6 「戦略会議」
◇中期展望求めて先生と話す◇ |
「やはり移植チームとしては、この場合には移植が適応と考えるようだわ。しかも最近の研究では移植前のキモ(キモセラピー=化学療法)は少ないほどよいことが分かってきたらしい。できれば、2回目のキモのあとに骨髄バンクのドナーから移植をした方がよい。それがスローンの移植チームの推薦です。いくらでも相談に乗ります。良く考えて自分たちで決めて下さい。移植しないと決めても結構です。ちゃんと私が責任をもって見続けますから」。 そうだとしたら、1カ月か1カ月半で移植ということになるではないか。「ちょっと話が違う」。それならそうと早く言ってほしかった。4回コースの強力化学療法に参加し、姉の骨髄の型も一致しなかったので(兄弟がドナーになれる場合はすぐ移植とは聞いていた)、当面、骨髄移植を考えなくてもよいのは気が楽だと思っていたのに。 しかし、先生は同じことを繰り返すのみである。医者は完璧ではない。白血病でもいろんな分類と悪性度がある、かつ最新の成果を勘案して病院の標準治療方針も定期的に見直しされる。各々の医師があらゆる種類の病気をすべてを把握しているわけでは決してない。とにかくぐずぐずせずにドナー検索を急ぎ、決断も早くしなければならない。これからはお医者さんと話をする頻度を高め、密度を濃くし、問題点をしっかり詰めなければ、と肝に銘じた。一方で今日面会して良かったとも思った。こっちから切り出さなければ、さらに1、2週間こうした話題にならなかったかも知れないのだ。 骨髄移植の選択は命を賭けた選択である。移植をすると生死の結論が急に出る。3カ月以内に移植からの直接の原因で致命的になる可能性が2、3割ほどある。化学療法だけで治るかも知れないのに、そんなリスクを取るのは恐い。 化学療法だけで治癒する率が4割あるとする。移植の副作用からの致命率が3割だとする。移植を選択した患者のうち、1割(4割×3割)は、すでに化学療法で治癒していたのに、移植したばっかりにみすみす命を失うことになる。自分だけは化学療法だけで治ってしまうのではないか、という自分中心の気持ちもある。しかし確率論だけからいうと、移植の方が生存率が高くなるかも知れない。 「あと1年確実に生きていたい、そのうちにやり遂げることがあると思うなら化学療法。でも全体の治癒率は少し損をする。死ぬリスクはあるが、長期間に渡って生存できる可能性を最大にしたいなら移植。人生観の選択です」。そういう先生もいた。 移植に踏み切るべきか、このまま様子をみるべきか、それが問題だ−−。まさにハムレット的心境である。 自分で考えていても分からない。とにかくスローン・ケッタリングの知り合いのお医者さんに片っ端から意見をきくことにした。 | |
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7 「食い違う意見」
◇移植か化学療法か。多い選択肢◇
選択肢によって統計的な治癒率にけっこう差があることもある。どれを選んでも治癒率が似たようなものである場合もあるが、個別の患者にとってはどちらかだけが生還への道かも知れない。患者によって向き・不向きがあるかも知れない。やはり運命の選択になりかねない。 妻の場合、もし遺伝子分析が良性ならば化学療法の継続ということで、簡単に結論が出た。姉の骨髄の型が一致していれば、骨髄移植でほぼすんなり決まった。しかし、ちょうど微妙な判断になるケースだった。 もちろんスローン・ケッタリングは医局会議で各患者についての治療方針を合議制で確認する。主治医の独断では決定できない。だが、最終的には主治医に決定権がある。合意が成立しても、各医師の内心の意見が異なるということはある。同じ病院の中で、お医者さんの意見が分かれるというのは、患者にとっては混乱することでもある。だが、このケースでは誰が考えても微妙な問題であるから、意見が割れるのが自然だ。米国の病院でも普通は、主治医以外は治療方針へのコメントを避けるだろう。それを自由に披露するところがニューヨーク流である。 後になって別の意見があることを知るよりはよほどいい。移植を決断して後に引けなくなって、化学療法を支持する新しい情報を得たり、移植を考慮していなくて急に移植したいと思っても間に合わない。あり得る意見はすべて知っておいた方がよい。 ◇自分の専門をひいきする医師たち◇ 主治医の意見と対極だったのはワイス先生の考えであった。ワイス先生はもっとも年輩の医師である。「散髪屋に行って、散髪した方がいいかと聞いてごらん。散髪を薦めるのは決まっているさ」とウインクしてみせた。移植専門医は移植の肩をもち、化学療法の専門家は化学療法の利点を強調するというのだ。 「遺伝子分析から悪性度を判定するのは、まだ確立した手法ではない。悪性と分類されても、悪性でないかも知れない。 |
