け付け。これを早くから実施していれば2割5分は多かった。
 2 このほど始まった財団参加の日本型ドライビング。これを早くから実施していれば2割5分は多かった。
 3 申し込みハガキの廃止など簡便性を高めていたら2割5分は多かった。
4 欧米型の本格的ドライビングをやっていたら2割5分は多かった。
 つまりこうしたことを着実にやっていれば10割増しの20万人になっていた。
 そして、もし日本赤十字社が主体となって骨髄バンクをやっていたら30万人は固かったというのだ。実は、骨髄バンクの設立直前まで日本赤十字が主体として行うことに決まっていた。最後になって日赤がそれを断って、一部業務(データベース管理や検査など)の受託だけになったのだ。もし、日赤が献血事業と同じような位置づけで取り組んでいたら、断然多いドナー登録者数が獲得されたに違いない。日赤はそれどころか、いろんな形で1〜4のネックになってきた。
 財団の取り組みも甘かったし、厚生省の指導力不足もあった。
 30万人ドナーがいて、コーディネート期間が米国なみの3カ月半だったら、さらに何人の命が救命できていたのだろうか。遅すぎた10万人突破。反省するのはもちろんのこと、遅れた分を取り返せるだけの対策を打ってほしいものだ。


98.8.4 ◇◇翻訳協力者募集中◇◇

 下の連載7で触れたように、英文の医療関連情報を日本語に翻訳するチームを発足させました。協力者を募集しています。振るってご参加下さい。翻訳ずみのものの編集やパンフレット化など、英語力がいらない作業もそのうち出てきます。みなさん、よろしくお願いします。なかでも疾病別情報、移植関連情報などの専門情報を訳せる方を求めております。医療関係者の方々、ぜひご協力をお願いします。

現在、翻訳候補となっているもののリストと訳者空席状況

1〜14は米国白血病協会のパンフレットおよび冊子
1・I'm having a bone marrow transplant
A Coloring book by bone marrow transplant patients
(骨髄移植を受ける小児患者のためのぬり絵)
2・Coping with survival
Support for people living with adult leukemia and lynphoma
(白血病などの患者と患者家族のために、治療の基礎と心構えについて書いた冊子)→翻訳者決定済み
3・Making intelligent choices about therapy--a discussion of unproven treatments
(治療の選択についての基本的な考え方のミニ・パンフ)→翻訳者決定済み
4・Emotional aspects of childhood leukemia
A handbook for patients
(小児白血病をもつ親のための冊子)→翻訳者決定済み
5・Understanding chemotherapy
A guide to treatment of leukemia, lymphoma and multiple myeloma for patients and their families
(化学療法を受ける心構え。主な副作用や夫婦のこと。主な薬と組み合わせ)→翻訳者決定済み
6・Bone marrow transplantation questions and answers
(骨髄移植についての簡単なQ&A)→決定済み

以下、疾病別冊子
7 慢性骨髄性→決定済み
8 急性骨髄性→決定済み
9 急性リンパ性→決定済み
10 慢性リンパ性→ペンディング
11 ホジキン&ノン・ホジキン→決定済み
12 MDS→決定済み
13 マイローマ→募集中
14 骨髄移植についての冊子(大)→募集中

また、Steve Dunnという人のHPの翻訳許可も取りました。
http://cancerguide.org/
15 The Pros and Cons of Doing Your Own Research→決定済み
16 The Median Isn't the Message→決定済み
17 Fear and Loathing in the ICU→決定済み
18 Second Opinions: Why, When, and Who→決定済み

このあと、米国がんセンターからの情報、米国骨髄バンクの患者擁護関係の情報、個人ホームページからの情報、メンタルケア関係の情報なども翻訳リストに加えていくつもりです。


98.8.4 ◇◇連載7 日米インターネット比較◇◇

東京の会 会報連載

患者の視点からの日米医療比較(7)
日本のインターネットは発展途上

▲インターネットにある医療情報を日米で比較してみた。遅れて立ち上がった日本語の情報だが、急速に充実してきた。
▲患者(家族)が発信する情報などは遜色がない。ドナー登録の申し込みなど、日本ならではのものもある。
▲遅れているのは医療情報とその周辺情報。英語を日本語に翻訳するなど、直輸入も欠かせない。

 96年の春。米国にいてインターネットで病気の情報を探しはじめたころ。米国ではすでにインターネット時代が開花していたが、日本ではまだまだ限られた人のためのもので、コンテンツ(情報の内容)も限られていた。
 あれから2年以上たって、事情はかなり変わりつつある。代表的なホームページ検索サービスである、ヤフーで実験をしてみた。
 「白血病」で検索すると日本では24件、米国では82件のホームページがみつかる。そこにある「闘病記」については日本8件、米国15件だ。「骨髄移植」で調べると日本36件、米国78件。「臓器移植」のもとの「骨髄移植」には日本25件、米国28件の項目がある。これは単に検索でひっかかってくるものを数えているだけだが、ひとつの目安にはなる。まだまだ米国が先をいっているようだ。だが、内容をみると日本でも急速に充実してきている印象がある。
 闘病記では、日本のサイトも遜色がない。持ち前の国民性である(?)几帳面さを活かして詳細な闘病過程を記録して公開したり、患者どおしの交流の輪が広がっている。米国には「助けて下さい」「○○ちゃんを助けよう」といった調子のものがあるのは、お国がらの違いを反映しているようだ。
 私が滞在しているころから米国では移植病棟にパソコンを持ち込むことがわりとスムーズにできた(そもそも無菌室がほとんど使われていないという理由もあったが)。日本では、かつてはかなり強力な個別交渉が必要だったが、近ごろは要望すれば持ち込みを許す病院が増えてきた。もちろん、適切な管理さえすれば禁止する理由はない。パソコンと無線電話で病室から情報発信する人が出てきたのは、頼もしい限りだ。
 パソコン通信サービス、ニフティサーブのなかにある患者の会である「らくだのオアシス」はメンバーを増やしているし、かつてからの特徴の「患者の交流」「情報交換」「闘病記録」といった側面を発展しつつ、近ごろは「医療情報の交換」「バンクシステムについての議論」などの要素も加わってきている印象を受ける。米国の「ボーンマロートーク」に決して劣らない内容だといえるだろう。患者の交流については、患者が運営するホームページの多くが掲示板を設けて、場所を提供している。
 骨髄バンクについてみてみよう。日本の骨髄バンク、骨髄移植推進財団のホームページは今年3月にスタートした。病院別移植実績数を掲載するなど、情報を充実させてきている。米国バンクと比べると「小さい、遅い、高い」状態で、情報提供も少ない日本の骨髄バンクだが、ことインターネットサービスに関しては見劣りしない。ここからドナー登録予約の申し込みができる(もっとも、予約なしで飛び込みで登録できるようになれば、そんな必要さえなくなるのだが)のも、画期的なことだ。ただ、組織の欠点がそのままインターネット上のサービスに現れるのは否めない。「患者擁護」の項目がないのはその1例だ。
 ボランティア団体の全国協議会(全国骨髄バンク推進連絡協議会)は、バンクについて充実した情報を提供しているし、その掲示板ではバンクの使い方や仕組みについて活発な議論がわき起こっている。ニフティサーブのなかの「骨髄バンクフォーラム」には、提言コーナーや体験コーナーなどがある。骨髄バンク運営の情報公開に関しては、KENのホームページで「企画管理委員会」と「3者(財団、厚生省、日赤)連絡会議議事録」を公開しており、バンク自らがやるべきことを補完している。
 では、医学的な情報はどうだろう。これはまだ明らかに米国が先を行く。米国の国立がん研究所と日本の国立がんセンターを比べてみよう。疾病別情報をみると、日本ではかなり一般的な患者向け情報しかない。米国では医療関係者向けの情報が公開されており、医師が知っておくべき一定の水準を示しており、権威ももっている。それを患者や一般人が読むことが、大きな意味をもっている。米国のペンシルバニア大学のガン情報サイト「オンコリンク」のような包括的なサービスもまだない。個別の骨髄移植病院で充実したホームページも備えるところもまだ出てこない。そもそも、医学論文の検索が英語でしかできないのは、決定的な差になっている。
 ぼやいていても仕方ない。米国がん研究所の血液疾患関連情報、米国白血病協会のパンフレット類、米国骨髄バンクの患者擁護関係のパンフレット、米国の個人のページで日本人にも役立つもの――こうしたものを日本語に訳してKENのホームページなどで公開していきたいと思っている。すでに米国白血病協会からは許可を得た。ただいま協力者を募集中です。ぼちぼちいっしょにやりませんか。


