第8章
下痢
原典: Diarrhea
URL:http://www.collmed.psu.edu/pedsonco/Chapter08.OL.html
訳者: Grandpa Tony@Dinosaur
Eメール:[email protected]
[この家庭でのケアに関する情報はほとんどの状況に当てはまると思われますが、そうではない場合もあります。医師や看護婦がここに書かれていないことを勧めるときは、その指示に従って下さい。緊急事態だと思われる場合は、「専門家の助力を求めるのはいつか」の項に直接進んでください]
問題を理解する
下痢とは、便中の水分が多い状態と定義されます。下痢になると、大腸の運動回数が普段よりも多く、また急を要する感じになります。トイレの躾を受けている最中のお子さんは、下痢だと非常に調子が狂います。さらに、体内の水分を失うことによって疲労感があり、「疲れきった」感じになります。下痢により脱水状態となりますが、これは健康上深刻な問題です。それゆえ、下痢をコントロールすることは気持ち良くすごし、体調を維持するうえで大変重要なことなのです。
あなたの目標は次のとおりです
- 必要が生じたときに専門家の助力を受けるために連絡をする
- 下痢の後に失った水分と栄養素を補給する
- ガンの患者さんに下痢を起こすような食べ物を与えないように心掛ける
- 患者さんが気持ち良く過ごせるようあなたのできることを行う
専門家の助力を求めるのはいつか
次のうちいずれか一つでも当てはまれば、医師か看護婦に連絡してください。
-
- ⇒ひどい下痢がある。
- 下痢に関していつ電話をすればよいのか、医師や看護婦に尋ねてください。ひどい下痢とは、非常に多くの水分を失うことを言います。ひどい下痢のときには、流れるような便が出て、回数も多く、本人はしばしば胃けいれんも訴えます。問題の重要度は多くの要因をもとに判断するべきで、たとえば本人の体重、あるいは以前の水分バランスの状態などが挙げられます。小さなお子さんや最近下痢や嘔吐に悩まされていた人には、たとえ少量でも下痢によって何回も水分を失うことは危険です。このような状況では脱水状態になったり、体調が急速に悪くなるものです。ひどい下痢については早く報告を行ない、脱水状態から回復させるため、あるいは脱水状態になるのを防ぐために水分を与えることが大切です。
⇒下痢が一日一回以上ある
- ⇒便に血の混じった下痢がある
⇒下痢があり、体温が摂氏38.3度以上ある
連絡を行う前に次のことを確認してください
- 普段は1日に何回排便するのか?
- 過去24時間内に何回の排便があったか?
- どの程度の柔らかさであるか?
- 下痢以外の症状はあったか?
- 他の症状についての情報は、医師や看護婦に今回の問題がどの程度深刻であるかを伝えることになります。直腸の感染や脱水症など、他の副作用の危険があります。直腸の感染はバクテリアによるもので、バクテリアは下痢便の酸や刺激物に皮膚が負けると、そこから体内に侵入します。これは、不快で痛みを伴います。
その他の症状の例
- 胃痛
- 胃けいれん
- 鼓腹状態<お腹がいっぱいのように感じる>
- むかつき(胃がむかむかする)
- 嘔吐
- 排尿量の減少
- 過去二日間の水分と食べ物の摂取量は?
- 飲み物や食べ物の摂取量から、排出された水分の量が摂取した水分の量によって補給されたかどうかが医療の専門家は分かります。
脱水状態の処置は重要です。危険な血圧低下や体の化学バランスの不均衡を招くことにもなるからです。時には中心静脈用(IV)の輸液を補給して、失われた水分の均衡をとることも必要となります。IV用の輸液は、下痢によって失われた栄養素であるぶどう糖、カリウム、ナトリウム類も含んでいます。
- 過去2、3日にどのような薬を服用したか?
- 化学療法はいつ受けたか?
- 便軟化剤を服用しているか?
- 抗生物質は?
- 体重は減ったのか?それはどのくらいか?
- 他に何か排便の問題暦があるか?