再発した場合も、非血縁からの同種骨髄移植は失敗リスクが高いから、自家骨髄移植が良いと思う。自家骨髄移植のチーフにも会って話を聞きなさい。これ以上は僕に意見を求めないで。病院内の立場もあるからね」 バーマン先生の研究室にも行った。同先生は、週刊誌「ニューヨーク」のニューヨークの名医リストに、スローン・ケッタリングの血液専門医から唯一選出された、若手だが俊英の女医さんである。学会での知名度も高く、米国で強力化学療法専門家のトップ集団を走る。スローン・ケッタリングの化学療法のほとんどのプロトコル(治療計画書)を主任として策定している。臨床にも強い。 もともとTが参加したプロトコルは、化学療法だけで60〜70%の治癒率を目指すはずのもの。伝統的化学療法の25%程度に比べて、高いところを狙っている。しかし、バーマン先生は「良性のものは高い治癒率が望めるが、悪性分類なら旧来のものと同じ程度の20%ぐらいしか見込めない」という。どちらかを薦めるということはなく、「微妙なところなので、よく考えて選択して下さい」ということだった。若手のジュルシック先生は、「数字はともかく、最初から大きな賭(移植)をするのはどうかと思うよ」と感想をもらした。 移植すべきかどうか。世界1の骨髄移植センターであるシアトルのフレッド・ハッチンソンの意見を聞きたいと思った。 主治医のガブリラブ先生は「セカンド・オピニオンを取ったらどうですか」と薦めてくれた。セカンド・オピニオンとは、他の病院にカルテを持参して、治療方針について意見を聞くこと(第2章の6項で詳述)。そして、フレッド・ハッチンソンがん研究所のアッペルバウム先生の連絡先を教えてくれた。アッペルバウム先生はハッチンソンの病院長である。正式なセカンド・オピニオンを取る前に、まず意見を聞く手紙を送った。返事は「もっと詳しいことをお尋ねして詳細な分析が必要ですが、あなたが手紙で説明された情報からは移植が適応だと思われます。もっと詳しい情報を送って下さってもけっこうです。追加質問はご遠慮なく」。 もうひとつ、本当に悪性に分類して良いのかという疑問が残った。峯石先生が、この分析について世界1の権威である女医のブルームフィールド先生の名前を教えてくれた。同先生が所属するニューヨーク州立大学付属ローズウエルがん研究所は、治療としては化学療法が中心だ。だから意見に骨髄移植へのバイアスがかかってないはずだという意味もあった。 ブルームフィールド先生に意見をきくためにファックスを送った。出張中の本人に代わって、部下のカリジルーイ先生(免疫療法の権威)がすぐに電話をかけてきてくれた。「われわれはこれを悪性に分類します。移植が適応だと思いますね」。 どうやら移植を真剣に考えた方が良さそうな雲行きになってきた。だが、仮に移植すると言っても、どこでどの方式でやるかという検討がまだ残っている。日本か米国か、ニューヨークかシアトルか、「Tセル除去方式」か旧来方式かという問題である。 | |||||||||||
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8 「フレッド・ハッチンソン病院のセカンド・オピニオン」
◇全く異なるシアトルの推薦内容◇ |