98.7.16 ◇◇第10回、臍帯血移植検討会の焦点予想◇◇

 (7月15日深夜記)
 7月16日、1時半から霞ヶ関ビル33階で第10回臍帯血移植検討会が開かれる。中間まとめ案が検討される。議論がまとまれば、17日の朝刊で大きく報道されることになるだろう。
 中間まとめ案についてコメントしておく。
 まずは大局
・(例えでいうと)西を向いていたたたき台を、われわれは東に向けようと努力してきた。今ようやく北を向いたあたり。まだまだ満足できないが、厚生省やその尻馬に乗った医師たちは、北西より東よりになるとは思っていなかったかも知れない。厚生省は多少は東よりに押し戻されるだろうと当初から予想して、たたき台を北向きから始めず、できるだけ西に寄せておいたと言える。われわれは最後まで少しでも東に向けるよう努力する。
・骨髄移植推進財団の関連医師(座長と複数の委員)がここでどんな役割を果たしたか記憶にとどめておこう。どれだけ国民や患者やドナーのためになるようにという立場に立っただろう。厚生省と医師の立場以外をどれだけ考えていただろう。議論の質をどれだけリードしただろう。中間まとめのどこに寄与しただろう。彼らは偶然か示し合わせかは知らないが、当初は厚生省や有力医師の意向に沿った立場にいた。途中で状況が変化して厚生省のスタンスが西よりから北よりになったあとも、まだ西あたりをうろうろしていた。厚生省はもう北を向いているのに、なんの忠誠心からか「西だ。西だ」とまだ叫んでいる人がいたのは、ご苦労さんであった。取り残されてしまっていたのだ。われわれは西より東向きでずいぶん国民のためによくなったと思う。西を示していたのは何のためか。何の意味があったのか、良く考えてみることだ。「哀れな道化役だった」という人もいる。KENにはそれは分からないが、いま医療が大きく変わろうとしているときに、もっと意義がある形にするように方向を示し、議論をリードするという選択肢もあったのに、とは思う。どうせ、結論がここまで来るなら、その格好だけでもしていれば、手柄になったのにね。みっともないところを見せてしまったのは否めないと思う。
・こうした財団関連医師が、財団の改革に本気で取り組む意欲が見られないのが不思議である。臍帯血検討会の中間まとめ案では、サービス、迅速性、インフォームド・コンセント、インターネットへのHLA情報開示、透明性、医療機関との人事の遮断、医療保険の適用、第3者評価機関、柔軟性、仕組みの定期的見直し――などについて、現在の財団の体制よりずいぶん進んだ姿が示された。これは当然、財団にも同等かそれ以上の内容が求められる環境になるということを意味する。それをこの検討会で目の当たりにしていながら、財団がこうしたことに追随できる道筋を十分に考えず、行動にも移せない。これでは「骨髄バンクの役職にある人が臍帯血バンクを取り込みたかったのか」「骨髄バンクへの変化の圧力を抑えるために、臍帯血バンクに進んだ考え方が盛り込まれることに難色を示したのか」という声があることに、反論するのは難しいのではないか。
・このところ、日本赤十字社が臍帯血バンクに果たす役割が脚光を浴びている。赤十字が地域バンクの施設、検査、データ処理などを担当するとか、地域バンクを束ねる役割の連絡協議会の事務所を日赤内におくとかいう話だ。われわれは日赤が骨髄バンクでやってきた、数々の非協力的・非人道的な行動を忘れない。そのことが詳細に検討され反省されない限り、安易に臍帯血への日赤の関与を認めるわけにはいかない。
・さて、これは中間まとめである。最終報告書は出るのであろうか。骨髄バンクが設立されたときには中間まとめは出たが、最終まとめは出なかったという不思議なことが起こった。そうならないようにしてもらいたい。

まとめの内容に移ろう
・公的バンクとは最後まで記述しないつもりらしい。
・われわれが提出したたたき台はあくまで取り上げないつもりらしい。
・p1「はじめに」の項。
 「造血幹細胞移植の希望者に移植による治療の選択の幅を広げる」
→「造血幹細胞移植の希望者に移植による治療の機会の拡大と選択の幅を広げる」
・p2「非血縁者間の臍帯血移植の全国規模での取り組みの必要性」の10行目
 「このためには、品質の均一化及び安全性の確保の観点から」
 「このためには、一定以上の品質の確保及び安全性の確保の観点から」
(均一化というのはおかしい、低いところに合わせるのか。高いところにハードルをおいて、もっとそれ以上に上にいくところがあってもいいのではないか)
・p3 4(1)1 臍帯血移植の性格
 トル
(違和感がある。何の動機で入れるのか)
・同  4(1)2 臍帯血移植の位置づけ
 「ただし、治療法の選択は、それぞれの治療法の成績や臍帯血移植が未だ初期的段階であること等について十分に説明を行った上で承諾を得ることが必要であり、その場合、患者の意思が最優先されるべきことは当然のことである」
→「ただし、その場合、患者の意思が最優先されるべきことは当然のことであり、治療法の選択は、それぞれの治療法について十分な説明を行った上で承諾を得ることが必要である」
(日本語がこなれてない。臍帯血移植が未だ初期的段階というのを何度繰り返しているのか。よほどこれが言いたいらしい。臍帯血移植は海外ではかなり実績があるし、大きな将来性をはらんだものだ。だから検討会をやってきたのだ)
・同 同
 「なお、臍帯血の利用は、骨髄移植の適応疾患に準じた疾患を対象とする」
→「なお、臍帯血の利用は、骨時移植の適応疾患に準じた疾患を対象とするが、HLAの一致度や、病期などの適応判断については、臍帯血の利点を考慮して、医師が患者とのインフォームド・コンセントにもとづいて選択の決定をするべできである」
(これはとても重大な点だ。まず骨髄移植の適応疾患が形骸化していること。適応疾患とHLA一致度が混同される恐れがあること。適応疾患が限定されていない現在より、自由度をせばめる記述だ。こうした狭い記述があると、医療保険の支払いにまで影響してしまうかもしれない。臍帯血移植は第2次戦略などにも使われるし、ドナーへの負担が少ないという利点を活かすためにも、骨髄移植より緩やかな制限になって当然である)
・p7 3の6
 「臍帯血移植は未だ治療法として初期的段階であり、着実に症例を重ねて移植成績等の評価を行っていく必要があること、また患者の予後を最大限配慮する必要があることから」
→トル
(何度、未だ治療法として初期的段階であり、と繰り返せば気がすむのか)
・同 同
 「その施設名についてあらかじめ登録をすることが求められる。なお、この点を担保するために必要な情報を公開することが必要である」
→「必要な情報を公開することとする。施設名についてはあらかじめ登録することが求められる」
(こなれない日本語)
・p8 2 共同事業の内容
 共同事業と第3者機関での業務の割り振りが不明確であり、さらに明確にするべきだ。
・同 4 共同事業の実施
 同上
・同 同 「臍帯血バンク連絡協議会(仮称)」の事務局は、本事業に要求される全国性、運営の安定性の観点から、適切な団体に設置することが求められる」
→トル
(財団か日赤におくための布石だろうが、事務所の置き場をなぜ報告書に書くのか。協議会が自分で選択すればよい)
・p9 (5)必要とする保存臍帯血の目標数
 「5年を目途として2万個程度を整備し」
→「3年後を目途として2万個程度を整備し」
・同 同 
 「なお、将来的には、成人への適応も考慮し」
→「なお、将来的には、成人への移植も一般的になることを想定し」
(成人への移植は今でも禁じられていない。原案どおりでは、これまた自由度をむしろ狭くする後退になる)
・p10 5 臍帯血移植を実施するための手順
 「非血縁者間の臍帯血移植の実施のための技術的な課題については、本検討会の中に作業部会を設けて別途検討を行い、安全かつ有効な臍帯血移植を実施するための手順を示した「臍帯血移植の実施のための技術指針」を策定した。
→「非血縁者間の臍帯血移植の実施のための技術的な課題については、本検討会の中に作業部会を設けて別途検討を行い、現時点の情報と知見から、安全かつ有効な臍帯血移植を実施するための手順を示した「臍帯血移植の実施のための技術指針」を策定した。「臍帯血連絡協議会」はこの指針を参考に自らの技術指針を決める。また、その技術指針は定期的かつ随時見直すべきである」
(技術指針の位置づけがおかしい。協議会なり地域バンクが自分でルールを作るのであって押しつけるものではない。押しつけたら、ルールを変える手だてはなくなってしまう。骨髄バンクの反省が活かされていない。1座不一致やDLTがなかなかできなくて困ったのは自分たちだということを忘れたのだろうか、財団役職のある委員たちは)
・チャート「臍帯血バンク連絡協議会(仮称)と地域バンクの役割
 提供者と採取病院が入っていない
 患者が入っていない
 厚生省から出ている→がシステム全体にかかっていることが明確でない
 審査・評価機関から出ている→がどこに向かっているか不明確。地域バンクと連絡協議会にむかっていることを明確に。

