著者:Steve Dunn (スティーブ・ダン)
原題:The Pros and Cons of Doing Your Own Research
URL:http://cancerguide.org/pros_cons.html
訳者:撫子なんちゃん
おことわり(免責条項)
1.なるべく言葉や意味を正確に翻訳することを心がけていますが、内容については保証するものではありません。海外と日本では治療法や使用される薬が異なるばかりではなく、社会的環境も異なります。あなたの主治医と話し合ったり、各種団体の相談窓口を利用するなどして、ご自身あるいはご家族に対してここにあげた情報がどのように適用できるかご判断ください。
2.原典の各発行元には、日本語への翻訳に関して了解を得ていますが、各発行元が日本語に翻訳された情報の保証をするものではありません。
3.訳者、編集者、監修者などはこの翻訳内容と、それによって引き起こされたことに対して、いかなる責任も負いません。
自分のガンについて調べることへの賛成論と反対論
私のガンの治療法にどのようなものがあるかを調べたことは、私がこれまで生きのびてきたことの重要な要因であったと確信しています。したがって自然に、自分の病気に関する最新の技術的な文献を探ることまで含めて、私は患者が自分自身で調べるべきだと思います。まさにこのキャンサーガイドは、……あなたの助けになるものです。もっとも同時に、このような調査がすべての人にとって正しい方法であるとは限らないことも事実です。ここでは、自分の病気について調べることがあなたにとって正しい方法であるかどうかを決定する助けになればと考え、賛成論と反対論の両方を簡単に紹介します。
賛成論
・あなたの命を救えるかもしれない
ガン治療の専門家は100種類以上のガンを扱っています。さらにそれぞれのガンに多数の状態があり、これらひとつひとつに対応した治療法が必要とされます。どんなに献身的な医師であっても、すべてのガンについて、有望な新しい治療法すべてに目を配るということは不可能です。患者として、あなたはただ1種類のガンの1種類の状態、つまりあなたの場合を調べれば十分なのです。お医者さんのもつ知識と経験はもっていなくても、あなたは自分自身のケースについて費やす時間がたっぷりあるという有利な点があるではありませんか。こうしたことを考えると、自分の病気を自分で調べれば、あなたの担当医が知らない、あなたの命を救うことができる治療法を見つけ出すことができるかもしれないのです。
残念なことに、医者のなかには新しい医学的知識をあまりもっていない人もいます。そして、あなたの担当医がそれにあてはまるかどうかを知ることはきわめてむずかしいことです。もし悪い担当医にあたってしまっていたら、ほんの少し調べるだけで、担当医が勧めている治療法よりも高い治癒率を示す標準的な治療法を見出すことができるかもしれません。この場合にも、あなたは自分の命を救えたことになります。
(訳注--以下については、日本では当てはまりません)
あなたがHMOの会員であれば、なんらかの調査をする特別な理由があります。治療をより少なくして、そのネットワーク外に患者を照会しないようにすることで、HMOは利益をあげているのです。わたしの経験では、HMOがその患者に対して有望な新しい治療法や新しい臨床療法を知らせることはまずありえません。この状況では、少しでも調べればあなた自身の命を救うことができるかもしれないのです。
あなたのガンがまれなものならば、それについてあなた自身が調べる特別な理由がここでもあります。担当医はおそらくあなたのガンを治療した経験がまったくないか、あってもほんの少しだからです。調査をすれば、あなたの病気の専門家を見つけることができる可能性があります。そうすればその治療法について知られていることを見つけることができるのです。あなたの担当医もこのような調査をすでに行なっているかもしれませんが、そうでなければ、あなたは自分の命を救えるかもしれないのです。
・それは力づける
私の病気が転移性のものだと診断されたあと、わたしはまったく打ちのめされてしまいました。その状態から救ってくれたものことがふたつあります。ひとつは体を動かすことであり、もうひとつはどこかの研究センターに電話したり、図書館へいったり、とにかく実際に助けになると信じたことを実行したことです。電話をちょっとかけるだけで、数分間のうちに最悪の落ち込みから本当にうきうきしたに変わることができました。
ガンにかかると、生活のなかで多くのことについて自分の思うままにはいかなくくなります。これは病気自体の症状によっても起こりますが、医学的治療によってもまた同じことが起こりえます。あなたが完全には理解できなかったり理由がはっきりしない、副作用の強い治療や投薬といった一連の処置にさらされると、自分に降りかかっている重要なことのすべてがあなた自身の手におえない状態だと感じることになるでしょう。自分の治療法を理解し、それを自分がコントロールできるようになれば、孤立無援と絶望という感情からのがれることのできる妙薬となります。それはまた、あなたに行なわれている治療をあなたが理解し、またその治療が成功する手助けとなるでしょう。