ハッチンソン研究所の調査では、「D座を細部まで遺伝子レベルで一致させることが重要であるが、A座とB座は血清学レベルで十分」との結果が出ている。ハッチでは、A座とB座はDNAレベルの検査さえしない。一方、スローンではすべてをDNAレベルで見る。HLAの一致度を語るとき、どの定義にのっとっているのか注意する必要がある。こうして義母の型はスローンでは6分の4であり、ハッチでは6分の5であるという、ヌエのようなことがおこる。 ハッチの判断は「6分の6一致の非血縁ドナーと、血縁の6分の5の好適度は同じぐらい。血縁ドナーはすぐ移植できるから、総合判断としては血縁が有利」というもの。 「それでも、型は違っている・・・」。主治医のガブリラブ先生あてのハッチからのセカンド・オピニオンを読んで、スローンの移植担当医のジャクバウスキ先生はガリレオ・ガリレイのようなセリフを呟いた。血清学的な一致は試験管の中で生物的に反発するかどうかの観点、遺伝子分析は構造が同じかどうかという観点。試験管の中で反発しなくても、体内では反発するかも知れない。構造が違うということはその可能性がある。遺伝子分析の方が厳密ではある。 ◇HLA一致度は相対判断◇ 知らなかったらまだしも、いったん6分の4と聞かされたものを今さら6分の5と言われても心理的に抵抗がある。さいわい、骨髄バンクから6分の6の完全一致のドナーが見つかりそうだったので、そちらの方が良いような気がした。 その頃、新聞に掲載されたひとつの記事が目についた。厚生省の委託を受けた研究班が、日本の骨髄バンク(骨髄移植推進財団)を介して行われたこれまでの骨髄移植を事後分析して得たレポートについてのものである。そこには、「A座とB座のDNAレベルでの型合わせが大切」とあった。DNAレベルで一致していれば、1年後生存率が約6割、血清レベルのみだと4割程度という。一見、ハッチの研究と逆方向の内容に見える。 | |
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この疑問を解かなければ、決断はできないと思った。日本人ではA座、B座が重要だとしたら、A座が不一致の義母より非血縁ドナーの方が良いということになる。この研究班の委員長である笹月健彦先生(九州大学生体防御研究所教授)に国際電話をかけた。 研究室に電話をするとすぐに教授本人が出た。「あのレポートはまだ中間報告であり、もっと詳細に調査する必要があります。個別の患者でどちらが良いかは難しい判断。ハッチの推薦なら間違ってないと思います」。この親切さと率直な謙虚さには感銘を受けた。自分たちの研究を絶対視することはない。そして、またしてもハッチの名前の重さを感じた。ひとつの調査レポートから、個別の患者について判断することは難しい。臨床における判断は、臨床経験からみた総合的見地から行われなければならない、ということか。 (後に笹月教授は親友であるハッチのジョン・ハンセン臨床研究部長を紹介してくれた。ハンセン先生は妻が入院しているときは、ときどき病室にまでお見舞いに来てくれた。笹月教授もハッチに出張した時に病室を訪問してくれた。ちょうど移植の前日だった。移植当日には笹月先生がハッチで行った講演を聴きにいった。妻が再発したあと、ハンセン先生がはじめて明確に「絶望的である」ことを教えてくれた。僕はハンセン先生の前で大泣きしてしまったが、ハンセン先生はそれを優しく受けとめてくれた。ハンセン先生は少し前に自分の妻をガンで亡くしたばかりだ。血液ガンでなく固形がんだったが、最後の望みをかけて骨髄移植を行った。その執念はすごい。ハンセン部長はこの97年1月から米国骨髄バンク=NMDPの理事長を兼務している) ハッチの調査と笹月レポートは一件矛盾する。この解釈についてはいくつかの仮説がなりたつ。 |
遺伝子のタイピング技術はどんどん進歩する。いくらでも詳細に分析できるようになろう。問題は「その患者のおかれた条件の中でどのドナーを選択するか」という判断の論理と基準の方がそれに追いつかないこと。完全一致ドナーが見つからないとき、どの程度の不一致まで許容できるのか。一致ドナーが複数見つかるとき、その中でどのドナーを選択するか。多くの要素が絡み合い、完璧はありえない。誰がどう決めるのだろうか。 笹月レポートの結果、日本の骨髄バンクの運用が変更され、A座、B座をDNAレベルまでタイピングするようになった。この変更の直前には、新基準が実施されるまで患者や医師がドナーの選定をひかえるという現象がみられた。できるだけ精密に型合わせをしたいのが人情である。一方で、時間とのバランスも重要だ。急性白血病の患者で第一寛解(抗ガン剤治療のあと、ガンがみられない状態)時の治癒率が60%で、再発した場合の治癒率が40%だとしたら、時間待ちしている間の再発リスクも織り込んで判断しなければならない。慢性骨髄性白血病の慢性期と急性転化期の移植による治癒率が30ポイント違うとしたら、時間との闘いと知った上での決定になるわけだ。 母をドナーとする妥当性にはだいたい納得が行くようになった。ハッチの推薦に逆らって、非血縁ドナーからの移植をハッチに依頼するほどの強い根拠もなさそうだ。そのとき、驚いたことに、スローンの方が推薦内容を変えてきた。 | |