 本日の検討会でさらに中間まとめ案が改善されることを望む。もう一度、第9回に提出された陽田案と、第8回に出された有田委員のたたき台への意見などを熟読してもらいたいものだ。



98.7.14 ◇◇連載記事6◇◇

連載
患者の視点からの日米医療比較(6)
日本の骨髄バンクは世界1!?

▲日本の骨髄バンクは米国に比べて見劣りする。だが、これを世界1にする好機がきた。不可能ではない。
▲世界1のドナー適合率、世界1速いコーディネート、世界1安い骨髄バンク利用料を目指すのだ。
▲そのためには(1)関係者の発想の転換(2)業務の抜本的改革(3)大幅な組織改革と人事刷新――などが欠かせない。

 これまで日本の骨髄バンクの問題点をいろいろ指摘してきた。だが、その気にさえなれば、日本の骨髄バンクは超1流になることができる。潜在力を十分に発揮していないだけなのだ。
 たしかに、日本の骨髄バンクを米国と比較すると「小さい、遅い、高い」となる。すなわち、ドナー登録者数が米国の約320万人に対して約10万人、コーディネート期間は米国の3カ月半に対して7カ月半。米国ではバンク利用料金を医療保険がカバーしていることが多いが、日本では数10万円かかる。
 だが、発想を変えれば日本の骨髄バンクも「大きい、速い、安い」、世界1のバンクに変身することができる。
 ドナー適合率では、日本は8割を超えており、米国より高い。これは日本人の遺伝的同一性が高いからだ。国際提携が進んだため、日本で適合者が見つからない人の半分以上に、海外で適合者が見つかるようになっている。骨髄バンクのドナー登録者数の目標が10万人から30万人に引き上げられた。
 さらに、うまくいけば公的臍帯血バンクで3年以内に2万件から5万件の臍帯血が保管されるようになる。現在、ほぼ小児に限られている対象患者も近い将来、成人まで拡大されていきそうだ。こうしたことが合わされば、「ほぼ100%の移植希望者に、かなり適合度が高い骨髄あるいは臍帯血が見つかる」という状態が実現する。日本人は適合度という質においてダントツで世界1のバンクをもつことができる。
 コーディネート期間を、現在の7カ月半から一気に3カ月半にするのは荒唐無稽なことではない。このほど骨髄バンクのコンピューター更新費用としてついた2億5000万円の政府補助金を使って、コーディネートの仕方を抜本的に変えるのだ。単にドナーのデータベースを拡充するだけではない。コーディネートにかかわる事務作業すべてでコンピューターを使うようにする。通信も郵便から電子メール中心に切り替える。
 現在のコーディネートの作業をそのままコンピューター化しようとしても駄目だ。これをきっかけに、作業の流れを抜本的に変えるのだ。いわゆるリエンジニアリング(業務の抜本的革新)という手法である。コンピューターの良さを活かして仕事の流れを根底から変えてしまうのだ。(1)はぶける作業はやめてしまう(2)業務を順番にするのでなく、同時並行的に行う(3)事務作業の流れに沿って、文書が自動的に次の担当者に流れ、とどこおると警告が出るようにする――など、業務の体系全体を最適化するのだ。
 リエンジニアリングすれば、コーディネート期間を3カ月半にすることは可能だ。そのためには、財団、財団地方事務局、日赤中央データセンター、日赤地方データセンター、移植病院などがネットワークで結ばれて一体化したシステムを、財団が主導権をもって構築する必要がある。リエンジニアリングに必要なコーディネートマニュアルの改訂を、財団のコーディネート委員会が率先すべきなのは言うまでもない。
 利用料金についても、ようやく、骨髄バンク利用料金を医療保険でカバーすべきだという議論が高まってきた。厚生省内部でも、財団を監督している医療保健局のエイズ疾病対策課臓器移植対策室では、補助金によって同室の管理下におきたいという理由から消極論が大勢であるものの、同じ厚生省内部でも「保険適用は当然」と考える幹部も少なくない。先ごろあった国会質問に対して、厚生省幹部は「保険適用がされるべきかどうか検討していく」という方向の発言をした。財団もようやく厚生省に保険適用についての要望書を出そうとしている。
 公的臍帯血バンクのあり方を検討してきた「臍帯血移植検討会」の報告書でも、「医療保険の適用などを含む公的支援が行われることが望ましい」という方向が示される。臍帯血バンクの利用料が保険適用になるということは、当然、同時か事前に骨髄バンクの利用料も保険でカバーされることを意味する。関係者が本気になれば、99年春の実現も不可能ではないし、遅くとも2000年春には是非、実現したい。
 こうして日本の骨髄バンクは世界1になる。そして、国際的な貢献もできるようにもなる。これまでのところ、日米提携によって米国から17例の提供を受けていながら、まだ1例も米国に出せていない。コーディネート期間が半分になれば、提供例も出てくるだろう。また、公的臍帯血バンクを急速に充実させることができれば、臍帯血の海外提供を増やし、国際的な面目をなんとか保つことができるようになるだろう。
 さて、日本の骨髄バンクが世界1になる日は近いうちにやって来るだろうか。残念ながらこのままではその可能性は低い。これまで日本の骨髄バンクが十分に機能しなかったことに責任がある人たちが、十分に反省せず、「どうせだめだ」という敗北主義が染み着いている。発想の転換、人事と組織の一新は避けられない。




