化学療法を理解しよう

秋山先生英文翻訳監修
© Leukemia Society of America、米白血病協会
原題 : Understanding Chemotherapy, Answers to Your Questions.
URL : http://www.leukemia.org/docs/pub_media/chemo/index.html
著者 : パトリシア・ディージー・スピネッタ(MA、 MS、臨床看護スペシャリスト)
ジョン・スピネッタ (医学博士)
フェイス・H・カン (医師)
訳者 (共訳)
佐治弓子
佐治博夫 [email protected]

おことわり(免責条項)
1.なるべく言葉や意味を正確に翻訳することを心がけていますが、内容については保証するものではありません。海外と日本では治療法や使用される薬が異なるばかりで はなく、社会的環境も異なります。あなたの主治医と話し合ったり、各種団体の相談窓口を利用するなどして、ご自身あるいはご家族に対してここにあげた情報がどのように適用できるかご判断ください。
2.原典の各発行元には、日本語への翻訳に関して了解を得ていますが、各発行元が日本語に翻訳された情報の保証をするものではありません。
3.訳者、編集者、監修者などはこの翻訳内容と、それによって引き起こされたことに対して、いかなる責任も負いません。

あなたの質問に答える

  この小冊子は、化学療法とその副作用について、白血病やその関連疾患の患者さんとその家族から、最もよくでる質問に答えるものです。幸いなことに、白血病やリンパ腫や多発性骨髄腫に対する化学療法剤は進歩し、化学療法の副作用の理解と解明も進みました。今や化学療法の副作用を克服する数々の方法があり、多くの不快感から患者を解放しつつあります。
 化学療法への最初のステップはコミュニケーションです。あなたの考えや気持ちを主治医やナースに伝えることが重要です。あなたの不快感はどんなことでもためらわずに、あなたを助けるよう訓練された人たちに言ってください。
 第2のステップは情報です。この小冊子を良く読み、化学療法とその副作用を学びましょう。ここに書かれていないことで疑問に思う点があれば、あなたを助けるよう訓練された人たちに訊ねてください。

化学療法のすべて

 約10万人-。これが毎年アメリカ人で、白血病、リンパ腫、ホジキン病、骨髄腫-リンパ腫、多発性骨髄腫、ホジキン病および骨髄異形成症候群(MDS)を発症している患者の人数です。この数は毎年増加していきますが、幸いなことに、寛解率や生存率も上昇していくことでしょう。白血病やリンパ腫はガンの中でももっとも救命できるタイプのひとつになっています。多くの患者が治癒可能です。  今日の治療法には、放射線療法と、外科療法と化学療法があります。白血病やリンパ腫患者の治療法や救命率の著しい向上は、主としてこの20年の化学療法の進歩に負うところが大きいのです。化学療法が白血病やそれに類する疾患に闘うしくみがわかれば、その副作用がどのようにして起こるかを理解しやすくなるでしょう。この小冊子は化学療法について詳しく説明するだけでなく、副作用やそれに対処する方法についてもお話したいと思います。  化学療法剤の数は1950年代に使われはじめてこのかた、飛躍的に増えています。今日では30剤以上があり、単独に使われたり、あるいは抗ガン作用が最大になるよう2剤以上を組み合わせて使われています。白血病やそれに類する疾患に用いられる一般的な化学療法剤とその副作用についてはこの小冊子の最後に記載します。

化学療法ってなに?

 化学療法は抗ガン活性のある薬物あるいは化学物質を用いて治療です。化学療法剤がときには「抗ガン剤」と呼ばれるゆえんです。  すべては正常細胞とガン細胞との闘いから始まります。正常で健康な細胞は一定の様式で分裂し増殖します。分裂すると細胞の複製ができます。一方、ガン細胞は制御不可能な増殖をします。まったく様式はありません。正常細胞と接触するとガン細胞が打ち勝ち、何回もくりかえして増殖します。このようにして、体はガン細胞に侵されていきます。化学療法は薬でガン細胞を破壊するものです。

化学療法はどう働く?

