集中治療室(ICU)の中の恐怖と嫌悪

加藤先生英文翻訳監修
著者 : Steve Dunn(スティーブ・ダン)
原題 : Fear and Loathing in the ICU
URL : http://cancerguide.org/sideeffect.html
訳者 : 撫子なんちゃん

おことわり(免責条項)
1.なるべく言葉や意味を正確に翻訳することを心がけていますが、内容については保証するものではありません。海外と日本では治療法や使用される薬が異なるばかりではなく、社会的環境も異なります。あなたの主治医と話し合ったり、各種団体の相談窓口を利用するなどして、ご自身あるいはご家族に対してここにあげた情報がどのように適用できるかご判断ください。
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心の奥底(の気持ち)

 集中治療室(ICU)に入れられて、毒性のきわめて強い実験的な治療を受ける前の朝には、私は恐怖ではらわたで吐き出してしまうような気持ちでした。いろいろなことのなかで、副作用に対してもっとも恐怖を感じていました。ICUに入らなければならないということは、なまやさしい治療ではないことなのだと覚悟していました。私の主治医グループは、私から「説明を受けたうえの同意」(インフォームド・コンセント)を得るために、この治療を受けた場合に起こり得るリスクを可能な限り説明してくれました。心臓発作を起こすかもしれない、失明するかもしれない、腸に穴が開いて、人工肛門が必要になるかも知れない。肺に水がたまり、人工呼吸器を必要とする可能性もある。この治療によって死んでしまうことだってある。という風に説明はまだまだ続きました。

頭を使え!

 心の奥底では震えあがっていましたが、頭では三つのことを理解していました。第一に、副作用によって身体に永続的なダメージが加えられる可能性はかなり低いということ。第二に、通常の副作用ならば、治療のあいだは自分がかなり悲惨な状況になるかもしれないが、治療終了後数日間から数週間で副作用はまったくなくなるということ。第三に、この治療法はその時点で最良のものであるということ。この治療を受けなければ、ガンによって数カ月のうちにまず確実に死んでしまうが、治療を受ければ生き延びる可能性があるということを私は知りました。ですから、心の奥底の葛藤とはうらはらに、その治療を受けると決断することは実際なにも頭を悩ます必要のない、簡単なことでした。副作用を考える際のの以下の私の助言は、これら三つのことに基づいています。

考慮すべき三つのこと

 第一に、その治療法がもたらすかもしれない利益があなたにとって果たして有益かどうかについて、現実的な考えを持ちましょう。これは、その治療法がどれくらいあなたを助けてくれるのか、あるいは最良の場合どのくらいあなたを救ってくれるのかを理解することを意味します。副作用と他の可能性とを比較してみてください。ほかに治療の仕方がなければ、困難で危険な治療法であっても行なう価値があります。もしも別の治療法が存在し、それが同じように良い効果をあげながらしかもずっと簡単で安全ならば、そちらに切り替えるほうがよいでしょう。

 第二に、体に恒久的な傷害を受ける可能性、またそれがどの程度深刻か、について考えてみましょう。たいていの投薬治療では、そのような可能性はあなたが考えるよりも低いのです。私の受けた治療の場合、その治療で死亡する確率は5%未満だったということを、あなたはきっと思いもしないでしょう。放射線照射や外科手術を受けると、ときに深刻な恒久的副作用を引き起こしますが、いつもというわけでは決してありません。肉体の一部の切断が引き起こす深刻な恒久的副作用の可能性を考えてみたいですか?治療後に起き得る、思っても見ないことについて、なんでも考えてみましょう。事実をつかむのです!考えるべきことのひとつに、遅延副作用(晩期障害)があります。抗ガン剤によっては、何年もあとになって別のガンを引き起こすことがあります。あるものは長期間たった後に心臓に深刻な障害を与える可能性があります。ただし、これらのことは総合的な理解のなかに入れて考えるべきです。もしある治療法を受ければガンが95%の確率で治癒するのに対して、治療しなければ100%の確率で死んでしまうのならば、その治療によって別のガンにかかる確率が10%であると知って大騒ぎするのは、あまり意味がありません。もっとも、治療法によって深刻な障害を受ける可能性が異なる場合があります。別の治療法を探すことによって、もっと安全な治療法を見つけられるかもしれません。ただしもちろん見つけられるという保証はありませんが。本当の専門家が行なえば、治療法によってはずっと安全なものになります。一般の医者よりも安全に、複雑な外科手術を成功させることができる専門医がいるかもしれません。最善の策を取ることで損をすることはありません。

 第三に、治療法の「つらさ」を考えてみましょう。通常の副作用で、あなたはどの程度一時的につらくなるでしょう? あなたの「生活の質」にとってそれはどんな意味をもつのでしょうか? きわめて毒性の強い治療法で、せいぜいのところ、あなたの寿命をほんのわずかだけしか延ばせないようなものをあなたが受けるかどうかという場合に、治療を受け入れてもプラスにはならないとおそらく判断するでしょう。32歳で、末期ガンを根治できるかもしれないという、小さくとも現実的な可能性を持っている患者として、私はその可能性を与えてくれるものならばどんなものでも喜んで受け入れました。副作用がどのくらい大変なものになるかについての事実を知ることは重要です。本に書いてある副作用がすべて自分に起こるなどとは考えないことです。それはまずありえません。治療法の「つらさ」がどのようなものかを知るためには、一般的な副作用を考えてください、まれな副作用は考えないこと! また、同じ治療を受けても、生じる副作用の強さは人によってさまざまであること)も憶えていてください。恐れていたにもかかわらず、私の副作用はたいていの患者より弱いものでした。もっと重要なのは、私がこうなるだろうと予想したほどつらいものではなかったことです。最後に、もしも副作用があまりに強すぎたら、あなたの主治医は治療を止めるか、薬の量を減らすか、あるいは併用療法のなかの薬のひとつを除くことで治療法を変更したりするでしょう。

自分で責任を持つ

 副作用を避けたり減らしたりする方法があるかどうかを考えたりたずねたりすることも考慮するに値します。適切な注意をすれば、深刻な感染症にかかる可能性を減らすことができるでしょう。私の治療法をめぐって、主治医グループが神経系に副作用が生じる可能性についてかなり心配していたことを私は知りました。病院で私は、睡眠薬や鎮痛剤、(コンパジンのような)、自分をふらふらにさせるゾンカーと呼ばれる薬をありとあらゆる限り飲みました。これらの薬を使うか使わないかは自由だったので、私はなるべく少量にしておきました。

将来の展望がすべて

 あなたが陥るかもしれない最大のまちがいは、副作用に対する恐怖のために、命を救ってくれる治療を拒否することだと思います。私はそれを実際に見ています(見たことがあります)。恐怖心は、治療の危険性を実際よりもずっと悪く感じさせるものです。私は自分に適切なことをするために、自分の奥底の心と闘わなければなりませんでした。私の経験では、多くの人が、危険性は本当に深刻だという誇張された考えをもっています。効果的な治療を受けなければ、ガンそれ自身が危険であることを忘れないでください。その危険性は非常に高く、ときにはほとんど100%近いのです。ガンの危険性を治療の危険性と比較した上で将来の展望をたててください。

 
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