98.7.14 ◇◇骨髄移植医に告ぐ(緊急要請)◇◇


                          1998年7月13日
骨髄移植推進財団移植認定病院担当者殿
血液疾患専門医師各位殿

「緊急要請情報」について

               骨髄移植推進財団企画管理委員会
小寺良尚委員長
               をマークする自称「影の企画管理委員長」、
               かつ自称「骨髄バンクオンブズマン」である
               KEN(骨髄バンク推進ネットワークメンバー)
               より

 私はKENと言います。骨髄バンクと骨髄移植の推進整備のために微力ながら活動をしているボランティアです。詳しくは私のホームページ
(http://www.marrow.or.jp/KEN/)をご覧下さい(とくにニュースのコーナー)。
 骨髄移植専門医、血液疾患専門医のみなさまに、まずは、患者関係者の一人として、日ごろのご尽力に感謝を申し上げます。
 本日は、みなさまにお願いと情報提供をするために、このメールを送付しています。不愉快な点もあるかと思いますが、患者の救命はすべての関係者の願いです。一歩でもそのために進んでいけるように、変わらぬご尽力をお願い申しあげます。
 以下の多くの点は、小寺良尚委員長や骨髄移植推進財団幹部などに、全国のみなさまへの周知徹底を、財団としてまた学会として行っていただけるよう、要請してきましたが、実際に行われている患者へのサービスを見るにつけ、未だ不十分と言わざるを得ません。人命に関わっていることですのでKENの立場から「緊急要請情報」を発信させていただきます。


「緊急要請情報」
 以下の項目を要請します。
1○ドナー選定の選択肢が広がり、ドナー選定戦略が抜本的に変化しつつあります。複数の選択から医師が患者と相談しながら、患者の希望を尊重して治療法を選択すること。
2○「同時並行検索コーディネート」を積極的に行うこと。たとえば、日本のバンクと米国のバンクを同時に検索しコーディネートを進めること、BMDW(世界骨髄バンクドナーデータ集計システム=世界の骨髄バンクのHLAが集約されたデータベース。約500万人分が集約されている)で世界の骨髄バンクや臍帯血バンクを検索し同時並行コーディネートすること。
3○世界的な予備検索(BMDW検索)を積極的に最初から行うべきこと。ここでは世界的な骨髄の完全一致および1座不一致検索と、臍帯血については完全一致から2座不一致までの検索ができる。当初から、医師として全貌を把握しておくことが望ましい。
4○以上のようなことができることを、患者に説明すること。
5○ドナー検索を行った結果、経緯、戦略を随時、患者に説明すること。
6○BMDWの検索は間もなく、認定病院にはパスワードが配布され自主的に行えるようになる。BMDW検索の練習をして習熟すること。また、BMDWに入っている日本の骨髄バンクの情報は2カ月に一度の更新情報であり、骨髄バンクに直接予備検索をして、2週間に一度の頻度で更新されている最新の情報を得る必要があることを忘れないこと。
7○コーディネート期間の短縮に取り組むこと。日本では平均7カ月半かかっているが、米国では平均3カ月半ですんでいる。これにはいろいろな要因があるが、医師の努力不足も大きな原因になっている。
8○日本の骨髄バンクでは2億5000万円(日赤分含む)のコンピューター更新予算を得て、システムの改善・変更のための設計に取り組みはじめた。コーディネートのプロセスを抜本的に改善するチャンスである。医師サイドからみた抜本的解決案と要望を早急に骨髄移植推進財団に提出すること。
9○米国骨髄バンク(NMDP)の積極的利用を検討すること。NMDPでは日本でドナーが見つからない登録患者の約55%に適合者が見つかっている。NMDPはアジア系のドナー登録者が10数万人あり、そのうちかなりの部分が日本人で、日本の骨髄バンクとならぶ規模の日本人骨髄バンクである。また、日本人以外でも適合する可能性は低くない。
10○97年4月以降、NMDPから日本への提供が5月末までに17例行われた。コーディネート期間が短いものはわずか2カ月程度である。この迅速性を計算にいれ、積極的に同時並行検索を行うこと。
11○NMDPからの提供には数百万円の費用がかかり、公式には医療保険の適用項目ではないが、健康保険組合によっては特別に支払う場合がある。また、さまざまな患者支援の団体や、寄付・募金の仕組みもある。そうした手段の活用法も含めて患者に積極的に案内すべきである。
12○日本の骨髄バンクの移植適応条件に注意すること。文書では狭く規定されているが、実際は緩やかな運用が行われている。箇条書きになっている項目でなくても、「その他」の救済条項が疾病についても病期についても、広く適用されていることを忘れてはならない。
13○1座不一致移植とDLT(ドナーリンパ球輸注)もすでに例外的に行われているし、間もなく正式に認められる。
14○臍帯血移植に関して、医師の間で誤解が広がっています。「臍帯血移植検討会が開かれて公的臍帯血バンクの設立が議論されている。この時期には世間の認知を得るために臍帯血移植の成績をあげることが必要。良い成績が見込める臍帯血移植に限定した方が好ましい。厚生省からも指導が出ているらしい」というものです。厚生省からはそうした指導は出ていません。厚生省は否定しています。医師の無意識の自主規制に過ぎません。臍帯血移植の利点を活かして、総合的な判断から状況に応じて積極的に考慮することが求められます。臍帯血移植は移植術に医療保険が適用されていますが、認定病院制度がないため広い医療機関で実施が可能です。また規制もなく、1座不一致あるいは2座不一致でも、さらに成人患者でも原理的には移植が可能です。
15○骨髄バンクの利用料金を医療保険の適用とする要望が高まっています。これが実現すれば医師にもメリットがあります。機会あるごとに、厚生省、骨髄移植推進財団、造血幹細胞学会、血液学会などに働きかけていただくようにお願いします。
16○認定病院から骨髄移植推進財団への、骨髄移植後の成績(経過報告)について回収率がとても低くなっています。このデータは国民の大切な財産です。必ず回答されるようお願いします。
★多くの要望を列挙しましたが、まず現在の患者さんに適切なサービスが行われているか、今すぐ点検して下さい。

 以上の点について、疑問などがおありのときは、骨髄移植推進財団にお問い合わせ下さい。ただし、同財団では(1)決めておかなければならない方針・規則などをまだ決めていない(2)明確に決まっていないことを、保守的な解釈で説明することがある。できることを積極的に案内しないことがある(3)説明が変化することがある(4)財団幹部が実務を正確に把握していないことがある(5)サービスの変化のトレンドと先行きの変化を読めていない――などのことがありえます。
 私の方が正確な理解をしている点もあります。私のホームページのニュース欄をご覧いただければ、かなりの疑問は解けるはずです。それでも質問があれば、私の自宅にファクスをお送り下さい。できるだけ返事するようにいたします。
 もう一言、つけ加えさせていただきます。医療関係者のみなさまの努力には感謝しておりますが、必ずしもそのサービスレベルと知識レベルに満足しているわけではありません。骨髄移植を取り巻く環境も、他の医療と同様に急速に変化しています。周辺部門を含めた骨髄移植治療の進歩と、医療関係者と患者関係者の新しい関係を共に築いてまいりましょう。また、情報化時代には医師が適切な医療サービスを提供しなければ、医療訴訟にさらされるリスクも増えます。われわれは、医師の自主的なサービス向上によって医師をそうしたリスクから守っていきたいと考えています。
 