専門家に電話をかけるときの例を挙げます。
"私はジョアン ・スミスと申します、ハリー・ スミスの母親です。 息子は白血病でアンガー先生のお世話になっております。ホームガイドの下痢の項に、下痢が1日以上続くときには電話でご連絡するようにと書いてありますので、お電話いたしました」
あなたにできることは何か
もしあなたが緊急を要するものではないと判断したなら、この問題を解決するためにできることは、3つあります。下記の順序で考えてみましょう。
- 失った水分と栄養素を速やかに補給する
- ある種の食品を除く
- 快適さを増す
失った水分と栄養素を補給する
大切な水分と塩分が下痢で失われます。これらを補給するのは、とても重要なことです。補給の方法がいくつかあります。
- ⇒澄んだ液体、たとえば、ペディアライト(Pedialyte)、ライスライト(Ricelyte)やゲータレード(Gatorade)を与える。
- チキンブイヨンのスープ、紅茶、炭酸を抜いたジンジャーエールやポプシクル(Popsicle:アイスキャンディバー)などは、電解質(electrolyte)の補給用として少量とらせます。乳児であれば母乳を継続します。チキンブイヨンのスープあるいはジュースのような澄んだ液体を飲むことは、栄養素を補給するだけでなく、同時に腸を休ませることにもなります。澄んだ液体は腸から血流へと容易に吸収され、下痢によって失われた水分を速やかに補給します。ライスライト、ペディアライト、ゲータレードは水分と電解質(塩分)を豊富に含み、体内に容易に吸収されるので、体液のバランスを正しく保ちます。電解質:体液の中でイオンに電離して体内の電流の伝導を可能にし、体液の平衡の主役となる無機化学物の総称)
- ⇒食間に飲み物を与える。
- 食間に飲み物をとることで、一定量の水分とその他の栄養素が体内に入ることになります。また食間に摂取することで、ただれた胃や腸の下部がけいれんしにくくなります。
- ⇒澄んだ液体を24時間補給した後は、繊維分の少ない食べ物、たとえばバナナ、米、アップルソース、マッシュポテト、バターを塗らないトースト、クラッカー、卵、魚や鶏肉などを追加します。
- 繊維分の少ない食べ物は、体の水分を奪って大腸に取りこんだりしないからです。また、繊維分の多い野菜より簡単に消化できます。
- ⇒食事を大きく3回に分けてとらせるよりも、1日かけて量を少なくしてとらせるようにしましょう。
- 量が少ないと消化が容易になるからです。このように量を少なく、回数を多くして食事を与えると、1日3回の食事のときよりも多くの飲み物と食べ物を患者さんがとることができます。
- ⇒あんず、桃のネクター、バナナやマッシュポテトあるいはベークドポテトのようなカリウムの多い食べ物を増やしましょう。
- 下痢のときには、カリウムを失いがちになります。この化学物質は体に欠かすことのできない要素で、補給が必要です。
ある種の食品を避ける
食べ物によっては腸の運動を増すものがあり、非常に速く身体組織から水分を奪い、便に取り込みます。これらの食べ物を避けると、下痢の問題が軽減します。
- ⇒消化管内でガスを発生する食べ物を与えないようにしましょう。
- たとえば、豆類、生野菜、生の果物、ブロッコリー、トウモロコシ、キャベツ、カリフラワー、炭酸飲料やチューインガムなどです。これらの食べ物を与えると、あまり食事が進まないうちにおなかが張り、飲食を止めてしまうからです。ガスが出ることもまた不快感を与えます。チューインガムも避けなければなりません。というのは、チューインガムをかんでいるときに空気を胃の方に飲み込むことがあり、腹部の不快感(膨満)を増すことがあるからです。
- ⇒酸を含む食べ物、たとえばスパイスの効いた食べ物あるいは柑橘系のジュース(オレンジジュースやグレープフルーツジュース)、を与えないようにしましょう。
- これらは胃腸の動きを激しくし、不快感を生み、下痢を生じさせます。
- ⇒脂身の多い肉、脂っこい揚げ物などといった脂肪分を与えないようにしましょう。
- 脂肪分は消化されにくいのです。下痢の場合、脂肪分は消化されずに押し出され、この未消化の脂肪分がさらに下痢を起こさせることにもなります。
- ⇒とくに熱い食べ物や飲み物は冷まして与えましょう。
- 熱い食べ物や飲み物は腸を刺激します。下痢が落ち着くまでは、こういう食べ物は避けてください。
- ⇒カフェインの量、たとえば、コーヒー、濃いお茶、カフェイン入りソーダ、を制限しましょう。
- また、フルーツジュースもあまりとらないようにしましょう。カフェインとフルーツジュースは腸の動きを早めます。下痢の場合にはすでに腸は過剰に動いているので、腸の動きを遅くしなければなりません。