 化学療法剤はガン細胞が成長し増殖するのを妨害します。化学療法剤は細胞に対して増殖抑制的に働くのですが、その機序(仕組み)はいろいろです。ある特定の化学療法剤はある一定の範囲の種のガンにしか効果がないので、病的細胞のタイプを識別することが重要です。たとえば、急性骨髄性白血球(AML)の治療にはある化学療法剤が用いられますが、それは急性リンパ性白血病やホジキン病の化学療法剤とは異なるものです。さらに同じ病気でも、患者によって、医師がもっとも効果的と考える化学療法剤が用いられますのでそれぞれに違うことがあります。  残念ながら、化学療法剤はガン細胞を破壊するだけでなく正常な細胞にも影響を与えます。ある患者は化学療法剤を「良い細胞も悪い細胞も殺す毒物」と表現しました。もっとも影響を受けやすい細胞は増殖能力の高い細胞で、毛嚢(毛包)細胞、胃と腸管(GI)細胞、生殖細胞、骨髄細胞などです。その結果、脱毛、口内炎、嚥下困難、吐き気、嘔吐、便秘、下痢、感染、貧血、出血傾向などが副作用として現れます。精子数の減少や無月経なども副作用として出ることがあります。これらの副作用の詳細はこの冊子の後の方で述べます。

化学療法剤はどのように投与されるか?

 化学療法剤にはいろいろな投与方法があります。主な4つの投与法は静脈注射、内服、筋肉注射、経髄液投与です。投与法は薬物の効果と診断疾患によってかわります。静脈注射(IV)は静脈血管へ直接に薬物を投与するもっとも一般的な方法です。小さなプラスティック針が前腕の静脈に挿入されます。針を血管内に挿入するために、刺針のときにはやや不快感がともないますが、そのあとの薬剤の注入のときはほとんど痛みはありません 。

*化学療法剤はプラスチックバッグから針やカテーテルを通して血流に流れ込みます。注射筒が用いられるときもあります。
*薬剤注入時に痛みがあればただちに医師、看護婦に伝える必要があります。皮膚が壊死におちいる危険があります。  内服は、錠剤(ピル)、カプセル、液剤が経口で投与されます。もっとも簡単で簡便な方法ですから在宅でもできます。  筋肉内注射は、文字どおり筋肉内への注射です。腕、太股、臀部へ刺針しますのでぴりっとした痛みがありますが、数秒で終わります。ある種の白血病は神経系に広がる傾向があります。これを防止するため、腰椎穿刺をして化学療法剤を脳脊髄液内に注入して病的な細胞を破壊しようとします。これが髄腔内投与(intrathecal)とよばれる投与法です。

長期(パーマネント)カテーテルと一時的カテーテル

 患者によっては静脈が細かったり、(穿刺に適する)静脈がほとんどなかったりしますので、静脈穿刺が困難なことがあります。何度も静脈穿刺が必要なときや静脈が細すぎるときは長期(パーマネント)IVカテーテルを留置するよう医師はすすめるでしょう。長期カテーテルは患者が在宅でも静脈穿刺の必要なく経静脈化学療法を可能にします。長期カテーテルは化学療法や輸液だけでなく、痛みを伴う刺針をしないで輸血や採血もできるようにします。

 このようなカテーテルは数カ月ないし数年間静脈に留置できるので「パーマネント」と呼ばれます。一般に「トンネルカテーテル」とも呼ばれます。ゴムチューブが頚部と肩の中間から、胸部か腹壁の切開部に向けて皮膚組織をトンネルのように潜って留置されるからです。全身あるいは局所麻酔下の外科的な処置が必要です。  入り口部には傷口の治癒を早めるため縫合と包帯がほどこされます。カテーテルの出口はよく見えるようにしてあり、感染防止のための週3回のドレッシング交換のときに処置しやすいようにしてあります。カテーテルは血液が凝固しないように薬液で洗浄しなければなりません。患者さんとその家族たちは入院中にカテーテルの管理法を学びます。  もう一つのパーマネントカテーテルは中心静脈に留置され、インプラント(植込み)ポートとして知られているものです。首と肩あたりの胸壁の皮膚から外科的に挿入された丸い形のものです。ナースは針を静脈に向けて刺し込みます。化学療法剤は腕の静脈穿刺と同じようにカテーテルから投与されます。トンネルカテーテルの場合と同様に輸血と採血もできます。(トンネルカテーテルに必要な)在宅の管理は不要です。