98.7.2 ◇◇勝利宣言(1座不一致移植問題)◇◇

 このところ取り上げて来た1座不一致移植問題にほぼめどがたった。実施日がいつのなるか見守りたい。遅くとも8月1日からできなければ、再度、財団の運営能力を取り上げざるを得ない。


98.7.2 ◇◇骨髄移植の条件緩和(毎日新聞記事)◇◇

 毎日新聞が7月1日付け朝刊1面左肩で「骨髄移植の条件緩和」という記事を掲載。


98.7.1 ◇◇本日のニュース(6月30日発,改訂2版)◇◇

(6月30日発、7月1日掲載、7月2日改訂)
 今日は臍帯血移植検討会、骨髄移植推進財団の理事会、評議員会とイベントが多かった。ニュースも多数あった。とりあえず、要点を列記します。
○小林局長、保険適用に前向き発言
 6月30日、厚生省小林保健医療局長は第9回臍帯血移植検討会で臍帯血バンク利用料金の保険適用について前向きな発言を行った。
 「98年4月に臍帯血移植の手技に医療保険がつきました。次は臍帯血にどう医療保険の点数をつけるか。死体腎移植では腎1つに38万円がついている。臍帯血についても、中医協(中央医療協議会)で値段がつくだろう。自己負担については、健康保険の他の病気の負担と同じであり、臍帯血移植を受ける場合には高額医療費補助が当てはまるだろうから、その場合と同じ負担になる。材料費ということで保険適用となり、差額と個人負担が出るようなことは考えていない」
 KENは小林局長に独自に追加で尋ねました。「医療保険で臍帯血使用料はカバーし、自己負担は生まれない方向ということだ。たとえば臍帯血をもらうといくらという風に一括してつくわけだ。中医協の幹部と話して、その意向であることを確認した。検討会の報告書がまとまれば、そうせざるをえないと考えているようだ」
つまり
・臍帯血バンク利用料は患者にとって無料になる可能性が強い
・臍帯血バンクの運営費は医療保険でまかなわれるようになる
・死体腎移植では1つで38万円、1対で76万円がついている。これは医療保険から腎ネットワークに支払われる。腎摘出に応じて、腎ネットワークから摘出機関に報酬が支払われる。小林局長の頭の中には、これに近いイメージがある。すなわち、支払い方法で何らかの方便が考えられるということ。運営費用や未使用分についても積算コスト的に医療保険がカバーできると考えていること。
・金額的には半端な額ではなく、全額カバーを考えていること。
・これは大きな前進のことば。内容を確認し、さらに前進を求め、後退がないように注意すること。
・いわゆる「丸め」の考えでバンクコストを含んだ一括した保険をつける考えになってきている。これはKENが早くからそうするべきだと主張してきたことである。臓器移植対策室にも再三そう考えるべきと進言してきた。それがあり得ない、好ましくないとしてきた重藤課長補佐の考えは今となっては、ピントはずれだったということだ。今ある腎臓モデルからさらに一歩踏み込んで、KENが主張しているような輸血で行われているモデルで考えるようにしてほしい。
○補助金について
 臍帯血移植についての目標数字と補助金の関係がおぼろげながら見えてきた。厚生省としては、上限として、保存数が3年間で2万件、初期投資額としては10数億円から20億円の間の数字を考えているふしがある。3年間で2万件では十分ではない。金額ももっとかかるだろう。大人への使用が広がると考えられるからだ。目標設定が低くならないように求めていきたい。
○野田事務局長の医療保険について言及
 評議員会で水巻評議員からの質問に対し、野田事務局長が「骨髄バンク利用料金は医療保険でカバーされるのが適切だと思う」と発言。このコメントを歓迎する。では、なぜまだ厚生省への要望書が出ていないのか。評議員会としてもっとこの考えを聞き、評議員会で「医療保険適用要望の発議」をするなどの動きがほしかった。
○理事会、評議員会の傍聴が認められた。
 この前進についてはKENの働きかけが大きかったと自負している。
○傍聴者が少なかった。
 財団の情報公開の低さを批判している人は多いが、情報公開の重要な場に出る人、出れる人、関心がある人は少ないらしい。
○臍帯血バンクは複数が許容され、中央には協議会組織ができるようになることが見えてきたこと。これはKENたちの主張に近い。あとは協議会組織を骨髄移植推進財団の内部におくかどうか。もちろん別にするのが正しい。
○日赤が臍帯血バンクの業務に重要な役割を果たすことが見えたこと。
 臍帯血の検査、分離、保管、データ保管に日赤のデータセンターが中核になることが見えてきた。コスト的、ノウハウ、現実性ではすぐれた案。骨髄バンクで日赤が起こした問題の2の舞が起こらないような仕組みが必要。すなわち、データセンターごとに競わせる。補助金は日赤本社にでなく、協議会から各臍帯血バンク、データセンターに配分することなど。
 KENは日赤の草刈技監に単独で話をきいた。「これだけ国民の期待が高まっているのだから。うちはやるときはやるし、レベルは高いんだ。ただ、責任と役割はきっちり決めてもらわないといけない。そしたら社長のところに話をもっていくよ。各データセンターがやるということだが、やはりやることになれば本社が関与してきっちりするのはもちろんだよ」。
 西平委員が質問して、日赤の北海道データセンターの関口委員と草刈委員が答えるというセットされたような手際のよさ。
 ただ、日赤の関与についてはまだまだ油断はできないとう声がある。ある事情通は言う。「骨髄バンクが設立されようとしていたときも、日赤が主体になることになっていました。土壇場で日赤が逃げた。そしてコンピュータ関連予算だけしっかり取った。あのとき日赤が予定どおりやっていたら、今ではドナーが30万人になっていて、もっと多くの患者が助かったでしょう。そういえば、当時も草刈さんが骨髄バンク問題の担当でしたねえ」。
○1座不一致移植、DLTが理事会で通ったこと。
 昨日、掲載したように、同理事会では、説明に終わり発議にならない見通しであったが、ハプニングが起こった。小寺企画管理委員長が発議として切り出し、高久副理事長が賛成し、司会が「異議ありますか」と聞くと、「異議なし」の声。それで、決まってしまった。小寺委員長が意地を見せたかっこうだ。作戦勝ちというところ。「高久先生が助けてくれた」と小寺委員長。ある医師は「どうせほとんどの理事には何のことか分かりっこないんだ」と舌を出す。まあ、そうでしょうけど、これはこれで危険な発想。反対することが予想された日赤の草刈技監は反対しなかった。KENが草刈さんに「なぜ反対しなかったのか」と尋ねると、草刈技監は「そんなことしたら、またKENさんに起こられるじゃない」とはぐらかした。
 この案件はもうくつがえることはない。ただ、念のために、欠席理事から書面評決をとり、全員一致の形をつくるようだ。次の焦点は実施日がいつになるかだ。詰めを怠りないように。また、これまでの経過ではこうした治療法について、情報収集と情報提供が不十分。これもきっちりやってほしい。そして、患者と医師への啓蒙も。
○朝浦室長の異例に厳しいあいさつ
 理事会の冒頭に臓器移植対策室・朝浦室長があいさつ。「情報化、国際化、臍帯血バンクの設立への動き。状況が変わろうとしている。骨髄バンクシステムにも検討を加え、変えていく時期にきている。マスコミでの注目度も高い、しっかりとやっていくべきだ」。これは異例に厳しいあいさつだ。叱咤と、人事と組織の改革を厚生省が考えていることを示唆している。
○相変わらず低い理事会、評議員会の出席率
○小池理事局長にお願い
 KENは評議員会から退席する小池理事局長に、「骨髄バンク利用料の保険適用」について口頭でお願いした。でも、理解してもらえたかな。「まえまえから問題だが、大変なんです」とのことだったが、最近の動きはご承知かな。もう、高齢であるし、骨髄バンクについての勉強も大変そうだし、事務局が理事長の決済をあおぐのにも遠慮があるようすだから、そろそろ(速やかに)退任されることをお勧めする。
○理事会で責任問題が問われず。
 過去1年間、財団の多くの問題が噴出した。未収金問題、日米不公平問題などもあったし、何より、移植数の増加、コーディネート期間の短縮、ドナー数の増加などにはかばかしい成果を上げていない。だのに、何ら責任問題が問われなかった。人事刷新のチャンスだったが、すべて不問に終わった。
○医療保険の要望書の経緯について確認
 田中常務理事に再度きいた。
 田中氏は今日も、厚生省への要望書を携えていたが、まだ提出してないし、まだ出さないという。尋ねると、加藤医療委員長が作業を怠っているとの主旨である。携帯している要望書は、あくまで田中氏の個人的腹案の文案ということらしい。「企画管理委員会で加藤委員が草稿をつくることになった。それを加藤氏がまだつくって医療委員会にかけていない。医療委員会で通って、企画管理委員会に回して通ったら、提出となる」とのこと。田中氏は、タイミングを気にせず、要望なのだから何度でも出せば良いとの認識だった。
 それにしても、また責任のつけ回しの構図。ところで、委員会や委員のせいにせず、作業のお膳立てをするのも本来の事務局の仕事ではないか。
 小寺企画管理委員長は、今日は、保険の要望について強く前向きだった。頼もしいが、ぜひすぐに実行に移していただきたい。
厚生省鳴瀬さんの話(7月1日)。「財団から医療保険適用の要望書を受け取った記憶はないような気がするし、見たことがあるような気もしない。2カ月ほど前に、そんなことをしたいというような話は聞いたことがあるのは覚えている。だが、少なくとも私には提出まではされていない。多分、出すならここに出すのであろうから、臓器移植対策室には出されていないということではないだろうかと思う。とにかく、そういうものを見たような記憶はないような気がするし、具体的な相談を受けたということはなかったような気が今はする。これはウソではない」。
 KENは今のところ、鳴瀬さんがウソをついてはいないというような気がすると思える。さて、いったいどうなっているのか。
 加藤先生の話(7月2日)。「4月の企画管理委員会で(1座不一致とDLTを)やろうということになって、翌日、資料は渡した。厚生省への要望書の文案もすぐ事務局に出した。そこからは、厚生省とご相談して下さいと言ってある。そこからの作業がストップしているということではないか。そのあたりは、田中さんの判断ではないか。これは、私は企画管理委員会のメンバーとして、要望書の文案作成にかかわったわけで、これを医療委員会で決め、それを企画管理委員会で再度決めるというすじのものではない。私が怠慢であるというようないわれ方はあたっていない」
 KENのコメント。加藤先生はもう文案をとっくに出しているそうである。そうであるならば、あとは提出するだけというのは、加藤先生の認識が正しいとKENは思う。医療委員会でかけるような筋合いのものではない。KENは当初からそう認識していたので、安心した。
○高久副理事長の注目発言
 理事会での国際提携についての発言。「なぜ、日本から米国への照会は適合率が高いのに、米国から日本は低いのか」と事務局に質問。野田事務局長は「コーディネート期間がかかっていること。また、米国には10数万人のアジア系ドナー登録者がいる」と説明。でも待って。そんなことも知らなかったの。3〜4年前にやっておくべきだったNMDPとの提携を実行できなかったのは高久副理事長の責任が大きい。不作為の罪に問われかねない。数年前にNMDPに人を送って調査したことも記憶にないのだろうか。知識も責任も欠如している。高久氏も速やかに席を譲るべきだろう。その方が、ご自分のためにもなるだろう。