- ⇒牛乳や乳製品で下痢がひどくなっているようなら、それらを与えないようにしましょう。
- 牛乳もまた下痢を悪化させます。下痢が治まり、お子さんが他の食べ物や飲み物をとっても大丈夫になってから、牛乳や乳製品を再開しましょう。
快適さを増す
下腹部は、腸がけいれんする(下痢になります)ことでひどく荒れた状態になりがちです。また、ガンの患者さんは、下痢をすると非常に疲れを感じます。肛門の皮膚<校正註:原語rectal
skin>やストーマ周囲の皮膚はひどくただれるようになります。腹部や皮膚のただれを和らげる方法がいくつかあります。
- ⇒タオルで包んだ湯たんぽを下腹部に当てましょう。
- 胃を暖めることで、胃の緊張感やけいれんから来る痛みと不快感を和らげることができます。しかし、電気座布団は使用しないでください。皮膚は熱に過敏で、患者さんが化学療法や放射線治療を受けている場合にはなおさらです。電気座布団のせいで、皮膚に余計な問題を発生させることになります。
- ⇒排便後は、毎回、肛門部を優しく、とはいえ完全に洗い流しましょう。
- 下痢の後は、ぬるま湯を使って肛門の外部をとりわけ優しく洗い流し、皮膚を乾かして赤みを和らげ、感染を防ぎましょう。(皮膚をあおいで乾かすか、ドライヤーを「クール(ホットはいけません)」にセットして乾かしてください)
- ⇒でん部をぬるま湯につけるようにしましょう。
- たらいか腰湯桶(Sitz bath;治療目的の腰湯、座浴用のたらい)を使いましょう。腰湯桶は、大抵の薬局か医療用具店で買うことができます<校正註:アメリカでの話?日本でも買うことができますか?できないなら、その旨を注記したほうがよいのでは?>腰湯桶はプラスチックのボウルです。桶を便座の上に置き、患者さんを桶に座らせ、ぬるま湯を上から流し込むと、あふれて便器に落ちるという仕組みです。ぬるま湯を張ったたらいに座るのも実用的な方法です。
- ⇒Tucksなどの炎症を静めるクリーム、軟膏、収れん薬のパッドを肛門部<rectal
area>に塗布します。
- クリームは、乳児のおむつかぶれやあかぎれを予防するように、肛門部の皮膚のひび割れも予防します。ヌッパーカイナール(Nupercainal)、A&Dあるいはワセリンも試してみましょう。収れん薬のパッドは、患部の乾燥を防ぎ、炎症を和らげます。
- ⇒デジチン(Desitin)、バルメックス(Balmex)、クリティケイド(Criticaid)などの保護クリームで肛門部の皮膚を保護しましょう。
- 下痢が続いて、肛門付近が非常にただれ、発赤したら(あるいは赤みと傷を防ぐため)デジチン、バルメックス、クリティケイドなどの軟膏を塗布し、皮膚を被いましょう。このような軟膏は皮膚を保護膜で被うので、便の水分で皮膚がひりひりしにくくなります。これらの軟膏は排便ごとに徹底的に拭き取り、塗りなおさなければなりません。
考えられる問題点
計画を実行し、下痢のコントロールまたは下痢の予防というあなたの目標の達成を妨げる考えや態度には、どのようなものがあるのか考えてみましょう。
たとえば、次のような障害に直面した方がいらっしゃいます。
- 「この子はこの数日間何も食べたり、飲んだりしていないので下痢はそう長くは続かないはずだ」
- 回答:あなたが考える以上に、体は水分を排出しつづけることができます。
患者さんが飲食を止めたとしても、水分は身体組織から排出され、下痢は続きます。どうせまたすぐに流し出されると患者さんが考えているとしても、失われた水分を補うことがもっとも重要なのです。
あなたの計画を実行し調整する
・ 結果の点検
下痢の回数と重症度には注意が必要です。あなたは、患者さんの下痢がいつ始まろうとあなた自身で止めてやることができますか?肛門周辺やストーマ周辺の皮膚の治療や保護を励行していますか?下痢を予防するための、飲み物や食べ物の注意を守っていますか?
・計画がうまくゆかないとき
下痢がさらに悪くなり、ガンの患者さんの疲労がひどくなってきたら、「専門家の助力を求めるのはいつか」の項を見てください。電話をするときには、医師や看護婦に下痢を良くするために何を行ったかを話し、他に何をしなければならないかを話し合ってください。もし、医師や看護婦と話し合う必要がないと考えるのであれば、皮膚をただれから守るため、また、脱水状態の予防を目的として患者さんに水分の補充を奨めるためにできる限りのことをすべて行ったか、自問自答してください。下痢が続くようであれば、医師や看護婦の助けを求めることです。今まであなたが何を行ったか、その結果がどうであるかを話すことです。
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