一時的カテーテル

 化学療法剤の投与のために一時的に用いられる投与装置があります、これはトンネルカテーテルと同じようなものですが退院時には撤去されます。これは多管腔カテーテルと呼ばれ、1本のカテーテルに通常3本のIVラインがついています。挿入は穿刺部位の局所麻酔下に病室で行われます。入り口は首の近くに位置し包帯でカバーされます。退院時にはこれを取り去ります。  脳脊髄液内投与はオマヤリザーバー(Omaya reservoir)と呼ばれる器具から行なうこともできます。頭蓋骨下に設置されたこの装置から脳脊髄髄液中に直接化学療法剤が注入されます。脊髄(腰椎)穿刺することなく、この装置から化学療法剤が注入できるわけです。

あなたのこと

 「どうして、わたしが?」というのが患者さんの一般的な反応です。これはガンの診断を下され、治療の必要性を告げられた患者さんのごく自然な反応でしょう。この時点ではいろいろな感情が表に出てきます。化学療法の必要性と、それによって患者さんの生活が変わると知ることが、さまざまな感情をよびさますことがあります。恐れ、不安、抑鬱などは白血病とその類縁疾患の患者さんに普通に見られる感情の一部です。  家族や友人の支援は、患者さんの将来に横たわる難局を切り抜けるのに役に立つでしょう。医師やナースたちは、友人や家族が化学療法を受ける患者さんに付き添うことを勧めています。最初の化学療法の際には特に。フレンドリーで家族的なその人たちの存在は不安をやわらげ、患者の代わりに質問をし、その答えや治療の情報を聞いたり記憶したりするバックアップの役割をするような代弁者ともなるでしょう。 患者はいろいろなタイプの白血病と診断されますが、化学療法を受けるという共通点があります。通院、入院を問わず、治療を通じて患者さん同士が親交を深めるようになることが良くありますが、そうした交流自体がひとつのサポートシステムであると考えてよいでしょう。

化学療法は体とライフスタイルにどんな影響を与えるか?

 ガンの患者さんにはライフスタイルの変化が起こるものです。通院患者であろうと入院患者であろうと、今までなかったものが体内に根づいてしまうのです。それは白血病や類縁疾患という診断が頭を離れない、ということもあります。日常生活は治療スケジュールに応じて調整されなければならないでしょう。けれどもたいていの人は、それほどの変化なしに日々の生活を送る事ができます。  ガンの診断を受けたということからくるストレスは、他の多くの病気の場合と同じように、患者さんに自己評価や、アイデンティティー、外観などへの不安感を抱かせるでしょう。加えて化学療法の副作用は容姿に自信をなくさせるかもしれません。このような感情はごく普通のもので、性的関係も含めて、人との関わり方に微妙な影響を及ぼします。けれども、こうした感情の揺れはあたりまえのことで、化学療法の副作用は一時的なものだと理解することが、いずれは自信の回復につながるはずです。恐怖や懸念をオープンにありのままに伝えることがここでは大いに役立ちます。  体調の変化の多くは化学療法の副作用に関連しています。副作用の表われ方は化学療法の種類によって違いますし、その重症度も人によって違います。たとえ同じ人でも化学療法剤が投与される時期によっても違います。医師やナースたちはともに化学療法の苦痛を最小限にとどめようと努力します。治療中になにか質問や疑念があるときは、医師やナースたちがその答えが得られるよう配慮してくれるでしょう。

あなたと化学療法

 化学療法の目標はガン細胞の破壊です。患者が化学療法を続行するかどうかを決めるには効果(ベネフィット)対危険性(リスク)の評価判断が含まれます。化学療法の効果がそれを全く受けないことの危険性と比較検討されます。治療の効果には不快なものもありえますが、それは癌を破壊する化学療法剤の効果に対比して判断されなければなりません。ほとんどの副作用は一時的で、一旦化学療法が終わればおさまります。日に日に新しい健康な細胞が新生し増殖していきます。
 以下の副作用の解説は「頭のてっ辺からつま先まで」わかるように並べられています。それぞれの章には(体の部位)特有の副作用をうまく切り抜けるためのヒントの数々が述べられています。必ずしもすべての患者がこのような副作用を経験するものではないということを、予め知っておいてください。