98.7.1 ◇◇臍帯血移植検討会,中間報告書、陽田委員案◇◇

 陽田委員の案を入手した。とても優れていると思う。これをベースに報告書をつくるべきだ。

□臍帯血移植検討会 報告書 たたき台
    (1998年6月30日)

臍帯血移植検討会委員         陽田 秀夫
         
 本検討会は、これまでに8回の会を開催し、公的臍帯血バンクのあり方と、非血縁者間の臍帯血移植の実施体制の整備について、検討すべき課題にいついて鋭意検討を行い、今回報告書としてとりまとめた。

1□結論
今後、臍帯血移植が有力な治療法になると見込まれる。臍帯血の保管数の速やかな増加、十分な品質の確保、全国的な供給体制、患者が利用するときの利便性向上と経済的負担の大幅な軽減、などを図るために、公的臍帯血バンクを国の支援によって設立することが望ましい。

2□公的臍帯血バンクの理念
 公的臍帯血バンクの理念としては、次のようにすることで全員の一致がみられた。

臍帯血バンク事業は
臍帯血移植を必要とする患者の救命のため
  国の支援と
善意の提供者をはじめとする国民の協力を得て
公平性と迅速性のある事業として
公共性と透明性の高い組織によって行う

3□臍帯血移植について
 白血病や再生不良性貧血などの治療のための造血幹細胞の移植の一つの手法として、従来の骨髄移植のほか、これまでは活用されることのなかった胎盤や臍帯に含まれている臍帯血から造血幹細胞を分離・保存して移植する臍帯血移植が、世界的に急速な進展をみせている。
 わが国でも1998年春から臍帯血移植術が保険適用となった。
 骨髄移植のドナー(提供者)には全身麻酔をかけるなど、ドナーへの負担を伴うが、臍帯血移植は、胎盤や臍帯から臍帯血を採取するために提供者のそうした負担を伴わない。また、ドナーとの調整(以下、コーディネーション)の手順を必要としないため、現在の骨髄バンクでは、検索登録申し込みから実際に移植が行われるまで231日(1997年度、中央値)かかっているのに比べ、迅速に提供できるという利点もある。現在の骨髄バンクでは移植希望者の4分の1程度が移植できているのにすぎない。臍帯血バンクの充実は、造血幹細胞移植を希望する患者に移植の可能性をさらに広げることになろう。
現在は、骨髄移植ドナーが見つからない患者への補完的な役割として、主に小児向けに行われているが、近い将来に骨髄移植とならぶ、あるいはかなりの部分で骨髄移植を代替する治療法になり得る可能性も秘めている。また、成人患者への移植へと広げられる技術的目処が立ちつつある。これまでに世界ではすでに700例以上の移植が行われており、ニューヨーク臍帯血バンクでは109例の成人患者への提供が報告されている。症例の集積と知見の蓄積、症例の分析が急がれているところである。
今後、ますます臍帯血移植が有力な治療法になると見込まれる。現在、日本では全国9カ所で臍帯血バンクの取り組みがはじまっている。臍帯血保管数の速やかな増加、全国的な供給体制、患者が利用するときの利便性向上と経済的負担の大幅な軽減、などを図るために、公的臍帯血バンクを設立することが望ましい。国民や地方自治体から、公的臍帯血バンクの設立を求める声も高まっている。