・あなたはより多くの情報を得たうえで決断することができる
病気に関する文献を読めば、それぞれの治療法の成功率、副作用、治療後の経過予想(予後)といったことに関する情報を,普通に医者にかかった時に知るよりもっとたくさん得ることができる可能性があります。こうすれば、あなたの担当医が勧めている治療法があなたにふさわしいかどうかをよりよく決断することができるでしょう。担当医にきちんと質問すれば、ほとんど同じ情報を得ることができるかもしれませんが、自分自身ですこし調べれば、それについて考える時間がずっと増えます。あなた自身がどうして決断をしたのかを担当医と話し合うことを、私は強く勧めます。これによって、もしあなたが見つけたことを間違って解釈していれば、担当医がそれを直す機会ができるからです。
反対論
・調査するのは難しく、恐ろしくなる
専門用語がちりばめられた医学上の技術的な文献を読みこなすのは、誰にとっても簡単ではありません。しかし(他の人々よりも)読みこなせる人がいることも事実です。第一、読もうとしなければ、理解できるかどうかわからないではないですか。ここで友人や親戚のありがたさに触れておくべきでしょう。詳細に記述された技術的な報告書を、お茶を一杯飲むあいだに読み進むというわけにはいかない場合には,知り合いの誰かがあなたをこころよく助けてくれるかもしれません。私の経験では、ほとんどの友人や親戚は何か助けることができればと思ってくれているのですが、どんなことができるのか知らないのです。あなたが頼みさえすれば、よろこんで助けてくれるでしょう。もちろん、医学や生物学畑の友人や親戚が一番よく助けてくれる可能性がありますが、科学技術のどの領域の知識でも、なんらかの助けになり得ます。最後に、あなたが目にする情報のなかには、素人向けに書かれたものもありますから、この場合はあなた自身で理解することができます。
・あなたは間違った決断をするかもしれない
あなたが自分自身でなんでも行なおうとするのなら、読んだことを誤解し、それによって悪い判断をするかもしれません。それを避けるには、自分自身でなんでも判断しないことです。必ずあなたの担当医にあなたがあれこれ考えたり決断を下すのに加わってもらうことです。また、担当医の意見と推測を注意深く考えてみるべきです。
・あなたは統計に立ち向かわなければならない
これがどれほど困難であるか、私は自分の経験からよく知っています。私と同じ種類のガンが、転移性である場合には3年後の生存率がたったの4%であると書いてある文章を読んでからわずか4日後に、私のガンは転移性だと診断されたのです。この陰気な統計数字を理解することははなはだ困難ではありますが、4%は0%ではないこと、また新しい治療法が導入されれば生存率は増える可能性があることを、私は認識することができました。
統計の数字が実際にはなにを意味しているのかを理解すれば、絶望を希望に変えることができます。ガンと統計についてこれまで私が読んだ中でもっとも優れているのは、スティーブン・J・グールドさんの「平均中央値は神のお告げじゃない――進化学者が不治のガンから生還したストーリー」(http://cancerguide.org/median_not_msg.html)です。これを読めば、理性に基づいた真の希望があなたにもたらされるでしょう。
ひとつつけ加えておくことがあります。古い統計を見ていると、実際よりも物事を悪く考えてしまう可能性があります。これは治療法が向上していることがあるからです。昔のデータに決して頼らないで下さい!
あなたの状態には本当はあてはまらないデータをもとにした治療後の経過予想だと,間違った考えをしてしまう可能性があります。治療後の経過予想の平均的な一般像からみると、あなた特有の要素があってそれで治癒の可能性が変化するかもしれませんし、統計が厳密にどの状況に当てはまるのかを、あなたが誤解しているかもしれません。
最後に、統計と対決したくなかったら、友人か親戚の人にあなたに代わって調べてもらうことを考えましょう。
・もっとよい治療法などないかもしれない
長い時間と労力をかけて調べてみても、あなたの担当医が最初に勧めてくれた治療法よりもよいものを見つけられない可能性は十分あります。これはふたつの面から考えることができます。治療後の経過予想がきわめて悪いものであれば、それを確認することはつらいことです。一方、予想が納得できるものであれば、あなたは自分がたしかに最上の治療を受けていると安心することができます。どちらの場合でも、担当医が最上の治療法を勧めているということがわかれば、その医師に対する信頼も高まります。
最後に一言。
反対論の項目数が賛成論の項目数よりも多くなっていますが、これは数の多少で決定するべき問題ではありません。なにが自分にとって重要かは、あなた自身が決断しなければなりません。