・脱毛とは?
 脱毛(alopecia:脱毛症)は化学療法のきびしい一面です。この副作用は男性にしろ女性にしろ大きな悩みの種になります。脱毛についてもっともよく出る質問は「抜けるだろうか?」「いつはじまる?」そして「いつ元に戻る?」です。答えはいつも明確というわけにはいきません。  脱毛は薬剤よって起こることも起こらないこともあります。すべての薬剤が脱毛の原因になるわけではありません。毛嚢は分裂の早い細胞で構成されています。ある種の化学療法剤はこのような細胞を壊す作用も持っており、脱毛の原因となります。脱毛は頭、胸、腕、足と下腹部に起こります。  脱毛は数日でおさまる場合から数週間にわたることもあります。一夜にして脱毛する感じる人が多いようですが、最初は少しづつはじまり、抜け毛がバスタブや枕カバーに見られ、だんだん多くなっていきます。しかしながら、脱毛はふつう一時的なものです。健常細胞が増殖しはじめると毛髪も生えてきます。あたらしい毛髪が今までと違うことがあっても驚かないでください。毛髪のきめ、色調やかたちが違うかもしれません。これはよく起こることですが、たいていの人はさしたる困難もなく順応できます。 脱毛を防止することはできませんが、一時的にその事態に対処する方法があります。

- 脱毛の最中は、多くの人が布製のキャップ、バンダナ、かつら、ヘアピースを付けるといいと言っています。脱毛が始まる前にかつらやヘアピースを購入する患者さんがいます。そうすることで、(髪の)色調やきめがもとの髪に近いものを選ぶことができます。
- マイルドなシャンプーとコンディショナーを使い、保湿に留意しましょう。シャンプーのし過ぎは(頭皮の)乾燥を進めるので避けます。週に2、3回の洗髪が適当でしょう。
- ヘアドライヤー、カーリングこての使用や、ヘヤダイ、パーマ液、ハイライトなど化学物質の使用を制限して、毛胞の損傷を避けましょう。髪のもつれを少なくするために睡眠時は絹の枕カバーを使いましょう。

・口腔や喉の障害にどう対処する?
 消化管(胃腸)系は口からはじまります。この領域は早い速度で増殖する細胞で構成されているため、化学療法で破壊されて障害を生じます。化学療法は過敏症状を起こさせ、口内炎を惹き起こします。喉(のど)の痛みがひどくなり、嚥下障害や嚥下困難といった状況になることもあります。
 口腔の衛生管理に努め、それらしい兆候や症状を早期に把握することにより、こうした不快症状をもっと軽くすることができるでしょう。予防は口腔の適切な衛生管理から始まります。日ごろの注意深い観察が第一段階です。口の中を毎日注意深く、変化があるかないか観ることから始めましょう。義歯は必ず外して観察しましょう。これによって隠された炎症が化膿してしまうことがありますから。
 歯磨きは柔らかい豚毛の歯ブラシを使いましょう、食後や就寝前のうがいはアルコールの入っていないうがい剤を用います。義歯はぴったり合っているか確かめましょう、もし緩かったりきっちりし過ぎていると障害のもとになります。口を清浄するときは義歯を外し、痛みがあるときは着けないようにしましょう。
 口腔衛生から食餌療法に至るまで、生活の知恵ともいえる手だてはいろいろとあります。つぎに、不快な副作用を切り抜けるのに役立ついくつかの方法を挙げておきます。

- 口の乾燥による痛みや不快感を軽減するには、口の粘膜を常に湿らせることです。苦痛を和らげるために、かためのキャンディや氷を口に含むのもよいでしょう。
- オレンジとかグレープフルーツ・ジュースのような酸味の強い食べ物やドリンクは避け、かわりにアップルジュースやネクターがいいでしょう。発泡性の炭酸飲料は歯茎の痛みをもたらします。
- スパイシーな食べ物、パスタのソース、タコス、チリなどは避けましょう。ソフトで刺激のないものが良いでしょう。
- 食べ物の温度は室温かそれよりやや冷たい程度にしておきましょう。熱すぎたり冷たすぎる食べ物は不快感を増すことになります。スープ、マッシュドポテト、麺類、フルーツゼリーなどを室温で食べるのも良い方法でしょう。
 もし口や喉が赤くなったら、必ず主治医やナースに見てもらいましょう。もし白斑(カンディダ斑)が認められたら、主治医に告げることにより適切な治療が受けられ、口や喉に痛みがある場合も、主治医の治療を受けることにより、症状をやわらげることができるでしょう。充分な栄養を摂ることが治療には大切です。日常の食事は適度の蛋白質とカロリーの摂取に心掛けましょう。
 最善の治療策は、まず患者であるあなた自身が日常的に口内を観察して、異常をできるだけ早く見つけることから始まります。