4□治療の選択
 白血病など造血幹細胞移植を必要とする患者の病気は多様である。また、多くの治療の選択肢がある。さらに、最善と考えられる治療法が病気の状態によって刻々と変化することがある。よって、治療法の選択についてのガイドラインは一元的で厳密なものではなく、緩やかで幅をもたせたものにすべきである。最終的に治療法を選択するのは患者である。できるだけ正確で十分な臍帯血移植で見込める成績、他の治療法との予後の比較、長所、短所などについて、医師からの十分なインフォームドコンセント(説明の上の同意)にもとづいて、治療の選択が行われるべきである。

5□公的臍帯血バンクの運営体制の基本方針
1)提供された臍帯血の位置づけ
 善意の提供者から患者の救命のために公的臍帯血バンクに提供されたもので、所有権は公的臍帯血バンクにあるが、善意の提供者から臍帯血の管理と利用について付託を受けていると考えるべきである。
2)善意・任意の尊重
 善意により提供された臍帯血を移植のために用いるものであるため、営利の追究に用いられてはならない。
3)公平・適正な使用について
 提供された臍帯血は社会全体の財産であるため、全国的に公平かつ適正に使用する。
4)安全性・有効性の重視について
 安全で治療に有効な臍帯血を供給する。臍帯血の採取・分離・保存や利用についての具体的手順のガイドラインである「臍帯血移植の実施のための技術指針」を公的臍帯血バンクが策定し、公的臍帯血バンクおよびその参加者は、それに基づき業務を行っていく。臍帯血や臍帯血移植についての知見は今後、変化が見込まれるため、ガイドラインは頻繁かつ定期的に見直す。
 なお本検討会の専門部会は「臍帯血移植の実施のための技術指針についての一考察」(仮称)をまとめた。これが公的臍帯血バンクの「臍帯血移植の実施のための技術指針」策定の際の、有力な参考資料になることを期待する。ただし、同技術指針はこれから設置される公的臍帯血バンク自身が、所定の手続きをとって自ら策定することが望ましい。
 また、保存された臍帯血の品質及び臍帯血移植の成績については絶えず評価を行う。ただし、臍帯血移植の対象者は骨髄移植の対象者と条件が必ずしも同じではなく、両者の比較についてはそれを考慮に入れ、慎重に行う。
5)利用者の利便性の配慮について
 臍帯血の提供を受ける者の利便性の観点に立った運営体制を構築する。たとえば、臍帯血バンクに保存されているHLAデータについては公開され、簡便に医師が自主的に予備検索(適合候補がいるかどうか、無料で即時の検索)を行ったり、予備検索サービスを受けることができるようにする。また、正式登録を受け付けたときには患者か家族にもその旨を通知する。
6)同時検索、同時登録(コーディネート)の許容
 どこからどんな種類の造血幹細胞の提供を受け、移植を行うのかは、患者がインフォームド・コンセントに基づいて医師と相談し、決定することである。臍帯血バンクや何らかの組織が一元的に管理あるいは規定すべきではない。個別の患者の疾患、病期、状態、ドナー候補の状況などによって一人ひとりドナー選定戦略は異なる。患者と主治医(医師)の判断で、骨髄バンクや海外の骨髄バンクおよび臍帯血バンクなどと同時検索や同時登録などができるよう、検索や登録についての細かな条件は付けない。
7)迅速性
 臍帯血移植を考慮・検討・選択する患者の治療は時間との戦いである。臍帯血移植の最も有利な特徴である迅速性を確保すること。
8)利用者へのサービス向上に努めること
 上記のような目的で行う公的臍帯血バンクであるから、利用者(すなわち患者、その代理人としての医師など)への質の高いサービスを目指すこと。利用者の意見や満足度をくみ取り、サービスの改善に努める。利用者にとって、分かりやすく、連絡しやすく、質問しやすい、開かれたバンクとすべきである。
9)提供者への十分な説明の必要性について
 臍帯血の採取に当たっては、妊婦やその配偶者に対して十分な説明を行い、自発的な提供意思を確認した上で行う。
10)個人情報の保護について
 臍帯血の提供をいただいた児や母親および患者の個人情報の保護については、特段の配慮を行う。
11)国際化について
 国や地域の境を越えた臍帯血のやりとりが当然の時代になっている。国際協力において問題を生じないように、公的臍帯血バンクの諸規定についてはできるだけ国際標準(世界的に趨勢となっている基準)を尊重し、同等もしくはそれ以上の基準にする。また、国際協力はこれを積極的に行う。公的臍帯血バンクは日本の国民だけでなく、世界人類への貢献を理念とするものであり、そうあってこそ、海外からの臍帯血の提供も受けられ、日本の国民が利益を享受することができるものである。
12)普及啓発について
 臍帯血移植の有用性を広報し、臍帯血バンクへの提供が増えるように普及啓発活動を積極的に行う。国、都道府県等の自治体および関係医療団体(産科学会、造血幹細胞移植学会、血液学会など)がそのための活動を行う。また、たとえば母子手帳への臍帯血提供の案内の記述など、広く周知徹底する方策を考える。

6□移植の適応条件と使用目的
 設立目的に照らし合わせ、医療環境をみながら、専門家を中心とした第3者機関などしかるべき組織でしかるべき手順を踏んで決める。またその内容については臍帯血提供者や社会に対し、広く周知する。また、移植の適応条件は緩やかにし患者と主治医のインフォームドコンセントにもとづいて、最終的には患者によって選択されるべきだ。使用目的については、採取されたものの移植や保存に適さないものもあると予想されるが、それを医学的基礎研究などに用いるかどうかは、諮問委員会などで開かれた議論を行い、しかるべき手続きを踏んで決定する。その使途は社会に周知し、提供者にもインフォーム(説明)する。それまでにすでに採取・保存が終わっているものについて、使用目的を提供者からえた同意の範囲をこえて使用・利用するときには、再度、同意を取り直す必要があることは言うまでもない。

7□具体的な運営体制のあり方
1)採取・分離・検査・保存を行う施設について
 安全で有効な質の高い臍帯血を保存して行くためには、設備や人員などについて臍帯血の採取から保存までのすべての過程に関して安全性などに十分配慮された施設において、採取・分離・検査・保存を行うことが必要である。
2)情報システム体制について
 公的バンクの理念と性格にかんがみて、公的臍帯血バンクは、HLAデータを独占せず、原則的に公共のものとして公開する。また、HLAデータを公的臍帯血バンクがつくる公開された統合データベースなどに提供することを義務づけ、患者やその代理人たる医師が自主的に予備検索ができるようにする。
 治療方針策定においてドナーの選定は医療行為の重要な要素であり、医師による自主検索にともなう錯誤・ドナー選定戦略プロセスの判断ミスを防止し、その過程が残るように、医師が自主検索の結果を記録に残し、患者の求めに応じて情報を提供し説明することを義務づける。
 また骨髄と臍帯血の情報内容はちがうことから情報の混乱を防止するため、骨髄と臍帯血のデータベースは2本立とする。ただし、相互の緊密な連絡のもとに、利用者が便利にアクセスできるように体制を整備すべきである。
3)財政構造のあり方について
 臍帯血移植など造血幹細胞移植は根治を狙った治療であり、国民経済的にみても意味のある治療法である。公的臍帯血バンクは患者にとって利用料金が無料であることを目指す。臍帯血バンクの利用者は白血病や血液疾患などの難病の患者である。治療費全体として高額の自己負担を強いられている。さらに臍帯血バンク利用料金として患者に実費費用負担をしてもらうのは、国民皆保険を理念とする日本で、好ましくない。ましてや、造血幹細胞移植は、骨髄移植ですでに多数の実例(国内:非血縁者間約1600例。血縁者間多数)があり、標準医療としてほぼ確立している医療である。骨髄移植術、臍帯血移植術についてはすでに医療保険の適用となっている。臍帯血バンク利用料については、医療保険でまかなえるようにすることが望ましい。公的臍帯血バンクの設立運営については、初期投資(デッドストックとなる分の保存費用を含む)などは国庫補助金としての公的資金を主にし、運営費用は医療保険でまかなえるようになることが、公的臍帯血バンクが安定的で健全に運営されるために必要である。