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9 「移植病院の決定」
◇スローンの心変わり◇ |
Tセル除去ではこの効果が見込めない。また、Tセルが全くないので、患者の免疫力がゼロに近く、感染症罹患率が高くなってしまう。 一方の「従来方式」は、骨髄液を移植してから、免疫抑制剤でTセルの信号系統を混乱させて活動を抑える。さらに、GVHDが出れば抗炎症剤であるステロイドの大量投与で対症療法的に抑えようと試みる。 「Tセル除去方式」は登場時、移植の最大問題であるGVHDを抜本解決し、移植成績を躍進させるブレークスルーになるかと思われたが、その後は意外に停滞している。うらはらに感染症と再発が増え、それをコントロールしきれないからだ。一方、従来方式は、免疫抑制剤とステロイドの使用法の微調整などのカイゼン手法でじわじわ成績を上げている。スローン・ケッタリングは「Tセル除去方式」の総本山。皮肉なことに同手法を採用する他の移植センターでは成績が高いところもあるが、スローン自体は最近は成績が伸び悩んでいる。 スローンの非一貫性、このプロトコルでの経験の少なさ、近年の移植成績の低迷。こうした点から、両病院の比較ではハッチが大きくリードした。 あと必要なのは、日本と米国の比較。また、ニューヨークを離れてハッチがある西海岸ワシントン州のシアトルに移ることが可能かどうか、サポートが十分にできるかなども考慮しておかなければならない。医療の側面からだけみれば、治療の選択の幅、医療技術、入院環境いずれにしても、米国に分がありそうに見えた。これは数人の日本人医師に電話して確かめた。専門医であるほど、フレッド・ハッチンソンやスローン・ケッタリングでの治療に異論を挟む人はいなかった。ある移植専門医は「基本的に、日本はフレッド・ハッチンソンから方法を学んでいるのです。文句はないでしょう」と述べた。 マイナス点は、介護の支援が仰ぎにくいこと。また、治療が失敗した場合、「2度と日本の土を踏めない」という点を指摘する人もいた。しかし、日本に戻って治療に失敗したときの方が、米国に留まるべきだったと後悔するのは間違いない。多少の犠牲は払ってでも、米国を選択すべきだろう。 米国での治療では、日本からの距離と文化・言葉の違いを考慮すると、私が介護の中心にならざるを得ない。骨髄移植の治療中は、仕事がほとんどできないだろう。まして、シアトルを選択すれば、職場を一時的に離れなければならない。勤務先からの支援を取り付けることが不可欠だ。さいわい、会社は理解を示してくれた。 | |
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10 「治癒率をどう読むか」
◇たかが数字。されど数字◇ |
プロトコルは科学的実証のためにある。だが、論文の数字は常に作られる。新しい治療法を試して、あまり改善がなかったと発表してもあまり手柄にならないからだ。医師はできるだけ良い数字を出したい。持病をもっていて脱落した人、途中で骨髄移植に切り替えた人などは、総計から巧妙に省かれることがある。 例題2:「第一寛解時の移植の成功率は60%、移植なしに治癒する可能性は30%、第2寛解時の移植の成功率は35%です」 第一寛解時に移植を決断すべきか、化学療法にして再発した場合に第2寛解で移植することにすべきか。このとき、単純に60%と35%を比べてはいけない。60%と65%(30%+35%)を比較するのでもない。 現時点からみて、後者のコースを選んだ場合の治癒率は、移植なしで治癒する率に、再発してから第2寛解にもちこめる確率と第2寛解の移植成功率を掛け合わせたものを、足した数字になる。 