・吐き気や嘔吐が起こるでしょうか
 多くの人が化学療法といえばともに吐き気や嘔吐を連想します。けれども、こうした不快な副作用を必ずしも起こさせるわけではない化学療法剤がいろいろあるのです。

 もし、吐き気や嘔吐が起こったら、医師やナースはこの不快な副作用を和らげるために、最近開発された良く効く薬をつかうでしょう。吐き気や嘔吐は薬とその用量に応じて起こり、また患者によっても起こり方がちがいます。もしだれか他の人が化学療法を受け、非常に不快な副作用を経験したとしても、あなたにもそれがそのまま起こると思い込まないで下さい。吐き気を普通より感じやすい人もいますし、化学療法になかなか慣れない人もいます。副作用は人によって異なるということをよく覚えておいて下さい。
 化学療法を受けていると食物の好みが変わることがあります。好物だったものが突然まずく感じたりするのです。このような変化は「食物嫌悪」として知られ、化学療法を受けている患者さんにはごく普通に起こることなのです。ですから、おいしそうに思えるものがあれば、それをその日の主食にしましょう。回数を分けて少しづつ、あるいは食事の間隔を変えてカロリーの摂取に努めるのもひとつの手でしょう。
 吐き気や嘔吐と闘うため、多くの化学療法患者は、病院であろうと家庭であろうと、化学療法が始まる1時間から12時間前に、具が入らずサラッとした流動食を準備しておきます。たとえばアップルジュース、お茶、フルーツゼリー、チキンスープなどが良いでしょう。次のようなヒントもあります。
・クラッカーやドライトーストなどの刺激がないものを食べましょう。
・ 満腹を避けるために、少しづつ何回にも分けて食べましょう。
・ 室温かそれよりやや冷たいものを食べましょう。屋内は新鮮な空気で満たし、悪臭や調理臭がこもらないようにしましょう。悪臭がなくなるまで充分に換気しましょう。
・ リラックスや気晴らしのテクニックを練習しておきましょう。読書やお気に入りのテレビ番組を見るのもいいでしょう。リラックスできる雰囲気をつくるためにいろいろやってみましょう。

便秘にどう対処する?

 化学療法には便秘という副作用もあります。はじめから便秘がある人は、化学療法によって余計に便秘がひどくなるでしょう。高齢の患者さんや食物繊維の摂取が少ない患者さんも同じく便秘になりやすいようです。
 しかし、他の副作用と同様に、化学療法を受けても便秘になる人もあれば、ならない人もあります。便秘にならないよう日々の生活習慣に気をつけることが第一です。 ・ 水分を多めにとること。少なくとも一日にコップ8杯は水分を摂りましょう。腸からの水分吸収を増やして便を柔らかくします。
・ 脂肪分の少ない、繊維質の多い食事を心掛けましょう。脂身のすくない牛肉、バターを抑えたクッキー、お菓子、カッテージチーズ、低脂肪の肉製品、鶏肉、魚、全粒粉シリアル、小麦パン、野菜など。
・ 毎日歩くなどして運動を取り入れると便秘の改善によいでしょう。
・ お通じの薬が必要なときには、便を柔らかくする薬や下剤を出してもらうように医師に頼みましょう。
・ 痔にならないように、無理に(固いまま)便をしないようにしましょう。
 化学療法を受けている方は、排便に気をつけて、早めに対処することで、便秘を少しでも防げます。

下痢をしたときは?