8□運営組織の基本的考えについて
1)組織
 臍帯血バンクと骨髄バンクは業務が重複する部分が少ない。それぞれの業務に最適な組織とし、臍帯血バンクは骨髄バンクとは独立した別の組織によって運営されることが望ましい。臍帯血移植と骨髄移植は同じ疾病に対する治療法であり、競合する治療法でもあり、それぞれの長所を伸ばしていく誘因が十分に働くよう、同じ組織で統合されないことが好ましい。海外でも臍帯血バンクと骨髄バンクが同一主体によって運営されている例は少なく、業務には何ら支障がないと思われる。利用者である患者とその代理人たる医師が利用しやすいように、それぞれがHLAデータの予備検索を実施し、HLAデータ情報を公開するなどアクセスしやすいようにしておくことが重要である。
 組織のあり方については、3つの案が出た。(1)「分権型」。臍帯血バンクと骨髄バンクは別組織とし、公的臍帯血バンクを複数設置したうえで、ひとつの連合会的本部をつくる(2)「本部集権型」。臍帯血バンクと骨髄バンクは別組織とする。臍帯血バンクはすべての保存施設(地方バンク)を、ひとつの中央の臍帯血バンクが直接、管理運営する(3)「統合型」。臍帯血バンクと骨髄バンクを同一組織で行う――である。
 総合的にみて(1)の「分権型」がもっとも望ましい。先にのべた理由から、臍帯血バンクと骨髄バンクは別の組織で運営することが好ましい。また、各地の臍帯血バンクの間で、定められた基準が守られた上で、保存数、品質、効率、経費、運営資金調達などの点で切磋琢磨が行われるよう、複数(数としては3〜5程度)の主体が業務を行うことが、将来の発展と効率を維持するには大切である。また、「分権型」が地方の活力と資金援助を引き出すのにも、有効であると思われる。臍帯血バンクの連合体的組織として、本部の「日本臍帯血バンク連合会」(仮称。以下、連合会)を設置する。連合会はできるだけスリムな組織とする。連合会には各種の専門委員会が置かれる。補助金としての公的資金は連合会をとおして各地のバンクに配分される。
2)組織の独立性について
 公的臍帯血バンクは移植医療機関からは組織、人事、財政等あらゆる面で独立した機関として設立する。
3)患者擁護部門の設置
 上記の目的とサービス向上を実現するために、患者擁護部門の設置が有効であり、不可欠である。
4)外部からのチェック
 専門家による第3者機関、国民参加の監視機関、諮問機関等を外部の組織として位置づけて設置し、外部からのチェックが働く仕組みとする。
5)独立性と完結性
 公的臍帯血バンクは公的バンクとして、国の支援を受けて設置される。そのため、社会的に公共の存在であり、厚生省の監督を受けることになるが、臍帯血バンクの運営などについては原則として臍帯血バンクの権限と責任において、自主的に意思決定をすることができるものとする。厚生省は監督責任をもち、公的臍帯血バンクが目的の実現のために努めるよう、監視指導する立場にあるが、臍帯血バンクに対して、文書以外の行政指導は行わないことにする。また委託等により外部の組織が、臍帯血バンクの一部業務を担うことになっても、その組織はあくまで業務の一部を公的臍帯血バンクから委託を受けただけで、公的臍帯血バンクの業務内容の方向づけに対して、影響を与えることができるものではない。
6)任命権
 任命委員会をつくる。公的臍帯血バンクの役員、監査役など主要人事の選定は、選定基準を明らかにした上で、透明性のある任命委員会で行う。主要職は任期を定め、再任はできるが長期にならないように配慮する。
7)各種委員会について
 財務、普及広報、患者擁護、国際などの委員会を必要に応じて設置する。
8)情報公開と透明性
 公的であり、ドナーの善意の付託を受けて運営されている公的臍帯血バンクの性格からして、透明性が理念としてうたわれるべきである。基本的にすべての運営、業務、施設、データ、議事などのようすが外部にも見える透明なものでなければならない。情報開示についても、プライバシー情報をのぞく、あらゆる情報について、できるだけ率先して開示し、あるいは求めに応じて提供されなければならない。

9□臍帯血バンク、移植医療機関、採取施設の選定
1)臍帯血バンクの選定
 満たすべき条件を列記し、希望者のなかから広域性と効率を勘案しながら、適切な数を選ぶ。定期的また必要に応じて、公的臍帯血バンクが要件を満たしているかチェックする。事業主体数数としては3〜5程度が望ましい。
2)移植病院
 登録制とする。臍帯血バンクから臍帯血の供給を受けて移植医療を行おうとする病院は、造血幹細胞移植の実績、成績、移植医療の体制などの情報を定められた様式に基づいて登録する。登録された情報は公開され、患者が移植病院を選定できる仕組みとする。
3)採取施設の選定
 公的臍帯血バンクが基準を定めて依頼する。

10□必要とする保存臍帯血の目標数
 すべての利用希望者に対し、かなり一致度が高い臍帯血がみつかる規模を、早期に実現することを目標とする。また、適応の拡大などによって必要件数が拡大することも予想されるので、定期的かつ必要に応じて目標数は見直していくこととする。当初は5万件の数字を目指すことが求められる。

11□公的臍帯血バンク整備のために緊急に実施すべき事業
1)情報システムの構築
 全国の患者と医師が臍帯血バンクを利用できるようにするには、HLAデータを検索できる情報システムを構築することがまず必要である。
2)臍帯血の保存施設の整備
臍帯血バンクが使用する保存施設は連合会が定めた選定基準と選定方法によって、基準以上に安全で有効な臍帯血を保存していくために十分な体制を整えなければならない。それに合致したところを指定し、必要な整備を行う。数については、事業体数としては3〜5事業体を目処とする。
3)初期計画の策定
 公的臍帯血バンクはできるだけ早期に設立する。公的臍帯血バンクがスムーズに立ち上がり、一定の規模にまで早期に発展するように、計画を策定して実行していく。実績数、研究の成果等を踏まえ、保存する臍帯血の数の年次計画、財務計画などを立案する。
4)臍帯血移植に関する研究の推進
 臍帯血移植の基礎的研究、臨床的研究、疫学的研究、社会的研究など、総合的に研究を推進することにより、臍帯血移植の基盤整備を図る。

□おわりに
 本臍帯血移植検討会においては、公的臍帯血バンクの設置と臍帯血移植の推進体制の基本的枠組みについて報告書に取りまとめた。
 今後、本検討会で取りまとめられた枠組みについては、医学の進歩など時代とともに見直しが必要になると考えられ、定期的かつ必要に応じて、公的臍帯血バンクおよび適切な主体によって再検討が行われるべきである。この報告書は本検討会の議論を踏まえたものであり、本検討会の成果であるが、公的臍帯血バンクの事業主体は公的臍帯血バンクであって、社会の支援を受けながら、社会に情報を開示しつつ、あくまで自主性と自らの責任を主導にして主体的な運営を行うことが求められる。また国は公的臍帯血バンクの求められた業務の遂行と発展について、監督責任をもつが、公的臍帯血バンクの理念と目的と業務の性格に照らし合わせ、監督指導が硬直的にならないよう、注意を払うこととする。

以上

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