すなわち、移植せずに治癒する率が30%で、第2寛解導入率が25%で、第2寛解移植成功率が35%とすると、数式は30+70(再発率)×25×35=36%。 化学療法だけで治癒する率が50%で、第2寛解導入率が40%とすると、同じく計算式は50+50×40×35=57%。 強力な化学療法をしたあとで再発してしまった場合、骨髄移植ができる状態にもっていける確率がかなり低くなることにも注意すべきだ。 例題3:「うちで骨髄移植をした患者さんで、10人中8人が生存されています」 生存率は8割ということか。別の病院では6割と聞いた。こっちの病院がいい。そう思ったら間違いかも知れない。数字の定義の検討が必要だ。米国では「リンゴとミカンを比べるな」という。以下のように数字の定義はいろいろある。病院は高い数字を言いたがるので注意が必要。原則として、「5年無病生存率」で統一して(あるいはこれに修正して)比較するのがよい。 | |
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1、現在、生存している率。移植直後の患者も3年後の人もごっちゃまぜ。 例題はこの定義である可能性が高い。評価や比較がしにくい数字。 2、3年後(あるいは4、5年後)の生存率。白血病を再発して治療を継続している人や治癒断念段階の人も含む。次の無病生存率より高めに出る。 3、5年無病生存率。これが本来の治癒率で使うべき数字だろう。治療後5年たって、白血病なしに生存している場合。クオリティ・オブ・ライフ(生活の質=どの程度の通常生活が過ごせているか)という点でも、高いポイントであることが多い。 例題4:「残念ながらあなたの治癒率は20%です」 治癒率が80%でも、ある個人にとっては100%か0%。治癒率が20%でもこれは同じだ。「自分が治れば、自分にとっては100%」ということを忘れずに。 いずれにしても、お医者さんは数字を明確にはっきり言わない、言えない場合が多い。はっきり言わないのは成績が悪いと考えるのが順当だ。医療界でこんな慣行が通用しているのは信じられない。寿司屋の時価みたいで、明朗会計じゃあない。あるサービスをすすめておきながら、得られる期待度を説明しなくて良い業界は少ない。閉鎖的で特権的だった医療界ならではだ。医者の言い分は分かる。「うちは難しいケースを扱っているから不利だ。数字が低めに出る」とか。でも、それならそうと、数字を公開した上で説明すればいいことだ。 |
(米国でも移植センターの成績を完全にヨコ比較するのは困難です。でも、おおまかには分かります。移植成績という点では、ぜひインターネット上のこのサイト「移植成績」をご覧下さい。日本の大学別「生体肝移植」実施数・死亡数の集計表です。骨髄移植連絡協議会でも、ぜひ骨髄移植について同様のアンケート調査と集計を行っていただきたい。骨髄移植の対象となる血液疾患には種類が多く同列に扱えないのは承知していますが、まずこうした数字からしか始まらないと思う。こうした数字に、「当病院は慢性の経験が多い」「自家移植が得意」「難治性でも積極的に移植を行う」などの、コメントを付加すればよい。また、この集計表から、「生体肝移植」では京大が強力なセンターと化しているのが分かる。一カ所集中には長所短所あるが、どちらかというと経験の集約と統計的検証が進みやすいなどの長所が多い。個人的には骨髄移植でも少数の拠点が中核になった方がよいと思う) 数字を明確にする作業が終われば、もう一度数字を突き放す段階があるだろう。たかが数字である。治療の選択にはあなたの人生観が入る。右に行けば60%、左に行けば40%。順当には右に行くべきでも、自分はどうしても右には行きたくないと思うかも知れない。右に行ってだめなら左へ向かえばと考えるかもしれない。 でも、他人の治療経験から、ありがたいことに、ある程度先が読めるのだから、統計や確率も決して無視できまい。いずれにしても、後悔しないよう、数字の話はできるだけ早くから詰めておいた上で、決断したいものだ。 | |
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11 「中締め:新しい患者−医者関係の模索」
◇ここまでの教訓◇ |
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