 下痢もまた、化学療法による副作用です。消化管内の分裂の盛んな正常細胞が抗がん剤で壊されるために起きるもので、下痢の程度は個人差がありますが、早めに気づけば適切な処置ができます。激しい腹痛や膨満感、軟便などの症状が出たときは医師やナースに知らせてください。
・下痢によって失われた水分を補給するために、一日にコップ8〜12杯ぶんの水分を摂るようにしてください。下痢によって、急速に過度の体液を損失したり、脱水状態になると、容体が深刻になることもありますので、水分を十分に摂り、いつも気をつけていましょう。
・飲み物は、透明のものがよいようです。腸に負担をかけず、刺激をあたえません。りんごジュース、ジンジャーエール、お茶、スープ、フルーツゼリーなどがよいでしょう。*腸を休ませるために、消化されにくい乳製品やキャベツ、ブロッコリ、カリフラワー、トウモロコシ、その他香辛料の効いた食品などは避けた方がよいでしょう。
*スポーツドリンクも下痢のときには最適の飲み物です。

・正常なカリウム量を維持するためにバナナ、ジャガイモ、肉類を食べてください。カリウムは筋肉が正常に機能するために必要なのです。もしも、動悸*や足がつるなどの低カリウム摂取による徴候がでたら、すぐに医師を呼んでください。
*胸(心臓のあたり)がドキッとして変な感じがする自覚症状が出ます。
・肛門のまわりを清潔にし、皮膚刺激を防ぐよう潤いをもたせてください。排便のたびに坐浴をして、クリームをぬるとよいでしょう。必要ならば、医師がクリーム剤を処方してくれます。
・自分の排便に気を付け、血がついていたり、一日に3回以上排便がある時は医師に知らせてください。

皮膚にはどんな症状がでてくるのか?

 乾燥肌になる人、発赤する人から、吹き出物ができる人までいろいろです。治療の間にでる症状も、済んでからでる症状もあります。すべての化学療法剤が皮膚に反応を起こすわけではありませんが、何か変わったことに気づいたら医師に知らせてください。ほとんどの患者さんにあらわれるのは日焼けしやすいことで、曇天でも焼けます。外出の際には露出部分には日焼け止めを塗ることが大事です。日焼け用のベッドを使うのはやめましょう。モイスチャー(保湿)クリームを使って皮膚に潤いを与えるとよいでしょう。

化学療法が骨髄に及ぼす影響は?

 骨髄は体の中でとても大切な生産工場として働いています。骨髄は赤血球、白血球、血小板が作られる場所で、成長の早い細胞がある部位のひとつです。骨髄は骨の中心にあり、とくに、頭蓋骨、胸骨、肋骨、背骨、骨盤に多くあります。これらの部位は血球が成熟して、その大切な機能が果たせるようになるまでの保存場所です。
 化学療法は、骨髄にある分裂増殖の速い細胞に作用します。化学療法が始まると、赤血球、白血球、血小板などの生産機能が阻害されます。
 化学療法の期間中に、最下点(nadir)という言葉が使われます。体の中の血球数が最低数にある点を意味します。これは化学療法に使われる薬の種類によって、いつごろになるか予想がつきます。たとえばある薬では7日から14日間後に、最下点がきます。つまり、化学療法が始まって7日から14日までは、白血球、赤血球、血小板が最低数にあるということです。この期間が済めば、血球数はまた正常値に近づいていくでしょう。

どうして感染症にかかりやすいのか?

 白血球は身体を感染から守ります。化学療法剤は、白血病細胞と同時に健康な、感染と闘ってくれる白血球も壊してしまうので、感染への抵抗力が低下してしまうのです。
 主治医は何度も血球を計数して、白血球を詳しく検査します。数が正常範囲以下になった状態を、好中球減少症(neutropenia)といいます。この時に感染の危険性が最大になります。以下にあげたことが感染を防いだり、早期発見に役立つでしょう。
・手をよく洗うことは感染を防ぐための第一ステップです。まず石鹸とぬるま湯で洗ってください。よく泡立てて、こすりあわせてください。手と手を重ねて前後によくこするときれいに洗えます。爪床や指の間もきれいに洗います。
白血球数が少ない時には小さな切り傷や打ち傷がばい菌の温床となり感染のきっかけとなりやすいので、けがをしないようにしてください。もし、切り傷、すり傷をしてしまったら、そこを石鹸と水できれいに洗ってください。傷が深くなければ、オキシドールで消毒し、無菌包帯で覆っておきましょう。詳しくは主治医に聞いてください。
 体温計を使って、毎日同じ時刻に体温を測りましょう。感染症の始まりにはある徴候がみられます。それは、100°F(37.8℃)以上の発熱、悪寒、咳、痰、のどの痛み、一日に3回以上の軟便、排尿時の痛みや灼熱感などの徴候があれば、医師や救急室に知らせてください。白血球数が少ない患者さんに感染がおこった場合は、一般的には入院して、抗生物質で治療します。

他の血球は化学療法でどう影響されるのか

 赤血球は体の中で酸素を運搬する大切な役目をしています。化学療法は赤血球をこわし、貧血を起こさせたり、赤血球数を低下させます。貧血になると次の様な症状がでます。
・疲労感
・息切れ
・冷え性
・胸痛

 血液検査によってヘモグロビンやヘマトクリット値(血液中に占める血球の容積比)が落ちているのがわかります。貧血は輸血を受けたり、血球数が回復してくると改善されます。
 上のような症状が現れてきたら、医師に知らせたり、救急室に行きましょう。輸血が必要な場合もあります。これは外来扱いで処置されることもあります。最近では家族からの直接献血を申し出る方が多くなっています(訳注:アメリカにおけるAIDS感染危険率の高さがこのような状態をもたらしている一因となっています)。関心のある方は、輸血の可能性に備えて早めに医師と話し合ってください。
*日本では家族からの献血は勧められません。輸血の時には血液に放射線を照射しますが、日本人では家族からの輸血でGVH病がおこりやすいので、輸血の専門家は中止を呼びかけています。また、白血病で骨髄移植が必要になった時に問題が発生する可能性があります。


 赤血球数が少ないときには、十分に休むようにしてください。活動をゆるやかにして、一日にする作業量を制限して下さい。
 血小板はけがをした時に過度に出血するのを防ぐ血液凝固の役割をします。この血小板もまた、化学療法で壊されます。
 血小板数が低下した状態、すなわち血小板減少症(thrombocytopenia)ではまず起きてくるのが、傷口から血が止まらないことです。食事の後や歯磨きのあとに、歯肉から出血する人もあります。ごく一般的な徴候は、点状出血斑という、小さな、針で突ついたような出血が口の中や身体の表面に見られることです。腕や脚にも見られます。ほかには打撲時にあざができやすいことがあげられます。
 鼻血が出たときは、身体を起こした状態で鼻腔を鼻の上から押さえます。必要なら氷で冷やしてください。10分経っても止まらないときは、救急室へ行ってください。出血は、膀胱や直腸にも起きて、血尿や血便となってあらわれます。そのときはただちに医師に連絡してください。
 血小板が少ないときには皮膚にけがをしないようにしてください。つまり、電気かみそりや、爪切りの使用をさけるということです。けがをしたときは、出血しているところを最低10分間は押さえてください。出血が止まらなければ救急へ行きましょう。
 口の中の出血を防ぐため、歯ブラシは毛の柔らかいものをつかいます。血球数が正常範囲になるまでは、デンタルフロスはつかわないでください。
 歯茎への刺激を減らすために入れ歯はきちんとあったものを装着してください。入れ歯をはずしたあとは、アルコール含有量の少ない口内洗浄剤を使ってすすぎ、口の中が乾燥して、出血の機会を増やすことのないようにしましょう。
 血小板が少ないときには便にも出血が見られることがあります。便を柔らかく保ち、無理に(固いまま)排便しないようにすることが大事です。無理に出そうとすると、直腸のあたりの毛細血管が裂けて、痔になることがあります。いきめば、脳の周りの血圧があがり、他の出血の危険性まで高めてしまいます。便を柔らかくして定期的に排便があるように、下剤を使うのもよいでしょう。

化学療法はセックスにどう影響するのか

 性行動、性的関係、生殖機能などに影響を及ぼす身体上の変化も化学療法の結果として表われてきます。女性の患者さんでは、無月経も含めて、月経周期の変化が起きてくることがあります。膣の潤滑液分泌が少なくなるために、性交時に不快感をともなうこともありますが、水溶性の潤滑剤(K‐Yゼリー)(訳注:日本では「リューブゼリー」、発売元:日本家族計画協会、などの製品が薬局薬店で購入できます)を使えば、容易に防げます。男性患者では治療により、精子数が減少することもあります。このような副作用は薬によって差がありますから、主治医やナースにたずねることが大事です。よく、聞かれる質問には次のようなものがあります。

・ 性に影響するどんな身体的変化がおきてくるのですか?
・ 化学療法中、あるいは終了後、性生活について何か制限がありますか?
・ この治療で、子どもができなくなりますか?
・ 性交中の快感を高めるために何かよい提案がありますか?

 こういう個人的な話題を他人に話すのは初めは難しいでしょうが、医療看護の専門家たちとあなたの疑問や感情を話し合うことは、白血病などの病気の治療中も治療後でも、性行為や性的関係について積極的な態度を維持していくのに有益なものとなるでしょう。

白血病協会はどんな研究をしているのか?

 近年の研究と治療の進歩は、白血病協会の医学科学プログラムの研究対象となる多くの悪性疾患が、治癒できるものであり、治癒とまで行かないまでもかなり治療できるものになったということを示しています。最先端の治療法には近い将来には十分治癒に結びつくものもでてくるでしょう。
 白血病や類縁疾患は毎年報告される全悪性疾患罹患数の10%にも満たないものですが、それらの疾患はより広範囲にわたるガン治療の発展に先駆的役割を果たしてきました。研究に最重点を置いてきたことが、数多くの新治療法の発見へとつながったわけです。
 白血病協会がスポンサーになって進めてきた研究によって、一連の臨床的、基礎研究的な面での特徴が明らかになり、それが多くの一般的な白血病患者の予後を考えるうえで役立っています。今日では、医師が個々の患者にあった治療法を組み立てることができるようになり、それとともに治癒の機会が増えただけでなく、患者や家族に今後の病気の経過をより明確に示すことができるようになったのです。
 小児白血病の治療は近年めざましく向上してきました。使用する薬剤の組み合わせを新しく開発できたことで、小児の白血病の生存率はこれまでになく高くなっています。小児での薬物治療がどんどん成功していることが、大人の化学療法においてもよりよい薬の組み合わせの開発をうながしています。
 白血病や他のガン研究における近年の最も著しい進歩は、ガン遺伝子の発見です。医学研究者は、このガン遺伝子がどのようにして治療と予防に応用できるかを考えはじめました。
 ガン遺伝子は人間の発生の段階で重要な役割を果たしている正常な遺伝子です。ガン遺伝子はその後細胞の中で不活性なまま眠っています。それは人間の細胞の中にある46の染色体それぞれにある、約5万個の遺伝子のなかのひとつです。通常はこれが病気を引き起こすことはありませんが、発ガン性物質やウイルスによって活性化されると、細胞の異常な成長を促す引き金となり、その結果ガンが発生することになります。ガン遺伝子が生産するタンパク物質が細胞の成長過程に重要な役割を果たすことから、当協会の研究者たちによって、詳しい研究が進められています。

 当協会の研究者たちが、とりわけ関心をよせているもう一つのテーマは、白血病や類縁疾患に奏効する化学療法剤の遺伝子的根拠です。悪性の細胞が化学療法に耐性をもつという困った性質を有していることが、従来から臨床的にわかっていました。ある種の白血病や悪性の疾患が治療に抵抗力があり、治療に成功した後も再発する傾向があるのはこの性質が根底にあるからなのです。今日では薬物耐性を左右する遺伝学上と生化学上のメカニズムが次第に解明されつつあり、研究者たちは効果的な薬物治療計画の策定方法変更をめざして、薬物耐性に新しい考察を加えています。

 協会がスポンサーになっている研究が、多くの悪性疾患患者の治療法を変え、向上させてきました。ある患者にはそれは治癒を意味しました。またある患者には、治療法が向上して、治癒が視野に入ってきました。治癒が可能ではない場合も、余命と生活の質は大きく改善されました。治療の選択肢は増えつづけています。白血病協会の研究の貢献により、すべての患者の余命の見通しが、より長くより質のよいものになったのです。

化学療法剤のすべて

 以下のページには白血病、リンパ腫、多発性骨髄腫の治療にもっとも一般的に使われる薬剤をリストにしました。各薬剤には投与方法と起こりうる副作用も書かれています。薬剤によってよく使われるものもあれば、そうでないものもあります。化学療法が発見されて以来ずっと使用されてきたものもあれば、近年になって開発されたものもあります。このリストを治療中の参考便覧として、また医療看護専門家から説明を受けるときの手引きとしてお使いください。

(訳注:以下、化学療法剤の説明などは翻訳していません。)
 
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